わざわざ「ガロ」まで購入する無駄なやる気が光る!

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「取材じゃなくて、オマエの趣味だろ」と編集部にも突っ込まれるほど、筆者が繰り返し通っている信州の町・伊那市。とはいっても、この町は幾度も記事にしている『究極超人あ〜る』をはじめ、さまざまな作品の聖地なのだ。ホラ、市内を走る飯田線を豊橋方面へと向かえば『咲-Saki-』の聖地である七久保駅もあるわけだしさ。

 そして、この町はオタクだけでなく、サブカル系なマンガファンの聖地でもある。それは、つげ義春が『無能の人』で描き、故・永島慎二が『風狂の人』で取り上げた、放浪の俳人・井上井月のゆかりの町だからだ。そんな伊那の町の博物館にあたる伊那市創造館で、現在開催されているのが「千両千両 井月展〜井月の真筆とさまざまな井月像〜」である。近年は映画化もされた井月の真筆やゆかりの品も展示される、このイベント。でも、マンガファンにとって目を見張るのは、「さまざまな井月像」として展示された、つげ義春と永島慎二の作品である。やっぱり、井月を、よく知られる存在にしたのは、これらの作品。それゆえに、原画の展示は絶対に外せない。

 だが、永島の作品は原画が展示されているものの、つげの『無能の人』はコピー。実は、今回の企画展にあたって、つげにも原画の貸し出しを求めたのだが、本人から「もう、井月から気持ちが離れているので、お貸しできない」と断りの手紙があったとか。でも「本をコピーして展示するのはかまわない」というあたり、つげ先生、いい人!

 さらに、展示では同館の捧剛太館長がヤフオクで落札した「ガロ」の特集号も。そして、なぜか永島の代表作ともいえる『漫画家残酷物語』も「ご自由にお読み下さい」と置いてあるではないか! どうしたのかと思ったら、永島の遺族は原画と共に読んでほしいと送ってくれたのだとか。う〜む、なんと気持ちのいい人たちであろうか。

 さらに、もうひとつ驚いたのが、なぜか、橋爪まんぷの作品も展示されていたことである。おそらく「橋爪まんぷって誰?」と、この記事を読んでいる読者の9割は思うはず。橋爪は、長野県の諏訪〜上伊那地方でシェアを誇る地方新聞「長野日報」で4コママンガ『オジやん君』を29年あまりも連載していることで知られる「ご当地マンガ家」である(そんなカテゴライズがあるかは知らん)。その長期連載の功績によって、2008年には日本漫画家協会賞「特別賞」を受賞している。

 現在も伊那市在住の地域限定有名人なのだが、いったいなぜ、ここに展示しているのかと同館に尋ねてみたところ「ご本人から"ぜひ、自分の作品も展示してほしい"と展示する用具も持参でお越しいただいたので」とのこと。う〜ん、このアバウトさがたまらない!

 ちなみに、この展示が行われている伊那市創造館は、もとは1930(昭和5)年に上伊那図書館として開館した建物。その外壁は高遠焼のタイルで覆われているのだが、制作にあたって招かれた技師の息子が、終戦直後に子供たちを熱狂させた野球マンガ『バット君』の作者・井上一雄だったのだとか。

......やっぱり、伊那谷にはマニアックな文化が集う、なにかがあるのかも?
(取材・文/昼間 たかし)

■『千両千両 井月展〜井月の真筆とさまざまな井月像〜』
場所:長野県伊那市荒井3520番地 伊那市創造館
期間:開催中〜12/27まで
時間:午前10時〜午後5時。火曜と祝日の翌日休館。
料金:高校生以上200円、小中学生100円
http://www.city.ina.nagano.jp/view.rbz?of=3&ik=0&pnp=14&cd=7660