渋谷直角さんが、話題の自著(漫画)に影響を与えた3作品を解説!引き続き、渋谷直角さんの読書遍歴をお届けします。後編では話題の漫画『カフェでよくかかっているJ-POPのボサノヴァカバーを歌う女の一生』について、主に伺います。前編はこちらから→http://www.webdoku.jp/tsushin/2013/11/11/150000.html表題作は、歌手デビューを目指すカーミィという女の子(オシャレでかわいいものが好き)が、有名になるために体を張り、えぐいこともして、手段を選ばずにやっていった結果、ボサノヴァカバーを出しているレーベルからCDデビューすることになる......も......というお話。90年代に、渋谷系などのお洒落サブカルに傾倒した人たちにとっては、周りをお洒落な固有名詞でやたら飾り立てたり、自意識にまみれまくった彼女たちを笑う=自分に返ってくるというブーメラン式の痛さを味わえる傑作です。「渋谷のカフェに行った時に、タイトルが先に浮かんだんです。このカフェでよくかかっているJ-POPのボサノヴァカバーを歌う女の一生っていう"映画"を作ったらいいんじゃないかって思ったんです。が、映画をどうやって作ったらいいのかわからなかったので、漫画で描いてみようと。で、世界観のベースとしてあったのが、つりたくにこさんという漫画家の『六の宮姫子の悲劇』という60〜70年代ぐらいの漫画です」『カフェでよくかかっているJ-POPのボサノヴァカバーを歌う女の一生』の背景には、特に影響を受けた作品が3つあると言う渋谷さん。『六の宮姫子の悲劇』は、小学校1〜2年生の頃に読んで以来、ずっと心に残っている作品なのだそうです。「つりたくにこさんは、ガロで描いていた作家さんで、わりと若いうちに亡くなってしまった伝説系の方です。特にこの短編『六の宮姫子の悲劇』は、小さい頃からすごく好きで。六の宮姫子という女の人の日常を描いたものなんですが、オチがけっこうびっくりな感じで、それもすごい新鮮でした。60〜70年代って、漫画は子供だけが読むものじゃない。もっとオレたちの世代が、日常の中で思っていることを漫画というもので表現してもいいんじゃないか!みたいなことをやり出した時代なんです。例えば永島慎二さんの『若者たち』『漫画家残酷物語』をはじめ、真崎守さんとか宮谷一彦さんとかも、当時の自分含む若者の日常を、けっこうイキった感じで描いていて。阿佐ヶ谷の喫茶店でジョン・コルトレーンを聴いて、みたいな、固有名詞とかもバンバン出てくる、そういうのが好きなんですよ。それに、今読んでもすごく面白い。当時の風俗が体感できたり、若者が同じ悩みを抱えていたり。『カフェでよくかかっているJ-POPのボサノヴァカバーを歌う女の一生』って、ものすごく風化しちゃうタイトルだとは思うんですけど、だけど自分の周り、30代くらいの日常をリアルにきっちり描くことで、『六の宮姫子の悲劇』とかの今版をやりたいな、できたらいいな、というか。その影響を受けて、現代に描くとこんな感じかなっていうのが自分の中にあったんです」というわけで、影響を受けた本、2冊目はこちら!「大槻ケンヂさんの詩集『リンウッド・テラスの心霊フィルム』です。これは高校生の時に読んだんですが......僕、高校の時ほんとに暗くて、大槻ケンヂさんと電気グルーヴがヒーローで、モラトリアムをずーっと抱えた感じだったんです。この中に、筋肉少女隊帯の『何処へでも行ける切手』っていう詩が載っているんですけど。包帯を巻いた少女がずっと部屋の中にひとりでいるから、神様が可哀想に思って彼女を切手にしてあげた。切手になれば郵便配達の鞄に入ってどこへでも行けるっていうけっこうファンタジックな詩なんですね。でも最後"切手は新興宗教のダイレクトメールに貼られ、すぐに捨てられ、その行方はもう誰にもわからない"で終わるんです。