『にえるち』(祥伝社)

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 兄と妹が恋に落ちる、もしくはどちらかが一方的に好きになる、なんていう物語はライトノベルでは王道の設定だ。物語が完結したいまもメディア展開し続ける大ヒット作『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』や、アニメ化も実現した『お兄ちゃんだけど愛さえあれば関係ないよねっ』『この中に1人、妹がいる!』などが記憶に新しい。

 ライトノベルなどに見られるいわゆる「妹系」作品は純粋な恋愛物語ではなく、言わばドタバタコメディーに近く、読者が楽しみを置くポイントが物語より、キャラクターのかわいらしさだとか突拍子もない行動、設定された世界観などになっている。

 新人作家"のばらあいこ"氏が手がけた最新作『にえるち』は、言ってしまえばいまのライトノベルで王道の設定である兄と妹の物語だ。しかし決してドタバタコメディーなどではない。テーマは近親相姦だ。異母兄妹の妹のルミナの視点で、幼い頃から女子高生、そして大人になるまでがひたすら現実的に描かれている。

 2ヶ月差の異母兄妹であるセラとルミナ。 父と二人の母たちに仲良く育てられた結果、男女として自然に惹かれ合い、高校生のときに一線を越えかける。 しかし実の父親に見つかり、離別する。大人になって、偶然の再会を経て再び2人は惹かれ合う。兄妹なのにも関わらず。最終的に2人の選んだ道は――。

 『にえるち』は大人の女性向けの漫画で、ライトノベルとは全く異なるアプローチのリアルなフィクションであり、恋愛物語だ。女性作家ならではの繊細なタッチの絵と最小限のセリフ、描写説明は、漫画を読んでいるというよりも、透き通った文体の私小説を読んでいるような錯覚を起こさせる。セリフのないコマと空間が読者に与える空気は、痛々しくもあり切なくもなる。この物語の中では、とろけるようなかわいい少女も、王子のようなイケメンも、一切出てこない。出てくるのは繰り返し叩きつけられる残酷な現実に苦しみ悩む男女だけだ。

 兄妹愛という言葉はどこかかわいらしく、微笑ましいものだが、近親相姦という言葉に置き換えた瞬間に重くなり、笑顔はなくなる。『にえるち』にはテレビの妹系アニメでは決して見ることのできない重みと深い悲しみが延々と漂っているのだ。

 普段妹系アニメを好んで読んだり見る男性も、たまにはこういった重苦しい物語に身を置いてみるといいだろう。兄妹愛というものがもしも現実に起きた場合、――こんなにも苦しくて悲しい世界になるかもしれない――ということを教えてくれる。
(文=Leoneko)