ティーチイン付きの試写会に出席した藤井誠二(写真左/ノンフィクション作家)、越智啓太教授(写真右/法政大学犯罪心理学)

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約20年の間に100人以上もの人々を殺害し、全米を震撼させた実在の殺し屋、リチャード・ククリンスキーに迫るサスペンスドラマ『THE ICEMAN 氷の処刑人』(11月9日公開)。10月29日、都内の会場で本作の特別試写会が開催され、犯罪心理学者の越智啓太とノンフィクション作家の藤井誠二が登壇。実録犯罪映画からひも解く現代の犯罪社会について対談を交わした。

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円満な夫婦生活と殺し屋稼業という二重生活をしていたククリンスキーについて、法政大学で犯罪心理学の教鞭を振るう越智は「殺し屋という商売は難しい。マフィア映画でもよく登場するが、多くの場合では、殺したことによって心の傷を負ってしまう。商売にするには精神的な負担が大きい」と前置きしたうえで、「でも、ククリンスキーのように、なかにはそれでも殺し続ける人がいる。どんなに肝が据わっていても続けられないのに」と分析した。

殺人鬼が生まれる社会的背景を研究する藤井は、「この映画で描かれるのは、東西冷戦時代の闇社会、マフィア社会での犯行。いろいろな原因が関与して、ククリンスキーが生まれた」と語る。ククリンスキーがポーランド系の移民であることについては、「連続殺人の犯罪者の多くは白人系です。ククリンスキーのような移民は、生きていくなかで、アウトサイダーにならざる負えなかった人。連続殺人の背景としては考えづらい」と関係を否定した。

また、史上最悪の殺し屋と呼ばれたククリンスキーについて、研究対象として非常に興味深いと語った越智。「短気な殺人者は、よく“サイコパス人格”と言われます。このサイコパス人格は治らないというのが通説だった。ククリンスキーは最初はキレやすい男だったのに、最後のほうは感情深く泣いたり、詩を書いたり…。これは人格が治っていく過程とも見ることができる」と指摘。そして、「連続殺人犯には犯行のパターン、好きな殺し方があるはずなのに、ククリンスキーは殺し方が千差万別というのが稀。彼のような人は類型になるほど世の中に存在していない。この“ククリンスキー型”なのは「ゴルゴ13」ぐらいですよ(笑)」と、類を見ない犯罪であることを付け加えた。

高級住宅街に住み、よき父親として振る舞うことで、家族さえも欺いていたククリンスキーについて、「彼は女性や子どもに手を出さないというルールは課していた。自分の家族を大事にし、それを破壊するものは激しく憎悪したり…。彼には、僕らには理解することのできない“大義”があったのかもしれない」と藤井がまとめると、越智は「ククリンスキーの研究を深めてみようかな」とコメントし、1時間に及ぶ対談を締めくくった。

被害者の死亡日時をごまかすために死体を冷凍保存したことから“アイスマン”と呼ばれていた、冷酷で狡猾な殺人者を題材に映像化した『THE ICEMAN 氷の処刑人』は11月9日(土)公開。ククリンスキー役のマイケル・シャノンをはじめ、ウィノナ・ライダー、ジェームズ・フランコ、レイ・リオッタ、クリス・エヴァンスら実力派キャストが集結していることでもぜひ注目したい1本だ。【取材・文/トライワークス】