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JALグループは、1日に約1,000便の旅客機を運航している。そのうちJEX便とJ-AIR便を含む国内線約590便と、国際線約130便の合計約720便の運航を集中管理しているのが本社ビル内のOCC(オペレーション・コントロール・センター)だ。その働きとともに、経営破綻後に変わったという現場での意識に迫ってみたい。

○「JALオペレーションの中枢」

OCCの役割を簡単にいえば、航空機が安全、円滑に運航されるよう24時間態勢で見守り、支援するということ。基本となるのは定時運航だが、台風や大雪などの悪天候、機材トラブル、機内での急病人発生、滑走路の閉鎖や空港システムの故障など、イレギュラーな事態が発生する可能性は常にある。そのような時にも迅速に対処して正常な状態に復帰させ、影響を最小限にとどめる働きを担っているのがOCCである。

OCCには、運航管理、スケジュール統制、乗員スケジュール、クルーワーク、機材運用・整備、顧客サポートといった機能が集約されており、全体を総括する8名のミッションディレクター以下、約140人のスタッフが交代で業務に当たっている。現役のパイロットや、整備士、ディスパッチャー(運航管理者)経験者などが従事するミッションディレクターには、社長から運航統制の権限を移譲されていることからも分かるように、「JALオペレーションの中枢」として日々業務を遂行している。

○常にありうる不測の事態に備える

では、具体的にどのようなことを行っているのか。例えば運航管理は、全世界を飛ぶJAL便のフライトプラン(飛行計画)を立てている。国家資格を持つディスパッチャーが出発地や目的地、上空の気象、空港の安全情報などを確認し、最適な飛行ルートや高度を策定。必要な燃料の量なども計算する。

またディスパッチャーは、飛行機が出発したあとも、目的地に到着するまでフライト状況を監視する。例えばルート上の天候が悪化した場合、飛行中のパイロットに連絡をしてより安全なルートや高度への変更を提案。また、目的地空港の閉鎖など突発的な事態が発生した場合にも、パイロットと着陸空港変更などの調整をする。

こうした運航管理業務は、主に個々のフライトについて最善の判断を下すものだ。しかしイレギュラーな事態の影響は、その便だけでなく乗継便や折返便にも及ぶ。大規模な悪天候の時には、更に混乱が拡大する。そんな時に、全体的な観点から最善の対応を考える必要がある。それを行うのがスケジュール統制だ。

ここで正しい判断を下すためには、多くの部署との密接な連携が不可欠である。遅延の原因が機材トラブルならば、整備部門からの情報が重要である。また、旅客機は機種ごとの乗務資格が異なるので、代替機に機種変更する場合には乗員スケジュールを調整しなければならない。

決定事項は社内の各部署ばかりでなく、迅速に乗客にも伝えられなければならないが、そのためには顧客サポートが力を発揮する。そうした様々な部署のスタッフを1カ所に集めることでミスコミュニケーションを防ぎ、タイムロスなく最善の判断を下しやすくしようというのがOCC設置の目的である。

今回の取材中にも室内のスピーカーからは、羽田空港の滑走路1本が航空機と鳥が衝突するバードストライクによって閉鎖されたという情報が流れていた。運航に関わる情報は、すべて15分以内にOCCに伝えられることになっており、OCCのスタッフは即座にそれを共有できる。この時はすぐに滑走路も再開されたが、もし何らかの対処が必要になったとしても、既に全員が状況認識できているところからスタートできる。しかもOCCに集うスタッフはふだんから顔を合わせて仕事をしており、互いの役割をよく理解している。それがOCCの即応力につながっているのである。

○旅客機に故障が! その時OCCはどう動く?

イレギュラー時にOCCがどのように機能するのか、一例をうかがった。夜20時30分、成田空港からホノルルに向かう予定の旅客機で故障が見つかった。しかし、成田空港は23時以降の離発着が禁止されており、それまでに修理できる見込みはない。400名以上の乗客を乗せられる代替機もなかったが、大型機だけに影響は大きい。

その時OCCは、海外での定期整備のため10分前に離陸していた同型機に目をつけた。定期整備の期限までは余裕をもたせているため、ホノルル往復には問題がないと整備が確認。そこで運航管理はパイロットに成田への引き返しを要請。また、OCCは新たな出発時刻を22時30分に設定して、各部門に準備のため全力をあげることを要請した。引き返してきた旅客機は乗客を迎えられるよう機内を清掃し、機内食も搭載しなければならない。

結局、代替機は21時45分に成田に戻り、それからわずか30分あまりで出発準備を完了。そして成田空港の門限まであと9分という22時51分に、ホノルルに向けて離陸できた。これは400人以上が乗る国際線旅客機としては驚異的といえるが、OCCを中心に迅速な意志決定と各部署の連携が取れたからこその快挙といえるだろう。

○経営破綻を経て、真に乗客の満足を目指す

OCCが設置されたのは約10年前。それからJALは経営破綻し、新しく生まれ変わった。飛行機を安全に飛ばすための業務は経営破綻の前後でも大きく変わることはないが、意識は変わったという。自らもミッションディレクターである桑野洋一郎センター長に聞いた。

「OCCには様々な部署が集まっているため、ときにセクショナリズムがでることもありました。しかし、破綻から再建へと努力する中で、安全についてはもちろん、真にお客様の満足を共通の目標とする意識を定着できたように思います」

そうした意味では、より本来のOCCの姿になれたといえるかもしれない。9月16日に台風18号が首都圏に接近した際には、JALは前日のうちに150便以上の欠航を決めたのも、乗客のことを第一に考えての決断だったという。

「従来ならば、ぎりぎりまで様子を見ながらできるだけ多くの飛行機を飛ばそうと考えたかもしれません。しかし、お客様にとっては悪天候の中を空港までやってきて、長く待たされた挙げ句に欠航というのが一番困るわけです。早めに欠航を決めれば、新幹線に乗り換えるなどといった判断もできます」

とはいえ、予報よりも早く台風が行きすぎた場合には、「どうしてJALだけ飛ばないのか」と避難される可能性もある。勇気のいる決断だったというが、それを支えるのは常に安全と乗客の利便性を第一に考えるという使命感である。

○筆者プロフィール : 阿施 光南(あせ こうなん)

1958年生まれ、東京都出身。航空工学を専攻した大学時代からプロカメラマンとして活動。対象は主に民間航空分野だが、スカイスポーツから宇宙開発、あるいは気象解説まで多彩な著書がある。また、旧軍用ジェット機の操縦訓練を受けたパイロットでもある。

(阿施光南)