このコーナーに日産ジュークが登場するのはこれで2回目(第13回参照)。ただ、今回は今年春に追加された新グレードの"NISMO=ニスモ"だ。ジュークのなかでも、もっとも高性能で、もっともマニアックなシロモノである。

 ちょっとしたクルマ好きなら"ニスモ"の名前を聞いたことがあると思う。ニスモ(正式名ニッサン・モータースポーツ・インターナショナル株式会社)は日産の100%子会社で、主軸事業は日産のワークス・モータースポーツ活動。かつてのル・マンやツーリングカー、最近のGT選手権......など、"レースで勝つ日産"の大半が彼らの仕事だ。彼らはそのほかにも、日産用スポーツ部品も手がける。

 ところで、われわれ外部からは、ニスモと似たように見える日産子会社がもうひとつある。オーテックジャパン(以下オーテック)だ。この2社はまったくの別会社。オーテックも日産用オプション部品などを手がけるが、本職は日産車をベースにした特装車・架装車。たとえば日産ベースの救急車や福祉車両、教習車、テレビ中継車......その他いろんな特殊車両の多くがオーテック製だ。だから、オーテックには市販車開発部門やクルマの生産ラインなど、ニスモにはない機能もある。

 そういうオーテックの特装車には、日産正規ディーラーで売られる純正スポーツモデルも数多い。ただ、クルマの性格や日産本体の意向によって、その商品名はいろいろ。堂々と"オーテック"と名乗るときもあれば、オーテックのオの字もつかないこともあり、場合によってはオーテック製なのに"バージョン・ニスモ"なんて例もあったりもした。まあ、クルマに興味がなければどうでもいい話だが、これまでのニスモとオーテックは、クルマに興味があって詳しい人ほど、ややこしくて分かりにくい......というアンビバレントな事態が続いていたことは否定できない。

 前置きが長くなってしまったが、ジューク・ニスモである。日産もやっと「歴史も栄光もあるニスモの名を大切にすべし」と決断して、今年から特別なスポーツモデルの呼称を"ニスモ"に統一。クルマによってバラバラだったキャラクターや味つけもしっかり方向づけして、ニスモを世界的な直系スポーツブランドに育てよう......という戦略に転換した。そんな新生ニスモの第1弾がこれである。

 私のような石頭オタクは「記念すべきスポーツモデル第1号がSUVかよ!?」と思わなくもないが、考えてみれば、今の日産では骨太な基本骨格をもつコンパクトカーはすっかり少数派。フェアレディZやGT-Rといった高額大型車をのぞけば、手頃な価格で、それなりに本格的な内容をもつベース車はジュークくらいしかない。

 ジューク・ニスモは既存のターボ4WD(16GT-FOUR)をベースに、エンジン出力を少しアップして、アシまわりを練り直して......といった内容だ。「欧州で鍛えた」のうたい文句どおり、それなりにガッチリ硬めだが、荒れた面で飛び跳ねることもなく、ステアリング反応は意外にマイルド、そして高速ではスピードが上がるほどしっとり落ち着いて......という大人の仕立て。反応が敏感なだけの、わかりやすくも薄っぺらなものとは正反対。ボディ本体はとくに強化されないのに、こういう味つけをシレッと受け止めるとは、ジュークの基本フィジカルが高いのだろう。

 もっとも、このジューク・ニスモも今のところ、実際の開発作業はニスモではなく日産本体が中心で、"ニスモ"はあくまでブランド名の意味合いが強そうだ。しかし、実際のジューク・ニスモに乗ると、"ニスモ"という明確な名前がついて、ちょっとプラスアルファの価格が許されるだけで、「ニスモだから、これでよし!」と、作り手の頭がスパッと切りかわって、迷いがなくなった感が強い。そのつど膨大な人間がかかわって開発されるクルマという商品は、ちょっとした言葉使いや組織改編だけでも、作り手の意識がまとまって、一気にいいクルマになる場合があるのだ。

 このままいけば、ニスモはスバルのSTIやルノーのルノースポールといった"世界のマニアが認める名品ブランド"と肩をならべる可能性は十分にある。あとは、とにかく途中で投げ出さないことだ。日産にかぎらず、日本メーカーの多くは、ちょっと景気が浮沈しただけで、この種のスポーツモデルをあっさり引っ込める例がかぎりなく多い。「好き者が会社の目を盗んで好き勝手やっている、しかもシツコク!」というところに、マニアのツボは刺激されるものなのだ。継続は力なり。

佐野弘宗●取材・文 text by Sano Hiromune