好景気の裏に隠された?ワナ〞とは…。円安だけで日本経済復活の道はない!
「アベノミクスでは日本経済を本質的に立ち直らせることはできない」と語るエコノミストの浜矩子さん。来年の経済についても、「安倍政権が今のやり方を続ける限り、今年以上に厳しくなる。円相場も混乱するのではないか?」と予想する。

大胆な異次元緩和でも動きださない投資と雇用

昨年11月の衆議院解散以来、まもなく1年が経過しようとしている。解散直後から始まった円安・株高は、当初こそ飛ぶ鳥を落とす勢いだったが、わずか半年後の5月に早くも失速。その後の日経平均株価は高値を更新する勢いがなくなり、円も1ドル=100円をなかなか突破できない状況が続いている。鳴り物入りで動きだしたアベノミクスであったが、「意外と大したことないな」というのが正直な感想だ。

もともと私は、アベノミクスのように対症療法的な経済対策では、体全体が弱り果てている日本経済を根本からよみがえらせることは不可能だと考えてきた。日本は15年以上もの間?デフレ不況〞という重い病に伏してきた寝たきり患者である。小手先の投薬や施術で十分であるはずがない。

確かに、黒田東はる彦ひこ総裁率いる日銀は「異次元の金融緩和」によって大量の国債を買い入れ、それとバランスさせる形で膨大なマネーを発行している。だが生み出されたマネーの大半は、市中銀行が日銀に開いている当座預金口座の中に積み上げられたまま。つまりマネタリーベースは増えているが、市場に出回るお金(マネーサプライ)はほとんど増えていないわけだ。

銀行は過分なリスクは取らないので、どんなに資金が増えても、貸し出しには慎重になる。対する企業側も、景気回復への確かな手応えが実感できなければ、おいそれと設備投資に踏み切ることはない。

3本目の矢だといわれる成長戦略は、そもそも見当違い。今の日本に必要なのは成長戦略ではない。資金の適宜な分配を目指す必要性が求められている。だが、成長戦略の中身自体も、安倍首相の?世界一になりたい〞という願望が前面に出るばかりで、日本の経済活動が上手く回るように持って行こうというまともな問題意識は感じられない。

仮に法人税の減税が実施されたとしても、果たしてそれが国内の設備投資や雇用の拡大に結びつくかどうかは未知数だ。国内で過剰な設備を背負い込みたくない企業は、海外に資金を振り向ける可能性もある。

そうなると雇用の増加は見込めなくなるし、雇用規制の緩和によって非正規雇用者が増えれば、所得格差はますます深刻化するかもしれない。

異次元緩和による円安で調達コストが上がれば、企業の投資意欲はさらに冷え込むことになるだろう。アベノミクスは、むしろ裏目に出る危険もはらんでいるのだ。

そもそも異次元緩和では、2年以内に物価上昇率を2%とする目標を掲げているが、これを実現したところでデフレが根本的に解消される保証はない。というのも、日銀は物価上昇率を判定する指標としてCPI(消費者物価指数)を採用しているからだ。

2014年の日本経済は確実にスローダウンする

特定項目に絞り込んで平均の価格変動率を見るCPIは、一部の項目が大きく値上がりしただけでも指標全体が上がりやすい特徴がある。つまり、世の中全体の価格変動を見るのには適していないのだ。本来なら、インフレターゲット政策の指標としては、国民経済全体の物価変動率が表れるGDPデフレーターを使用するのが適切なのである。

あえてCPIを使用しているのは、安倍政権自身のアベノミクスに対する自信のなさの表れかもしれない。

残念ながら、来年の日本経済は今年よりもスローダウンせざるをえないだろう。

アベノミクス効果の持続が期待できないだけでなく、今年の経済指標が一時的に上がったことによって、相対的に来年の伸び率が鈍化することは間違いないからだ。

消費増税の実施も、実体経済にそれなりのマイナス効果をもたらすことになるだろう。

財政再建のためには増税もやむなしと考えるが、安倍政権は、「なぜ財政再建が求められているのか」という本質を誤認しているようにも見える。

仮に「国際公約としてやらなければならない。さもなければ日本は信認を失い、国債や円が売り浴びせられる」と思って増税に踏み切ったのなら、そうなる公算は大きいにしても、本質を見誤っている。

財政再建がなぜ必要なのかといえば、それはひとえに、国が国民に十分なサービスを提供できるようにするためだ。財政が困窮してまともな行政サービスが提供できなくなれば、国に対する国民の信頼は消滅する。国民の信を失えば、国は存立の危機に立たされることになるだろう。そうした状況から脱却するためにも、政府は積極的に財政再建に取り組まなければならないのだ。

本質に踏み込むことなく、表面的な理由だけで増税に踏み切った態度を見ても、安倍政権による国の運営には危うさを感じずにはいられない。

QE縮小の衝撃次第で1ドル=80円台突入も

来年は、FRBによる量的緩和縮小とともに世界の為替相場が混乱し、退避通貨である円への資金流入が加速することも予想される。これまでの円安が大幅に修正され、1ドル=80円台まで円高が進むこともありうるだろう。

その一方で実は、日銀の異次元緩和は国債を買い入れて膨大な国の借金を肩代わりしているにすぎないという?裏の目的〞が明白になり、日本に対する信認の低下から急激な円安となる可能性もある。2014年は為替トレンドが読みにくい年となりそうだ。

浜矩子(NORIKO HAMA)
同志社大学大学院教授 エコノミスト

一橋大学経済学部卒業。1975年、三菱総合研究所に入社。ロンドン駐在員事務所長兼駐在エコノミスト、経済調査部長などを経て、2002年より同志社大学大学院ビジネス研究科教授。著書に『「アベノミクス」の真相』(中経出版)など多数。



この記事は「WEBネットマネー2013年12月号」に掲載されたものです。