唐突でけっこうびっくりするんですよ。うわ、もう救いなしだな、みたいな。でも大槻さんって、オレはダメ人間だ、だけどオレは何かできるはずなんだ、でもやっぱりダメで、っていうのがずーっとぐるぐるしているような表現をけっこうやる人なんですよ。今回の僕の漫画もそういう感じです。主観だけでがっといって夢叶いました!みたいな作品は絶対に描けないなと、描いていて思ったんです。客観的に引いて見たり、社会においてはどう見えるか、とかそういうのも含めて描かないとダメだって。これは大槻ケンヂさんの影響ですね」では最後、3冊目は読んだ人ならきっと気付いたはず、あの漫画です!「今回の本は、表題の漫画の他にいくつか短編が入っているんですが、その中のひとつに『口の上手い売れっ子ライター/編集者に仕事も女もぜんぶ持ってかれる漫画 (MASH UP)』という漫画があって。ライター志望の男の子が、すごいディベート上手の売れっ子ライターに仕事も女も全部持ってかれるっていう、そのまんまの漫画なんですけど(笑)。音楽にマッシュアップという手法があって、レッドツェッペリンの曲にビートルズのボーカルをただ混ぜて一曲にしちゃうとか、ビートルズのトラックにビースティボーイズのラップをただ乗せて一曲にしちゃうとか。DJ的な感じのリミックスの方法があるんですが、僕自身それがすごく好きなんです。こういうの、漫画でやりたいなって。で、やっぱり編集者ワナビーの若い子の漫画なんで、これは絶対『編集王』からマッシュアップしたい!と思って」ボクサーとしての夢破れた男が、漫画編集という第二のリングで熱く燃え上がる、土田世紀先生の代表作。「『編集王』の中に、宮沢賢治の『春と修羅』という詩が引用される号泣ものの名シーンがあるんです。これをこのまんまやりたい!と、仕事も女も全部持ってかれてすごく打ちのめされたワナビーの子が、ほんとに落ち込んで電車に乗るところで『春と修羅』をかぶせたんです。絵も土田世紀先生そのまんまを描いてやろうと思ったんですけど、自分の画力のなさを計算してなかったので、土田世紀先生の絵にならなかったんですよね(笑)。だから、一応マッシュアップだと言ってるんですけど、それを知らなかったらただパクってんじゃんって思われちゃうので。一応後書きでも説明しているんですけど......。きっとオマージュしているというのは伝わると思うので、先に『編集王』を読んでもらえると嬉しいですね!」それでは最後の最後、渋谷さんが今ハマっている漫画を伺って締めたいと思います。「『モーニング』で連載している『ミリオンジョー』です。初版400万部を売る超人気少年漫画......要は『ワンピース』とか『フェアリーテイル』のような......その漫画家が突然死んじゃったら、その時担当編集はどうするか!? じゃあ代わりに描く! という話です。もちろんフィクションなんですけど、すんごいスリリングなんですよ。もう絶対やばい、絶対バレちゃうよ〜みたいなのがずっと続く漫画で。すごい面白いですよ!」 渋谷直角さん、ありがとうございました!【プロフィール】渋谷直角しぶや・ちょっかく/1975年東京練馬区生まれ。ライター、漫画家。出版社勤務を経て、『SPA!』(扶桑社)、『ケトル』(太田出版)、『GINZA』(マガジンハウス)など、雑誌&WEB等で連載多数。著書に『直角主義』(新書館)、漫画『カフェでよくかかっているJ-POPのボサノヴァカバーを歌う女の一生』など。12月9日に、『RELAX BOY』(小学館クリエイティヴ)が発売!http://chokkaku.jugem.jp取材・文=根本美保子
『焼肉の教科書 (e-MOOK)』 著者: 出版社:宝島社 >>元の記事を見る

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