勝てた試合だった。石川遼は、過去2勝を挙げている三井住友VISA太平洋マスターズ最終日、首位の谷原秀人を猛追した。通算14アンダーでスタートした谷原が思うようにスコアを伸ばせない中、5打差で追う石川は前半9ホールで3バーディー(ノーボギー)を奪って、一気に差をつめたのだ。しかし後半、石川はふたつのボギーを叩いてしまい、結局、谷原に一打及ばず、通算12アンダー2位タイで終えた。

 舞台は、相性抜群の静岡・太平洋クラブ御殿場コースである。ホールアウト後、石川は連覇を逃した失望感より目標としていた「16アンダー」を達成できなかったことをまず悔いた。

「昨年、自分の優勝スコアが15アンダーだったので、『16』という数字を目指していました。(今回の結果は)優勝に1打差とはいえ、自分の目標に届かなかった。そのほうが優勝を逃したことよりも悔しいですね。今日は後半、特にトリッキーな風が吹いていた。そこで、前半のような、風に惑わされないスイングができなかった」

 最近の石川は、上位争いに加わってもかつてのように「優勝を狙う」というような発言は一切なく、大会毎に目標スコアを掲げ、そのノルマをクリアしていくことを自身に課している。すでに新シーズンが始まった米ツアーの第2戦、シュライナーズホスピタルオープン(10月17日〜20日/ネバタ州)でも、「4日間で16アンダー」を目指し、そのノルマを達成することで、2位タイに食い込んだ。

「どのコースに行っても、一日4バーディーを最低限の目標にしている。時によっては、4バーディーが最高の目標になるかもしれませんけど......。たとえ(コースセッティングの難しい)全米オープンや日本オープンでも、一日4バーディーを目指していくことが、好結果につながっていくと思っています。一日18ホール回れるわけですから、せめてそのうち4つは取ろうと」

 いたずらに優勝を口にするよりも、足もとを見つめて優勝争いを続けることで、いつか"その日"は訪れる。その日とは、無論、米ツアーでの初優勝であり、将来のメジャー制覇だ。それを確信するからこそ、今季3戦目の参戦となる日本ツアーでも、石川は米国で戦う姿勢を貫こうとした。今の彼ならば、たとえ国内で優勝したとしても、ノルマを達成できなかったならば後悔の念を口にするかもしれない。

 昨年の大会後、石川は米ツアーに本格参戦を果たした。そして、シード権取得に奔走したこの1年を、「長かった」と振り返った。これまでと異なる1年を過ごし、慣れ親しんだ太平洋クラブ御殿場コースの風景も違って見えた。

「コースは変わっていないけど、自分が変わったのか、傾斜がもっときついと思っていたところがきつくなかったり、思ったよりもバンカーとエッジの間にスペースがあったり、ということがありました」

 今年の序盤は腰痛を抱えながら、東西で異なる米国の芝質に戸惑い、またスイング改造に時間がかかり、予選落ちを繰り返した。夏場にはパッティングで苦しみ、目標の米ツアーのシード権獲得はならなかった。だが秋以降、腰痛の不安が軽減すると、米国で1年戦ってきた成果が表れ始めた。

 9月の米ツアー出場権を争う下部ツアー選手との入れ替え戦では、4戦中3戦でトップ10フィニッシュを決めて、難なく2013−2014年シーズンの出場権を獲得した。休む間もなく始まった新シーズンの開幕戦を21位タイで終えると、第2戦では自己最高位に並ぶ2位という好成績を残した。その調子を現在も維持しつつ、アメリカで培ってきた経験は、当然ながら自身の成長を促し、ゴルファーとしての視野を広げることにつながった。それが、今大会の好プレイにもつながり、石川本人も自身の成長をあらゆる場面で感じ取っていた。

 さらに今大会前には、パターをL字マレット型からピン型タイプに変更した。これまでより2インチ短いシャフトにして、スタンスを広く、そして重心を低く構えて打っていく。スタート前やラウンド後の練習グリーンでは、自作の練習器具を持ち込んで、スタンスの確認作業を繰り返していた。

「3mから5mの距離になると、どうしても軸がぶれているような気がしていたんです。いかに機械的に同じストロークを繰り返せるか、が大事ですから」

 ちょうど1カ月前、「パッティングがゴルフというスポーツの8割を占める」と語っていた石川は今年、パター変更を幾度も繰り返し、スイング以上に試行錯誤の日々を送ってきた。今回のスタイルチェンジも、得意とする太平洋クラブ御殿場コースだからこそ、挑戦し得たものだ。

「(高速グリーンで知られる)ここでは繊細なタッチが求められますけど、自分がいちばん得意としているグリーンだとも思っている。そういうグリーンで自分の新しいパッティングスタイルを試せて、初日から(自分の中では)いい形として身になっていた。今日も1番のスタートからいいタッチが決まりましたし、全体的には悪くなかった。今の自分にとって大事なのは、同じ練習を繰り返して、コース上でも練習と同じことをやれるようになること。特にパッティングはこれからだと思う」

 だからこそ、石川は刹那的な結果を求めていない。目の前の一勝に気負うこともない。今はただ、アメリカでの勝利のために、確実な一歩を刻もうとしている。

柳川悠二●文 text by Yanagawa Yuji