45日間眠れない男? 思い込みの睡眠障害「逆説性不眠症」とは

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45日間眠れかったと訴えた男性がいました。45日間も睡眠をとらないでいられるのでしょうか? 実は、これ「逆説性不眠症」という睡眠障害です。

45日間眠れなかった男性

男性が、不眠をどうにかしてほしいと、かかっていた精神科医の紹介状を携えて、睡眠外来を訪れた。これまで睡眠薬による治療や認知行動療法を受けたが、効果がなかったと言います。そして男性は、こう訴えました。

「自分は一度も眠ったことがない。少なくとも、この45日間眠っておらず、数カ月に1日眠れるだけだ」

と。紹介状によると、男性は5年前まで8時間から9時間眠れていました。ところが、次第に寝つきが悪くなり、2年前くらいから症状がひどくなり、寝つくのに5、6時間もかかるようになりました。

別に夜間に頻尿があるというわけでもありません。日中には気だるさがあるものの、眠ることはないが、居眠りすると危険なので、自動車の運転は控えているというのです。過去2年間に、精神科に5回入院したことがあるが、看護記録によると、8時間から9時間ぐっすり眠っているとのことでした。しかし、その記録を見た本人は、

「そんなことはあり得ない。病院では一度も眠ったことなんかない」

と叫んだ。ありとあらゆる薬を試してきたが、不眠にはまったく効果がなかったといいます。そこで、アクティグラフという腕時計型の体動測定器を使って睡眠状態を調べてみると、その結果は、夜11時から朝7時まで、正常な睡眠パターンを示していました。

本人はそれでも納得がいかず、自分は一睡もしていないと言い張った。そこで、入院して睡眠ポリグラフ検査を行った。するときれいな睡眠脳波が認められた。一体、どういうことなのでしょうか? この症例は、典型的な逆説性不眠症のケースなのです。

逆説性不眠症とは

逆説性不眠症の特徴の一つは、不眠の訴えがひどく大げさで、ほとんどあり得ないことであることです。ずっと一睡もしていないとか、ほとんど眠れていないという訴え方をします。

第二の特徴は、それほど不眠が続いているにもかかわらず、比較的元気であるということです。ひどい「睡眠不足」にもかかわらず、あまり眠そうにもしておらず、また昼寝をしたりもしません。

三番目に、睡眠ポリグラフやアクティグラフで検査してみると、よく眠れていることが示されるが、このケースのように、それでもしばしば眠れていないと言い続けます。客観的な所見と主観的な実感が矛盾しています。それが、逆説性と呼ばれる理由です。

また、逆説性不眠症の患者は、いつも外界の物音が聞こえていると言ったり、ずっと考え事をしていると言ったりします。もちろん本人は、ウソをついているわけではありません。本人は大真面目に、感じたままを訴えているだけなのです。

逆説性不眠症の問題点の一つは、眠れないときのことを過大に受け止め、眠れたときのことはほとんど無視してしまうという睡眠に対する認知の歪みです。逆説性不眠症では、いくら眠っていても、眠れないという方向に、睡眠の認知がねじまげられているのです。

もう一つ考えられている問題点は、逆説性不眠症では、自分が眠ったことに対する認識そのものが阻害されていることです。そのため「睡眠状態誤認」とも呼ばれます。その原因としては、脳が過覚醒の状態にあるため、睡眠状態になっても、大脳皮質の一部、たとえば聴覚などの領域が活動を続けていることが考えられています。それにより、眠っている間も周囲の状況をずっと感じているため、眠ったとは感じられないということが起きてしまうのです。

逆説性不眠症は、慢性不眠症の5%程度を占めるとされています。重度で、執拗な不眠を訴えるケースにひそんでいる可能性があります。しかし、本人の苦痛は大きく、うつや不安症状を合併することも多いです。

逆説性不眠症の治療方法

逆説性不眠症と診断を行い、必要な睡眠はとれているので、何ら心配ないことを本人が理解することが重要です。通常の睡眠薬を投与しても、薬の量ばかりが増えて、薬物依存になるだけです。治療の必要性はないが、本人の苦痛が大きい場合には、過覚醒状態を改善するために、非定型抗精神病薬を投薬することもあります。

実際、思い込みの力とはすごいものです。精神病なども思い込みです。逆説性不眠症には注意しましょう。

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