格闘技好きなら誰もが知っているであろう「左を制する者は世界を制する」という言葉。これは左ジャブで試合の主導権を握ることの重要性を説いたものです。とはいえ、一般的には左ジャブはあくまで"効かせる"パンチではなく、フィニッシュブローにつなげるための"当てる"パンチ。ところが、格闘家の中には強力な左ジャブで相手をKOしてしまう選手もいます。かつてK−1で活躍したセーム・シュルト選手などもそのひとり。実はこの強力な左ジャブを生み出すのには、ある秘訣があるのだとか。谷本道哉氏、荒川裕志氏の著書『強くなる近道 力学でひもとく格闘技』によれば、「タメが少なくモーションが小さい左でも全身を上手に使えば十分に効かせることができる」といいます。そこには「ひねり」が関わってくるといい、具体的に次のように解説します。「腕を使って相手を叩くパンチ動作は、野球の投球と同様に下肢による骨盤の回転が動きの起点となります。続いて体幹の回転が起こり、最後に腕が出てきて拳を相手にあてます。『骨盤(下肢の力発揮による)→体幹→上肢』と下から順次うねり揚げるように動作して、全身で生み出した運動エネルギーを拳(ボール)へと伝えていきます。野球ではこれを『うねり動作』と呼んだりします。さらに前方に踏み込む動作で全身がパンチと同方向に運動量をもつことでパンチの衝撃力を高めます」書籍では、写真とともに(1)後ろ足の踏み込み→(2)下肢による骨盤の回転(右腰を引く回転)→(3)体幹の回転(左肩が出る)→(4)上肢の振り(左拳が出る)と、うねりを使った左ジャブの方法を解説。セーム・シュルト選手は2メートルを超える巨体の選手でしたが、その体が「うねり」を利用すれば、たとえ左ジャブであってもKOできるのは納得です。しかしこの「うねり」、一方で弱点にもなるのだとか。書籍では次のようにつづられています。「左にしても右にしても、"うねり"を使ったパンチは、ほんのわずかな時間差ですが手よりも先に腰、肩が動きます。この予備動作があるために相手に前もって攻撃することを知らせてしまうという問題があります。いわゆる"テレホンパンチ"になるという問題です(前もって電話で知らせるという意味から)」この微妙な動きを悟られると、相手に攻撃が読まれてしまうリスクがあるとのこと。しかしこのテレホン、悪いことばかりではないのだそう。逆手にとってフェイントに使うことができるからです。「例えば、肩の動きなどの予備動作でパンチを撃つフリを見せてガードをあげさせたところにボディを打ち込んだり、予備動作の大きい"テレホンパンチ"を何度か見せた後に突然予備動作の無いパンチを放つといったテクニックに使えるわけです。レイ・セフォー選手などはこのようなテクニックが上手です。私自身、空手の試合においてこの『いたずら電話』のテクニックをよく使っていましたが、熟練した選手ほど小さな予備動作のフェイントにも引っかかってくれていました」相手の細かな動作を読むことができるベテランだからこそひっかかる『いたずら電話』。往年の格闘家たちは、そうしたわずかな動作を見ながら駆け引きをしていたんですね。著書ではレイ・セフォーやセーム・シュルトなど、かつてのK−1ブームを支えた選手の名前も登場し、格闘技ファンはより楽しみながら読める内容になっています。一方で気になるのは、そんな往年の名選手たちの現在。K−1四天王と呼ばれたアンディ・フグは日本で死去し、マイク・ベルナルドは昨年自殺したことが報じられました。さらに四天王のひとり、ピーター・アーツは12月21日に有明コロシアムで行われる「GLORY13 TOKYO」で引退することを表明。日本のK−1ブームの創生期を築いた選手だけにその扱いは大きく、渋谷駅には全長30メートルにも及ぶ彼のインタビュー記事が壁面広告として張り出され、「棺桶」に入ったアーツの写真も掲載されています。ちなみにこの"棺桶広告"は11月25日までの掲載とか。書籍も広告も、読んでいるうちにK−1全盛期を思い出すはず。12月21日にピーター・アーツがどのような花道を飾るのか、注目です。【関連リンク】GLORY13http://glory13.jp/
『強くなる近道 力学でひもとく格闘技』 著者:谷本 道哉,荒川 裕志 出版社:ベースボールマガジン社 >>元の記事を見る

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