『下町ロケット』

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給与が右肩下がりで財布の紐が厳しくなり、また街を歩けば中古本市場が相当充実している中にあって、私は少しばかりかの贅沢気分で(なけなしのお小遣いを投入して)、新作が出された時必ず購入する著者が3名いる。

高杉良、東野圭吾、そして池井戸潤である。いずれも著名人であり説明は不要であろう。その筆圧は限りなく熱く、そして果てしなく深い、と個人的には思っている。

取材力に感銘、「裏切られた推理」の快感

高杉良氏は、言わずと知れた経済小説をベースにしており、実在者をモデルにすることが多いため、筆者の多少の正義感・理念(?)のバイアスを捨象すれば、その当時の社会背景も含め大変勉強になる。『金融腐食列島』は言うに及ばず、ワタミを築き上げた渡邉美樹・参議院議員を実名で取り挙げた『青年社長』、オリックスの宮内義彦氏をモデルにした『虚像』など、特に政官をモデルにすることも多く、その取材力には感銘を覚える。

東野圭吾氏も、大変興味深く、面白さは筆舌しがたいほどである。1日で10時間通しで読みふけったこともある。最初に読んだ『容疑者Xの献身』では衝撃を受けた。その後も、全ての新作を読んでいるが、『パラドックス13』、『ナミヤ雑貨店の奇蹟』など、時間・空間を超越したそのストーリーは、最後の1ページまで結果が見えない。ゆえに、読み耽ってしまうのだろう。何度も自分の推理を裏切られた。それもまた快感である。

「半沢直樹」だけではない、多彩な内容

池井戸潤氏は、TBSドラマ「半沢直樹」で一躍有名になった。著者は岐阜県出身であるが、私自身、岐阜県に仕事でのゆかりがあったこともあり、長年にわたり(近年のように有名になる以前から)、気に入って読んでいた。多くは、著者自身の銀行勤務のご経歴から金融業界内の事情に精通したものとなっているが、それ以外にも融資先である各種業界もカバーした内容となっており多彩である。公共事業の談合をモデルにした、『鉄の骨』(吉川英治文学新人賞を受賞。直木賞候補にもなった)、そして、特許買収と中小企業をモデルにした『下町ロケット』(直木賞受賞)、経営が厳しい企業がどのように野球部を存続させるかを描く『ルーズヴェルト・ゲーム』、企業の不正を描いた『空飛ぶタイヤ』、『七つの会議』などは、大変気に入っている。

私自身、いわゆる経済官庁の中堅職員であり、上記の筆者・書籍にはある程度親和性を感じるのはある意味必然かもしれないが、世代や業種を超えて今後さらにファンが広がることを大いに期待したい(私が心配するまでもなく、広がるだろう)。特に、若者の紙離れが言われて久しいが、是非、本屋に出向き新書の醸し出す匂いを嗅ぎながら、手にとっての愛読を勧めたいものである。

MS省(調査官級)だいき