市場規模は最低でも500億円、しかも、たった1日で消費される……となれば、業界が力を入れるのも当然だろう。気がつけば静かなブームとなっている市販おせち。まだ10月だが、関係者は熱い商戦バトル真っ最中だ。

 意外に思われるかもしれないが、市販のおせちの予約が最初のピークを迎えるのは何と10月。「鬼が笑う」どころではないけれど、今年はバブル期を彷彿とさせるような景気のいい話ばかりなのだ。

 東急百貨店広報部は、今年のおせち料理を「高価格帯のものを充実させました」と言う。

「全商品約300点のうち、2万円から10万円までの価格帯を、合計で5点ほど増やしました。高価で豪華なおせち料理が売れる傾向を示しています」

 三越伊勢丹ホールディングスも傾向は同じだ。

「日本橋三越本店は前年、3万〜3.5万円が売れ筋でしたが、今年は3.5万円〜4万円台が好調です。10.5万円以上も前年より1.5倍の売れ行きを示しています。伊勢丹新宿店でも10万前後の商品を増やしました」(同社広報)

 関西も負けていない。阪急百貨店広報部も高価格帯が順調だと言う。

「今年は5万円以上、つまり老舗料亭などの高級おせちで、予約に品切れが目立っています」

 今年、最高価格帯のトップクラスと評判なのは、大丸と松坂屋が販売している「〈京都 嵐山吉兆〉和風二段+リチャード・ジノリ古染付写しセット」の78万7500円だ。

 豪華な小皿が5枚付いての価格だが、小皿なしの二段重だけの商品でも52万5千円というから驚きだ。担当の本社フーズ統括部・井門政夫氏が企画の狙いを語る。

「東日本大震災後は絆、自粛がキーワードでしたが、それが昨年末からアベノミクスへ変わった。好景気感を背景に、華やかなおせち、正月のごちそうが求められていると考えました」

 やみくもに最高価格を目指すとしても、おせち料理だけで200万円の商品を開発することはできない。そんな高額な食材は存在しないからだ。つまり、大丸・松坂屋が京都・嵐山の吉兆に「予算の上限なしでおせち料理を作ってください」と依頼したところ、結果として50万円になったというわけだ。

 こうした流れを、食品宅配を行うオイシックスは「ハレノミクスとでも呼ぶべき状況です」と言う。同社のおせちも最高級の8万4千円は既に完売している。

「新年を祝う『ハレの日』をいつもよりぜいたくに迎える機運が高まり、消費が促進されているようです。長く続いた節約疲れも背景にあります」(同社・広報室)

 一方で、「やはり値頃感のある2万〜3万程度が主力です」(阪神百貨店広報)との声もある。われわれ“庶民”にとっては何となく安心させられるが、だからこそ気になるのは高価格おせちの味だろう。

 徹底して北海道産の食材にこだわった「北海道おせち 和 二段重」12万6千円などを販売する高島屋の担当・小坂直也氏が言う。

「もちろん三段重で2万円といったおせちは重要な売れ筋で、私たちも自信を持って販売しています。とはいえ、8万円を超えるものは、食材のレベルが違うんです。ぷりぷり、しっとり、といった食感の素晴らしさは、どなたでもわかってくださると思います」

週刊朝日  2013年11月8日号