地獄のエレベーター(ちゃおホラーコミックス)

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 普段何気なく使っているエレベーターは、人間の日常生活に必要不可欠な存在でありふれたものだ。だが、使用中は極端にせまい密室という特殊な空間を生み出すがゆえか、しばしばホラーやサスペンス映画の題材となる。近年ではその名もずばり『エレベーター』(2011年アメリカ)や、『デビル』(2010年アメリカ)などがエレベーターを舞台にした映画だった。もう少し前の作品であれば、エレベーターが生きているというトンデモ設定の『ダウン』(『悪魔の密室』のリメイク。2001年アメリカ)がある。
 
 ちゃおホラーフラワーコミックから発売された『地獄のエレベーター』(著:今井康絵)に収録された表題作は、まさにエレベーターを舞台にした少女向けホラーマンガだ。この単行本は表題作の他に5話収録されている。

※ここから先はネタバレになります。ご自身の責任のもとお読みください。

 表題作の『地獄のエレベーター』はちょっとしたソリッドシチュエーションスリラーだ。アイドル志望の少女がオーディション会場のビルに設置されたエレベーターに乗ったところ、「イジメ加害者矯正プログラム」なるものが発動し、中に閉じ込められてしまう。その場で「はい」「いいえ」で答える○×クイズを出され、全問正解しないと処刑すると宣告される。いわゆるデス・ゲームに巻き込まれてしまうのだ。

 少女はアイドル志望なだけあって外見はかわいいのだが、実はかなりの性格ブス。道で遊ぶ幼い子供を蹴り飛ばすわ、電車で優先席に座り、お年寄りに席はゆずらないわで、とにかく乱暴で素行が悪い。矯正プログラムを受けることに当然反抗するわけだが、壁の向こうからは叫び声が聞こえてくる。それにより実際に処刑が行われていることが分かり、生き延びるには全問正解するしかないと覚悟する。少女はなんとか全問クリアし、ビルの最上階にたどり着く。そこには同じイジメ加害者矯正プログラムを生き延びた少女たちがいた。そして最後の指示がくだる。

「奥のドアに最も早くたどり着いた1名が生きて帰れる」

 少女たちは生還したい一心でドアに駆け出すが、主人公の少女は走らなかった。
 彼女が最後に選んだ選択は――?

 平和な日常から一転、いきなりデス・ゲームに巻き込まれるのは『バトルロワイアル』(著:高見広春)や、大ヒットを記録したソリッドシチュエーションスリラーの代名詞的映画『SAW』シリーズを彷彿させるが、単なるエンターテイメントだけではなく、イジメ加害者を改心させるという社会派の性格を持たせているのがこの物語の特徴だろう。イジメというのはこのマンガの読者層である子供たちにとって、それこそ生か死かの大問題だ。

 物語の最後は「この世の全ての選択肢は生き残るためのオーディション。正解を踏み外せば死あるのみ」という独白で終わる。言っていることは実に正しい。「人生は選択の連続である」と、かのシェークスピアも名言を残している。しかし、最後でこの独白には少々違和感を覚えた。そもそもイジメの加害者を矯正することと、「この世の全てが選択肢が生き残るためのオーディションである」ということは、別次元の問題だからだ。冒頭の設定であるオーディションに物語のラストをかけ、うまくまとめた感はあるものの、そこだけは気になった。

 とは言え物語の設定はとてもユニークだった。『世にも奇妙な物語』などに採用されても違和感はないだろう。もっともっと細かく設定をつめていけば、アメリカのB級ホラー映画規模に膨らませることもできそうな佳作となっている。

 表題作の他には少女コミック版『es』(スタンフォード監獄実験(※1)をもとにしたドイツ映画)のような『魔女裁判』、『五分後の世界』(著:村上龍)のような突然別世界の戦場にワープしてしまう『鏡のむこうのセカイ』などが非常によくできていた。

 収録された中で一番のトンデモ話は『肉のヨロイ』だろう。ここではあえて内容の説明は避ける。オチも設定もめちゃくちゃで荒唐無稽なのだけれど、B級色全開なところが王道のホラーっぽくもあり、子供向けマンガらしくもある。突っ込まずにはいられないラスト1コマは、収録作の中で一番の目玉だろう。

 いずれにせよ様々なタイプの物語を楽しめる本作は、少女向けホラーマンガとして十分に成功している。ぜひ本書を手に取り、表題作とその他を堪能した後、『肉のヨロイ』でひっくり返っていただきたい。
(文=Leoneko)

 ※1 スタンフォード監獄実験とは、1970年代アメリカで行われた心理学の実験のこと。一般学生を看守役と囚人役に分けて仮の収容所を作り、その役割を演じさせることで、単なる役割が人間の行動に与える影響力を調べた。