かつては20代後半でピークを迎えるといわれたボクシングだが、近年は運動生理学やサプリメントの充実、さらには団体や階級の増加もあり、トップボクサーの選手寿命は驚くほど長くなっている。48歳で世界ライトヘビー級王座を保持しているバーナード・ホプキンス(アメリカ)は特別としても、30代半ば〜後半の世界王者は珍しくなくなった。彼らの多くは実績と知名度を兼ね備え、もちろん実力も折り紙つき。業界の核ともいえるスター選手の年齢が比較的高いのは、当然といえば当然である。しかし、世代交代は絶対的に必要なものでもある。そこで今回は、ボクシング界の次世代のスター候補生を探ってみた。

 まずは、現在のスター選手をおさらいしてみよう。ボクシングの世界には、『パウンド・フォー・パウンド(PFP)』という、選手の体重を同一と考えて強さを計る仮想ランキングがある。過去の実績や近況、どんな相手と戦い、どんな結果を残したのか――そういった点が加味された偏差値のようなものだ。このランキングがそのまま選手の人気を反映しているわけではないが、参考にはなるだろう。アメリカの専門誌『リング』と、専門サイト『BOXREC』の10傑は、下記のとおりだ。

【リング誌】
1位 フロイド・メイウェザー・ジュニア(アメリカ・36歳)
    [WBC世界ウェルター級、WBA&WBC世界スーパーウェルター級王者]
2位 アンドレ・ウォード(アメリカ・29歳)
    [WBA世界スーパーミドル級スーパー王者]
3位 ティモシー・ブラッドリー(アメリカ・30歳)
    [WBO世界ウェルター級王者]
4位 ウラジミール・クリチコ(ウクライナ・37歳)
    [WBA世界スーパーヘビー級、IBF&WBO世界ヘビー級王者]
5位 セルヒオ・マルチネス(アルゼンチン・38歳)
    [WBC世界ミドル級王者]
6位 ファン・マヌエル・マルケス(メキシコ・40歳)
    [前WBO世界スーパーライト級王者]
7位 マニー・パッキャオ(フィリピン・34歳)
    [前WBO世界ウェルター級王者]
8位 エイドリアン・ブローナー(アメリカ・24歳)
    [WBC世界ライト級、WBA世界ウェルター級王者]
9位 サウル・アルバレス(メキシコ・23歳)
    [前WBA&WBC世界ヘビー級王者]
10位 ギレルモ・リゴンドウ(キューバ/アメリカ・33歳)
    [WBA&WBO世界スーパーバンタム級王者]

【BOXREC】
1位 フロイド・メイウェザー・ジュニア(アメリカ・36歳)
2位 ウラジミール・クリチコ(ウクライナ・37歳)
3位 ティモシー・ブラッドリー(アメリカ・30歳)
4位 ファン・マヌエル・マルケス(メキシコ・40歳)
5位 サウル・アルバレス(メキシコ・23歳)
6位 セルヒオ・マルチネス(アルゼンチン・38歳)
7位 カール・フローチ(イギリス・36歳)
    [WBA&IBF世界スーパーミドル級王者]
8位 バーナード・ホプキンス(アメリカ・48歳)
    [IBF世界ライトヘビー級王者]
9位 ダニー・ガルシア(アメリカ・25歳)
    [WBA&WBC世界スーパーライト級王者]
10位 ゲンナジー・ゴロフキン(カザフスタン/ドイツ・31歳)
    [WBA世界ミドル級王者]

 2位以下はバラつきがあるものの、5階級制覇の実績を持つメイウェザーが「最強」であることに、異論の余地はあるまい。この数年、2位以下に大きな差をつけて最強の座を独走しているメイウェザーは、今春、アメリカのテレビ局と30ヵ月に6試合、合計2億ドル(約197億9000万円)という驚愕の契約を交わしており、最低でもあと4度は雄姿が見られる予定だ。しかし、来年2月には37歳になる。世界のボクシング界も、いつまでもメイウェザー頼りというわけにはいかない。

 同じことは、12月に35歳になるパッキャオや、ヘビー級王座を7年間に15度防衛中のウラジミール・クリチコ、拳の負傷で療養中のマルチネス、四十路に入ったマルケスにもいえる。彼らに多くを望むのは酷というもので、ましてやボクシング界の将来を託すのは危険でもある。そこで、次世代のスター候補を探ってみた。以下の10人は、ボクシング関係者の評価をともに、筆者が選んだ候補である。

