5位以内に入れば12月21日からの全日本選手権の出場権を手にすることができる東日本フィギュアスケート選手権。この大会で、安藤美姫は「これが日本で最後の競技会になるかもしれない」という気持ちで女子フリーに臨んだ。

 来年2月のソチ五輪出場への夢をつなぐこの試合、前日のショートプログラムで、安藤は大きく出遅れていた。冒頭のコンビネーションジャンプは最初の3回転ルッツが回転不足となり大きくバランスを崩し、その後に2回転トーループこそつけたが基礎点とGOE(出来ばえ)で大きく減点された。

 さらに続く3回転ループは安藤自身、「これまで経験がない」と言うほどのミスを犯し、1回転もカウントされなかった。また、スピンもステップもスピードを欠いた演技で41・97点しか獲得できず、13位発進になってしまった。

「やっちゃったな、という感じで......。自分では、(全日本は)『もう無理かな』というのもあったんです。4月に復帰を発表してから日がたつにつれて『無理な決断をしたんだろうな』という実感が湧いてきていたけど、たくさんの人が応援してくれていることもわかった。だから、これが日本での最後の試合になるのなら、悔いが残らないように逃げないで挑戦して、今の自分ができる限りのことをやりたいと思ったんです」

 3週間前の関東選手権後の練習では、3回転ルッツは「10回やって1回降りられる(成功する)程度」と不安定だった。そのため、次につなげるためにルッツを回避し、失敗する確率が低いサルコウやトーループでまとめるという考え方もあった。だが安藤は、「逃げないで挑戦しよう」と自らを励ましながらフリーに臨んだ。

「もともと簡単な道を選んだわけではないし、自分が決めたことに対して、きちんと向き合う姿勢を持っていたかった。弱気になって逃げたくなかったんです」

 この東日本選手権で6位以下になれば全日本選手権出場権は得られず、ソチ五輪出場の夢はその時点で途絶えてしまう。ショートプログラムの後、そんな危機的状況に追い込まれ、あきらめが生じた時、大会前の自分の気持ちを思い出したのだ。

 覚悟を持って滑り始めたフリー、安藤は冒頭の3回転ルッツの着地で乱れながらも、手を少し突くだけでこらえ、減点も最小限に止めると、前日失敗した3回転ループを決めた。その後の滑りや、スピンとステップはスピードのない演技にはなったが、ジャンプは大きなミスなく演じ切った。

 結果はフリーでは1位の105・24点。合計点を147・21点にして、最終的にショートプログラム1位の西野友毬(ゆうき)には追いつけなかったが2位。全日本出場権を獲得し、ソチへの夢をつないだ。

 表彰式の後、全日本選手権進出決定の感想を求められた安藤は、少し考えてから「頑張らないといけないですね」と苦笑いを浮かべた。

「体力的にも技術的にもまだまだ戦えるレベルに戻っていないのでたいへんだけど、もう一度日本で演技できるチャンスをもらったのだから、それが(モチベーションになって)プラスに働いていけばいいかなと思います。全日本選手権には他の(日本のトップ)選手も出てくるから、2シーズン前の自分のスケートに近づけるように頑張って、自分の力を100%出せるように練習していきたい」

 こう話すように、安藤のコンディションが、まだまだトップと戦えるレベルでないのは確かだ。ジャンプこそ丁寧にやればこなせるレベルになっているが、スピンやステップはまだまだスピード不足。滑り自体も世界選手権で優勝した2年前のようなキレはない。そのため、彼女の持ち味である表現力も十分に発揮されていない状態だ。

 だが、以前と同じ高いレベルで戦うために、自分に何が足りないかは、安藤自身がいちばんよくわかっている。

「体力というより、脚の筋力が弱くなっています。筋力が弱いと演技のスピード感とか、スケーティングの部分の足の繰り出しや後半のジャンプなど、すべてに影響してくるので、それは(課題として)明確になっていますね」

 こう話す安藤は、復帰してからこれまで、脚の筋力アップに取り組んできたという。それはフリーを滑り終わっても「以前より疲れが少ない」という効果を生んでいる。だが、トップ選手と互角に争うには、まだ得点が足りない。全日本で優勝争いに加わるためには、合計で190点前後が必要になるだろう。

 今後、安藤は、イタリアに渡ってリッツォコーチと練習に取り組む予定だ。11月下旬のグラーツ(オーストリア)での大会など、欧州での試合に出場して試合勘を取り戻し、12月21日からの全日本選手権に向かうという。

「まだまだ五輪のレベルに達していないけど、今回、(ショートプログラムで)崩れた後に、(フリーで)ここまで持ち直せたのは、ステップアップしているということだと思います。(得点は)復帰戦のネーベルホルン杯から右肩上がりにはなっていないけど、いい練習ができているから気持ち的には前向きになっています。今回の東日本は、自分本来の出来ではないけれど、今の自分のできる限りの力を出し切った。全日本選手権でも今日のような気持ちで演技ができたら、と思います」

 8歳でスケートを始めてから頭角を現し、世界トップの舞台へと駆け上がり、2度の世界チャンピオンになった安藤美姫。彼女は今、最後の戦いに向けての決意を固めた。

折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi