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映画の『鉄道員』というと、1999年公開の高倉健主演作が有名だ。しかし今回紹介する作品は、その半世紀以上前の1956年に公開されたイタリア映画だ。原題はイタリア語の『Il Ferroviere』、英語版は『The RAILROAD Man』。鉄道員家族の末っ子の視点で家庭の崩壊と再生を描く。父親が働く鉄道現場の映像が興味深い。

○頑固な鉄道員と家族の絆。現在の日本にも通じるテーマ

マルコッチ家は5人家族だ。鉄道員の父アンドレアと、彼を理解し支える母サラ。長男マルチェロは定職につかず遊んでいる。長女ジュリアは商店の息子レナートと結婚した。しかしある悩みを抱えている。年の離れた次男サンドロはまだ小学生で、友達と遊ぶときはリーダーだけど、成績は落第寸前。

アンドレアは特急列車の運転士だ。酒が好きで、仕事が終わってもまっすぐ家に帰らず、パブで仲間と酔っ払って騒いでいる。そんな父親だが、次男のサンドロは誇りに思っていた。1950年代の鉄道といえば社会の主役であり、特急列車の運転士は子供たちの憧れでもあった。親友と酒場で楽しそうに歌う父もサンドロは大好きだ。

クリスマスの夜、マルコッチ家に嫁いだジュリアとその夫が訪れた。家族そろって過ごすクリスマス。サンドロは駅へ父を迎えに行く。しかしアンドレアはいつもの調子で親友とパブに寄る。そのとき、マルコッチ家では身重のジュリアが苦しみ出した。

その日以来、マルコッチ家は少しずつ壊れていく。アンドレアは事故を起こして左遷され、鉄道員の組合でも浮いた存在になってしまう。マルチェロは悪い友達と付き合っているらしい。ジュリアはレナートと不仲で、家を出て遊び始める。サンドロの進級問題なんて小さいことだ。そして、仕事や組合の問題で苛立ったアンドレアは、ついにマルチェロとジュリアと大げんか。母は心を痛め、サンドロは心配する。

まるで橋田壽賀子ドラマのような展開で、1956年のイギリス映画なのに共感できる部分が多い。主人公は父だが、物語は幼いサンドロの視点で描かれている。サンドロのナレーションのひとつひとつが、家族とは何か? どうしたら幸せになれるか? と観る者に問いかける。日本映画だと、『大いなる旅路』が似ているかもしれない。三國連太郎演じる機関士とその家族の物語だ。『鉄道員』は1956年。『大いなる旅路』は1960年。影響を受けた可能性はある。

もっとも、そんな理屈抜きで、とにかくサンドロがかわいい。演じているエドアルド・ネヴォラは当時8歳。ぽっちゃりした体つきに、パッチリとした目で喜怒哀楽を演じきっている。天才子役である。男である筆者でも、母性をくすぐられてしまう。バラバラになっていく家庭環境の中で、どうしたらこの子の笑顔が見られるだろうと祈ってしまう。その願いは叶うのか、ラストシーンまで観客を引き込んでいく。

○電化が進むイタリア国鉄、無骨な電気機関車と蒸気機関車が共演

家族を描く作品ながら鉄道の場面も多く、鉄道ファンを楽しませてくれる。ファーストシーンはサンドロが父を迎えに駅へ走って行く場面。背景が連接車体のトラムだ。そして駅。ヨーロッパの鉄道にしては珍しく改札口があり、サンドロはうまいことを言って通り抜ける。駅や街のにぎわいも興味深い。

海外の古いモノクロ映画のため、鉄道車両の詳細は不明で資料も少ない。そもそもロケ地がわからない。アンドレアが乗務する電気機関車は鉄仮面のように無骨なデザインだ。ほかに凸形の電気機関車も登場する。映画情報サイトやイタリア版Wikipediaを見比べると、電気機関車はE428形といって、鉄仮面タイプと凸形タイプの両方が混在していたらしい。特急列車の牽引機でもあるし、日本の機関車に例えるならEF58だろうか。

電化区間が多いけれど、蒸気機関車も2台登場する。1台は本線の貨物列車牽引機。もう1台は入替え用の小型タンク車だ。イタリアは幹線の電化が完成し、蒸気機関車から電気機関車へ交代する時期だったようだ。1956年といえば、日本でも東海道本線の全線の直流電化が完成した時期である。なお、この作品ではアンドレアが左遷して小型蒸気機関車に乗務する場面がある。最新の電気機関車と、服が煤だらけになる蒸気機関車の対比が、アンドレアの境遇の変化を象徴的に示している。

列車全体の走行シーンは少ない。もっと見せてほしいと思う。もっとも、アンドレアの視点であるから、列車について客観的な描写は不要という判断かもしれない。機関車にカメラを付けないと撮れないような前面展望場面がある。イタリア国鉄が協力的だったと思われる。それにしては飛び込み自殺や列車事故寸前の場面もある。イタリア国鉄はよほど寛容か、映像芸術に理解があったのだろう。日本の国鉄ならこうはいかなかったはずだ。

冒頭で、列車が駅構内に入る場面。前面展望で線路が分岐と合流を繰り返す。鉄道ファンにとっては楽しい映像だ。しかし、もしかしたら、監督はこの分岐と合流を、これから始まる家族の運命になぞらえたかもしれない。

○映画『鉄道員』に登場する鉄道風景

(杉山淳一)