1位 エイドリアン・ブローナー(アメリカ・24歳)
    [WBC世界ライト級、WBA世界ウェルター級王者。27戦全勝22KO]
2位 ゲンナジー・ゴロフキン(カザフスタン/ドイツ・31歳)
    [WBA世界ミドル級王者。28戦全勝25KO]
3位 ミゲル・アンヘル・ガルシア(アメリカ・25歳)
    [WBO世界スーパーフェザー級王者。33戦全勝28KO]
4位 サウル・アルバレス(メキシコ・24歳)
    [前WBA&WBC世界スーパーウェルター級王者。44戦42勝30KO1敗1分]
5位 ノニト・ドネア(フィリピン/アメリカ・30歳)
    [前WBO世界スーパーバンタム級王者。34戦32勝21KO2敗]
6位 ローマン・ゴンサレス(ニカラグア・26歳)
    [WBA世界ライトフライ級スーパー王者。37戦全勝31KO]
7位 ダニー・ガルシア(アメリカ・26歳)
    [WBA&WBC世界スーパーライト級王者。27戦全勝16KO]
8位 デオンテイ・ワイルダー(アメリカ・28歳)
    [WBC世界ヘビー級3位。30戦全KO勝ち]
9位 ゲイリー・ラッセル・ジュニア(アメリカ・25歳)
    [WBO世界フェザー級1位。23戦全勝13KO]
10位 テレンス・クロフォード(アメリカ・26歳)
    [WBO世界ライト級1位。22戦全勝16KO]

 1位のエイドリアン・ブローナーは、自他ともに認める「メイウェザーの後継者」で、スピードと強打、テクニックを併せ持ったオールマイティの選手だ。すでにスーパーフェザー級とライト級、ウェルター級の3階級を制覇している。

 2位のゲンナジー・ゴロフキンは、9連続KO防衛中のWBAミドル級王者で、ロンドン五輪ミドル級金メダリストの村田諒太(三迫ジム)に、「今の自分では勝てない」といわしめた強打者。28戦全勝(25KO)と、現役世界王者のなかでは最も高いKO率(約89%)を誇る。

 3位のミゲル・アンヘル・ガルシアは、33戦全勝(28KO)の万能型強打者。元世界王者の兄・ロバートの指導でメキメキと力をつけており、11月9日に2階級制覇を成し遂げたばかりだ。ノニト・ドネアとともに、軽中量級の核になる選手といえる。

 4位のサウル・アルバレスは、今年9月にメイウェザーに敗れてWBAとWBCのスーパーウェルター級王座を失ったばかりだが、童顔に似合わず気性が激しく、スター性も十分の選手。23歳と若いだけに、今後の巻き返しに期待が集まっている。

 5位のノニト・ドネアは、「パッキャオ2世」と呼ばれる軽量級のスター選手。すでにフライ級からスーパーバンタム級まで、4階級を制覇した実績を持つ。11月9日に行なわれたビック・ダルチニアン(アルメニア/アメリカ)との試合では苦戦を強いられたものの、9回に得意の左を打ち込んで決着をつけた。2014年には、5冠目となるフェザー級で王座に挑戦することになりそうだ。また、近い将来、スーパーフェザー級に上げて内山高志(ワタナベジム/WBA王者)に挑戦――という可能性が出てくるかもしれない。

 6位のローマン・ゴンサレスは、日本では「ロマゴン」の通称で知られる軽量級の雄。11月10日に両国国技館でKO勝利を収め、デビューからの連勝を37(31KO)に伸ばしたばかりだ。ミニマム級、ライトフライ級に続き、フライ級でも戴冠を狙っている。

 7位のダニー・ガルシアは、昨年からトップ選手たちを次々に退けており、勢いがあるスーパーライト級の世界王者だ。近い将来のメイウェザーの対戦相手としてもリストアップされている注目株。

 そして8位以下には、無冠のホープ3人を並べてみた。現在のヘビー級はWBC王者の兄・ビタリと、WBA・IBF・IBO王者の弟・ウラジミールのクリチコ兄弟(ウクライナ)がトップを独占している状態で、アメリカでは2006年以降、ヘビー級王者を輩出していない。それどころかヘビー級王座挑戦は、7年間に18連続失敗という惨状にある。そんななかで大きな期待を背負っているのが、8位のデオンテイ・ワイルダーである。2008年北京五輪のヘビー級銅メダリストでもあるワイルダーは、身長201センチ、体重102キロの恵まれた体格を持つハードパンチャーで、プロ転向後の30戦すべてでKO勝ちを収めている。早期での決着ばかりなため、まだ4ラウンド以上を経験していないが、WBC3位をはじめ、主要4団体で好位置につけている。2014年には世界挑戦のチャンスが回ってくるはずなので、低迷が続くアメリカ・ヘビー級の救世主になれるか。

 9位のゲイリー・ラッセル・ジュニアは、5年前にアメリカ代表として北京五輪に臨んだが、体調不良のため欠場という挫折を味わっている選手である。元6階級制覇王者のオスカー・デラ・ホーヤ(アメリカ)と契約を交わしてプロ転向を果たしたサウスポーで、現在は順調に成長している。WBOの指名挑戦権を有しているため、来年4月までにWBO王座挑戦が濃厚だ。

 10位のテレンス・クロフォードは、俊敏な動きと強打を身上とする逸材で、すでにライト級でWBO王座への指名挑戦権を持っている。アメリカのプロモート最大手トップランク社のバックアップも得ており、来年には世界の頂上に駆け上がりそうだ。

 日本ではあまり知られていないが、いずれも世界では、「次世代のボクシング界を担う」と評判の逸材ばかりである。1年後、2年後、3年後......、いったい誰が「パウンド・フォー・パウンド」の座にいるのだろうか。今から覚えておいて、決して無駄ではない。

原 功●文 text by Hara Isao