思わぬ買い手の登場によりヘッジファンドの戦略は修正を迫られることに
大幅な下落に見舞われた上半期の金価格。金ETFが記録的な減少を見せる一方で、金地金などの現物買いは四半期ベースで最高に。背景には、ヘッジファンドも想像していなかった買い手の存在があった。

7月から8月にかけての金市場において、ヘッジファンドは思惑に反した価格の上昇により買い戻しを余儀なくされている。

本誌9月号では金ETF(上場投信)の減少が目立つ一方で、中国やインドなど新興国の買いが急増しているという話を取り上げた。8月中旬に金の国際調査機関WGC(ワールド・ゴールド・カウンシル)から4〜6月期の需給統計が発表されたが、まさに指摘した構図が数字となって表れたのだ。4〜6月期におけるニューヨークCOMEX(商品取引所)の先物価格は23%もの大幅な下落に見舞われ、四半期ベースでも過去最大の下げ幅を記録した。

需給データでは、この期間に金ETFを中心に402トンもの売りが出て、金地金や投資用金貨などの現物買いは507トンと、ともに四半期ベースで最高となった。つまり、記録的な金ETF減少の反対側で、新興国の一般人を中心とした現物買いがまさに「売りを引き取った」形となったのである。

金ETFを売って株などに投資替えしたのは、ヘッジファンドに象徴される欧米マネーである。それに対し、下げ過程で買ったのは新興国の一般人。つまり「西(欧米)の売り」対「東(アジア)の買い」ということで、まさに東西対決の様相となった。

この流れを裏づけるデータがある。ユーロスタット(欧州委員会統計局)が発表した英国からスイスヘの金輸出量だ。それを見る限り、この上半期だけで798トンにも上っている。昨年の同時期は83トンなので、約10倍にも膨れ上がったのだ。

スイスには金精錬会社が数社あることで知られる。金ETFで保有する金はロンドンで保管されているものが多く、それらは業務用の400オンス(約12キロ)の地金。手放された大型地金はいったんスイスへ輸出され、1キロや500グラムの地金あるいは金製品に再鋳造され中東(ドバイ)や香港経由でインドや中国に流れていったものとみている。

考えてみれば、新興国の一般人は金の現物が欲しいから買っているのであって、欧米のファンドのように米国の金融政策の動向など関係ないのである。ヘッジファンドにとって、想像しえなかった買い手が大挙して表れている現状は誤算以外の何物でもないだろう。下げを見込んだファンドの戦略は修正を迫られそうだ。

亀井幸一郎(KOICHIRO KAMEI)
マーケット・ストラテジィ・インスティチュート代表

中央大学法学部卒業。山一證券、に勤務後、日本初のFP会社MMI、金の国際広報機関WGCを経て独立し、2002年より現職。市場分析、執筆講演など幅広く活躍中。




この記事は「WEBネットマネー2013年11月号」に掲載されたものです。