■試合に出たいという素直な気持ちを大切にした

「J2に行くことで今より厳しい状況になっていくというのは覚悟して来ました。ここでダメだったら次はないという強い気持ちで来て、もう一回サッカーと向き合えたのが一番大きかった」

J2第39節の東京∨戦で勝利(2-1)をおさめた富山の白崎凌兵は、今年夏に清水から期限付き移籍をした決断について少し間を置いてこう答えた。山梨学院大付属高校在籍時代からプロ注目のタレントとして、プロ入り前にはJリーグの7クラブからオファーを受け、昨年清水に鳴り物入りで入団。しかし、彼ほどの才能を持ってしてもJ1の強豪クラブでコンスタントに試合出場機会を得ることはできなかった。

今季より23歳以下の選手の期限付き移籍が自由化されたとはいえ、まだまだプロ入り1年目、2年目は入団クラブでプロとしての土台を作る“修行期間”的な考えが一般的で、尚且つ選手にとってもカテゴリーを下げた期限付き移籍は「都落ち」のマイナスイメージが伴う。ただ、近年は顕著にこの問題が指摘されてきたことで着実にその風向きは変わりつつあることを白崎の発言で確認させられた。

白崎は、「J2だからといって(レベルが)落ちるとは思わなかったですし、柿谷選手、齋藤学選手のようにJ2を経由して活躍している選手もいます」とした上で、「エスパルスに残ってやる方が楽だったですけど、そういう道を選ばずにもう一回試合に出たいという素直な気持ちを大切にしました。(富山移籍にあたっては)色々な人に相談しましたけど、やはり『若い時は試合に出ている方がいい』と言ってくれる人も多かったですし、そういう人たちの声は後押しになりました。でも、最終的には自分の気持ちを大切にして選びました」と移籍の経緯について語った。

■白崎がJ2でプレーすることでリーグのスペクタクルは増す

富山移籍直後からレギュラーの座を獲得し、存在感溢れるプレーで攻撃を牽引すると同時に、ゴールという結果も出している白崎だが、移籍から10試合目の東京∨戦では安間監督が白崎を「最後のスルーパスを通す、ゴールを決めることのできるスペシャルな選手」と評するまでにチームに溶け込んでいた。白崎本人も「一番変わった点は守備のところ。前はあそこまでアグレッシブに守備に行かなかった」と話すように、攻撃における関わりのみならず前線でのチェイスとハードワークをこなせるフォワードに進化しつつある。

その背後にあるのが、「本当にチーム、11人で戦っているうちの一人」という意識の芽生えと本人は説明する。「一人サボったら守れるチームじゃないし、その弱さというのはみんなもそうだし、僕自身も理解しているのが僕らの強み」というように、特定の個人に依存したサッカーでは勝てないチームに来たことによってユース時代までとはまた違ったサッカーに浸りながら、プロの世界で生き抜くためのベースを着実に習得している。時にマンツーマンで自らのプレー分析を行なってくれるという安間監督との信頼関係もすでに強固に築き上げており、「安間さんは、サッカーのことならとことん付き合ってくれる監督で、そういう監督に出会えたのも僕自身大きい」と語る。

また、客観的に東京∨対富山のゲームを振り返っても、白崎のようなこれからの日本サッカーの未来を担うようなタレントがJ2でプレーすることによってJ2のクオリティやスペクタクル性は確実に増す。ある種、ゲームの質は度外視に「あの選手見たさ」でサポーターを呼べる訴求力を持っている。チーム強化として期限付き移籍ばかりを用いる手法は難しいのかもしれないが、J2クラブは大卒やJ1で衰えを見せるベテラン選手ばかりではなく白崎のようなタレントをユース年代から着目し、J1クラブが獲得を決めた瞬間から育成目的の期限付き移籍の環境を提供するような意図的かつ積極的なJ2クラブの強化戦略、アプローチが当たり前のレベルになってもいいのではないだろうか。

■著者プロフィール
小澤一郎
1977年、京都市生まれ。サッカージャーナリスト。スペイン在住歴5年を経て、2010年3月に帰国。スポナビ、footballista、サッカークリニック、サッカー批評、サッカー小僧、ジュニアサッカーを応援しよう!などで執筆中。

著書に『スペインサッカーの神髄』(サッカー小僧新書)がある。また、「まぐまぐ」より、メルマガ『小澤一郎の「メルマガでしか書けないサッカーの話」』を配信中。