楽天の三木谷浩史・社長兼会長は夫人や資産管理会社の持ち分を合わせると楽天株の約4割(約5億株)を保有する大株主だが、今年になって保有株のうちおよそ3%分の約3600万株を売却していた。

 三木谷氏が関東財務局に提出した大量保有報告書の変更届によると、売買方法は2月22日から7月19日まで101営業日にわたって、1日あたり数十万株ずつ市場で売却するやり方で、売却日の株価(終値。以下同)をもとに試算すると、売却総額は約396億円に達する。最初に売却を始めた2月の株価から比べると、ざっと100億円の売却益をあげた計算だ。

 三木谷氏の言動と楽天株売却の経緯を詳しく辿ると、興味深いことが見えてくる。

 安倍政権発足で今年1月に設置された「産業競争力会議」の議員に就任した三木谷氏は、第一回会議(1月23日)に「Japan Again」と題する資料を提出し、その中で医療のIT化として医薬品のネット販売を提案。さらに第2回会合(2月18日)では、医薬品ネット販売や行政手続きの完全オンライン化など、「インターネットを対面に代わる手段として認めることを国家方針として明確に宣言」することを特別提案した。

 三木谷氏が大手信託銀行と保有株3600万株分を今年中に売却するという「株式処分信託契約」を結んだのはその直後、「2月21日」(大量保有報告書)のことだ。いわば楽天株の「売り予約」をしたわけである。

 当時の楽天の株価は年初(1株=678円)から上がっていたとはいえ、まだ1株=837円の水準だった。今から振り返れば、自ら参加するアベノミクスで株価が上がるという「先見の明」があったといえるが、実際に、その後、三木谷氏が産業競争力会議などで発言し、薬のネット販売解禁が安倍政権の規制緩和のシンボルとして注目されるたびに、楽天の株価も上がっていった。

 会議での発言と株価を重ねると、それがよくわかる。

「インターネットを通じたOTC(大衆薬)、処方箋薬の販売について、実際上は対面であろうがなかろうがあまり関係ないと思うし、インターネットの方が詳しく説明できると思うのでぜひ検討していただきたい」(3月29日の会議。翌営業日の株価=926円)

「インターネットの医薬品販売についても完全自由化にする必要があるし、医療、教育、行政手続き問題等、すべてをインターネット・ファーストでやっていただきたいと思っている」(5月29日の会合。翌営業日の株価=1170円)

 ちなみに三木谷氏が最も大量に保有株を売却したのは、日経平均が1万5000円に向けて高騰していた5月上旬というベストのタイミングだ。

 こうみると、値上がり確実だと想定した取引ではなかったのかと勘ぐりたくなるが、大手信託銀行はこう説明する。

「株式処分信託は上場企業のオーナーなどを対象にした商品です。オーナーや経営者が直接、自社の株を売却するとインサイダー取引規制に抵触しかねないリスクがある。そこで信託銀行が処分したい株の信託を受け、決められた期間に独自の判断で売却する。株価に影響しないよう細かく市場で売るのが原則です。この信託方式であれば、オーナーの方がインサイダーに問われることにはなりません」

 経営者としてのコンプライアンスはしっかり守られているというわけだ。

※週刊ポスト2013年11月29日号