NY発 ファイナンシャルINSIDE_11月号
米国の株式マーケットはFRB の「QE =量的緩和」におんぶにだっこの状態を続けてきたが、上昇相場のエンジンを失うことに対しての懸念が強まっている。また、FRB の次期議長人事が出口戦略を加速させるのではないかということにも戦々恐々としている。

テーパリングは、いつ始まるのか? ウォール街のアナリストの集まりに参加すると、いつもこんな会話で盛り上がる。

テーパリングを直訳すると、「先細りになる」の意味。金融用語に翻訳すると、計850億ドル相当のMBS(住宅担保ローン証券)と長期国債を市場から買い取るという、昨年末に発表した「QE3・5」の解除を意味する。「買い取りの減額」と「先細り」を引っかけているのだ。

ウォール街はFRB(連邦準備制度理事会)の?出口戦略〞に注目している。FRBは2・5%のインフレ率を上限に(目標は2%)、失業率を6・5%まで引き下げることを金融緩和策の?ターゲット〞として明示。超低金利を維持することで住宅価格を押し上げて住宅着工などで雇用を増やし、資産効果を通じて企業の売り上げ増につながる消費を増やそうとしている。FRBの当初の狙い通り、年初からの米国経済は「インフレなき回復基調」にあり、9月のFOMC(連邦公開市場委員会)がテーパリングの開始日、というのがアナリストらのコンセンサス。

だが、2009年3月を底とした株式相場は、「QE1」から「QE3・5」まで、FRBの量的緩和におんぶにだっこの状態だった。政策金利引き上げ自体は2015年以降というのが市場の見方だが、上昇相場のエンジンを失うことを懸念しているのだ。

米国の代表的な株価指数である、S&P500種指数を見ると、8月頭にザラバの高値をつけて以来、高値警戒感から利食い売りに押されている。ヒューレット・パッカード、シスコシステムズなど景気敏感株がアナリスト予想を下回る業績を発表し、ボラティリティー(予想変動率)も急上昇。流動性相場の終焉を示すように、経常収支が悪化しているインド、インドネシアなどから資金を引き揚げる動きが広がった。

9月にも発表とされるFRBの次期議長人事にも市場は戦々恐々としている。クリントン政権時代に財務長官を務めたローレンス・サマーズ氏とジャネット・イエレンFRB副議長が競っているのだが、「オバマ大統領に近いサマーズ氏が有利」というのがウォール街の見方だ。サマーズ氏は財政政策に重きを置く経済学者で、「量的緩和をさほど評価していない」とされる。このため、「来年のFRB議長交代後に出口戦略が加速するのではないか」と懸念されているのだ。

そもそもテーパリングは、金融危機以来3回目となる量的緩和策の延長線上にある政策の段階的縮小にすぎない。それなのに、あまり根拠のないテクニカル分析が流行したり、2年後とされる政策金利の引き上げ時期を織り込み始めて一喜一憂している。米国では金融危機以降、金融政策に負荷をかける「一本足打法政策」を続けてきたが、量的緩和を?麻薬〞に例えるならば、マーケットは「禁断症状」に陥っているのである。

松浦 肇(Hajime Matsuura)
産経新聞ニューヨーク駐在編集委員

日本経済新聞記者、コンサルタントなどを経て現職。ペンシルベニア大ウォートン校、コロンビア大法科大学院、同ジャーナリズム・スクールにて修士号を取得。




この記事は「WEBネットマネー2013年11月号」に掲載されたものです。