前回は、NISA導入の大きな目的として、「家計の資産形成をサポートすること」があることを述べました。そして、高齢化社会が世界に類例のないスピードで進む日本でこそ、個人による老後資金の確保に向けた資産形成が必要であることに触れました。今回は、その必要性への理解を深めるために、高齢化社会の現状と将来について、解説をしたいと思います。

 まず、現状を把握するために、高齢者世帯の家計を見てみましょう。高齢者世帯の生活費は、2012年版の『家計調査』によると、毎月の支出は22万8819円となっています。教養娯楽費、交際費などの割合が、比較的高いことがわかります(下グラフ参照)。

NISAで備える『長寿リスク』(第2回)

 収入の方は、年金などの社会保険給付がメインで18万1028円。したがって、4万7791円が不足していて、この赤字分は貯蓄などの金融資産の取り崩しなどで、まかなわれていることになります。今、年金を給付されている世代は、まだかなり手厚い年金をもらっていると思われます。しかし、それでも年金だけでは生活することはできず、貯蓄を取り崩さなければなりません。すでに、年金だけで生活できる時代ではなくなっていることがわかります。

 では、老後の生活を維持するためには、どのくらいの貯蓄が必要なのでしょうか。日本人の60歳時の平均余命は男性で22.7年です。その間、毎月4万円を貯金から取り崩すとすると、4万円×12か月×22年=1056万円になります。この計算から、老後に必要な最低の貯蓄は1000万円になることがわかります。

 退職金がきちんともらえる人であれば、1000万円は退職金でまかなえる金額かもしれません。ですが、退職金を全額貯蓄に回すことはできるでしょうか。60歳の時点で住宅ローンが残っている人は、住宅ローンの支払いをする必要があります。いま、60歳で住宅ローンを完済できる人は少ないでしょう。35歳のときに35年のローンを組んでいれば、完済は70歳になります。

 また、子どもが独立していなければ、教育費もかかる可能性があります。昨今の晩婚化の影響で、世帯主が60歳になっても、子どもが大学に通っている家庭は珍しくなくなりました。子どもが1人ではなく、2人、3人ともなれば、教育費だけでも膨大なものとなります。

 先に紹介した家計調査では、世帯主の年齢別の支出データもあり、60〜69歳を見てみると、持家率は87%にも達しています。ほとんどの人がマイホームを所有していることになりますが、注目すべきは、住居費が約1万5000円となっている点。現在の60〜69歳の世代は、マイホームを所有し、ほとんどの人が住宅ローンの支払いも終わっている世代なのです。

 私たちが60代を迎えたとき、借家であれば住居費はもっとかかりますし、持ち家でも住宅ローンが残っている人が多いでしょう。退職金を全額貯蓄に回せる人は、かなり少数派になっていると想定されます。つまり、高齢者世帯の毎月の支出額22万8819円は、将来的にもっと増えている可能性が高いのです。

 一方、収入面でも大きな不安があります。それは年金です。今後、年金が先細りになっていくことは、多くの人が意識していることでしょう。しかし、どのくらい減る可能性があるのかについて、把握している人は少ないと思います。

 年金問題の専門家によると、年金財政の立て直し案として、おもにふたつの選択肢があるとされています。ひとつは、年金の「支給開始年齢の引上げ」です。日本では、2013年から、受給開始年齢の段階的な引き上げが始まっていて、2025年度以降は65歳からの支給となります。これは既定路線です。

 その支給開始年齢がさらに引き上げられ、欧米主要国並みの68〜70歳にすることが検討されています。仮に、68歳に引き上げられたとすると、65歳からの3年間の合計支給額の約15万円×12か月×3年間=約540万円の収入が無くなることになります。

 もうひとつの選択肢は、「支給額の減額」です。専門家の多くは、現状水準の3割カットが現実的な数字と考えているようです。具体的には、厚生労働省がモデル世帯としている、平均年収560万円の夫婦(妻は専業主婦)の受給額約26万円が、30年後には18万円程度になると予測しています。もしこれが実現してしまうと、65歳から80歳までの15年間で減額される合計金額は、8万円×12か月×15年=1440万円となります。恐ろしい数字です。

 いずれにしても、年金の支給額は減りこそすれ、増えることはまずありません。将来の生活費が増える一方で、主な収入である年金が先細りとなっていったら……。老後資金の貯蓄の重要性は、ますます高まっているのです。現在、ライフプランにおける老後に必要な貯蓄額は1000万円がひとつの目安になっていますが、将来的に2000万円になっている可能性は少なくないでしょう。

 ファイナンシャルプランナーの世界では、「長寿リスク」という言葉があります。これは、長生きすること自体が、家計破たんを招く可能性が高まることを表しています。長生き自体は非常に喜ばしいことですが、マネープラン上では、残念ながら「リスク」となってしまうのです。日本人の現在の平均寿命は、この長寿リスクを意識せざるを得ません。

次回は、この「長寿リスク」にスポットを当てて、その対策についても解説したいと思います。

(文/目黒陽子)

目黒陽子

めぐろ・ようこ。1975年生まれ。成城大学経済学部卒業後、大和証券に入社。2001年に退社後は、フリーキャスターに。『お元気ですか 日本列島』(NHK総合)、『ウェークアップぷらす』(読売テレビ)など、情報番組を中心にキャスター、レポーターとして活躍。現在、『news every.』(NIB長崎国際テレビ)に出演中。また、ファイナンシャルプランナーとして、メディアやセミナーを通じ、資産運用を個人に身近なものとするための情報発信を続けている。マネー関係の著書として『金トレ!』(マガジンハウス刊)がある。