この秋の相場を左右する、日米の重要政策について
日本は消費税増税を予定通り実行できるのか、米国の量的緩和縮小の行方は…という課題はあるが、私は、株式市場が上向く気配を感じている。

来春からの消費税増税をめぐって、予定通り行なうのか否かという議論が活発になっています。いま問われているのは、日本経済の最優先課題「デフレからの脱却」がいまだに不十分な段階で増税を断行するのか否かということであり、いわゆる「アベノミクス効果」により日本経済が多少上向いてきているとはいえ、その部分は非常に慎重を期して判断すべきではないかと思います。

そういう中で、内閣官房参与・エール大学名誉教授の浜田宏一氏が言及した、段階的な消費税増税をそれぞれ1年先送りする案や、あるいは内閣官房参与・静岡県立大学教授の本田悦朗氏が指摘したような「税率引き上げは毎年1%ずつが最善」といった議論も出てきているようです。

他方、諸外国は世界経済の不安定要素のひとつは日本の財政危機だという認識を持っており、IMF(国際通貨基金)などはずっと増税の必要性を主張し続けていますから、仮に消費税増税を実施しなければ「外国人勢は日本国債を叩き売る」と盛んに言っている人たちもいます。国債の外国人保有比率は1割に満たず、外国人投資家が売ったとしても大きな影響はないという見方もあるようですが、実際にはカラ売りしてくる可能性もあって結構なボリュームになるかもしれないということは常に頭に入れておかねばなりません。

日銀の黒田総裁も「脱デフレと消費税増税は両立する」と述べ、消費税増税の修正論議にクギを刺しているわけで、彼は増税を今回実施しなかった場合に外国人投資家がどういう行動に出て国債金利にいかなる影響を与えるかとか、日本人勢でも日本国債の保有比率が圧倒的に高い機関投資家(銀行=約4割、生損保=約2割、年金=約1割)が提ちょう灯ちんをつけるような形で、あるいは外国人勢の売りに誘発されるような形で出てくるかもしれないといったことを考え、ある種の金融のシステミックリスクというものが生じる可能性を恐れているのだろうと思います。

消費税増税が経済成長に対してマイナスに作用することは間違いないのですから、予定通り実施に踏み切るのであれば、それによる悪影響をできるだけ最小化すべくさまざまな手を打っていかねばなりません。

そのひとつが、安倍首相が関係省庁に検討を指示したと報じられた「法人税の実効税率引き下げ」というところだろうと思います。あるいは、住宅金融支援機構が手がける長期固定型の住宅ローン「フラット35」で、住宅購入額の9割としている融資の上限を2014年度から一時的に撤廃するというアイデアも国土交通省が検討に入ったとされています。今後はそういう政策をコンビネーションで実施していくことが重要になるでしょう。それらをうまくやっていくことこそが、今後の日本の成功あるいはアベノミクスの成功を左右する非常に大きな要素になってくると思われます。これから政府・与党あるいは有識者と称されるさまざまな人は、知恵を最大限絞りながらいろいろなアイデアを出していくべきだと思います。

日本の株式市場の現況についても述べておきますと、長期金利低下が終焉した4月4日まではアベノミクスの影響によって株価が上昇し、為替も円安に振れてきた部分もあったわけですが、それ以降はむしろ米国のQE3(量的緩和第3弾)の行方が相場を左右するキーファクターになっています。FRB(連邦制度準備理事会)がQE3を縮小するか否かという見方が結局は米国の長期金利に作用し、そして日米の長期金利差がドル/円の動きに作用して日本の株式市場に影響を与えていくという状況になってきています。

もうひとつポイントになっているのは「次期FRB議長になるのは、いったい誰か」ということであり、有力視されているイエレン現副議長とサマーズ元財務長官でいえば、市場はおそらくイエレンFRB副議長のほうを望んでいるのではないかというような気がします。

私自身、新聞・雑誌等を見る限りにおいて資質的にはどちらも大変優れた人物だと思いますが、バーナンキFRB 議長とともにずっと金融政策の舵取りを担ってきたイエレンFRB副議長になったほうが、少なくとも大きな変化は起こり難いだろうという見方が市場にあるのではないかと思います。

いずれにしても、次期FRB議長が指名されるこの秋には「誰がFRB後継議長になり、そしてQE3を縮小するか否か」ということが焦点になってくることでしょう。

日本の株式市場はだいたい「二にっ八ぱち」、つまり2月と8月は弱く、毎年「全国高等学校野球選手権大会」が始まるごろからうだるような暑さもあって相場はだらけてしまう傾向があります。もちろん外国人投資家もほとんど夏休みで、しかも彼らは日本とは違って長期に休みますから、そういう意味では出来高も非常に減っているという状況でした。

しかし、基調としてはそのわりにしっかりしているように思われ、なにか秋相場の飛躍を漂わせているような気がします。

北尾吉孝(きたお・よしたか)
SBIホールディングス代表取締役執行役員社長

1951年、兵庫県生まれ。74年、慶應義塾大学経済学部卒業後、野村證券入社。78年、英国ケンブリッジ大学経済学部卒業。野村證券で事業法人三部長等を経たのち、95年にソフトバンク入社、常務取締役。99年、ソフトバンク・ファイナンス社長。現在、インターネット総合金融グループを形成するSBIホールディングスの代表取締役執行役員社長。『何のために働くのか』(致知出版社)など著書多数。「face book」にてブログを執筆中。




この記事は「WEBネットマネー2013年11月号」に掲載されたものです。