アベノミクス無視の財務官僚の増税詐術を排せ
官僚たちが増税するために虚報を流し続けている。「消費税率10%でも財政再建できない」「増税で税収が増え、デフレにならない」「増税しないと国債が暴落する」というものだが、これら3点のどれもが根拠薄弱な空論であることを解き明かそう。安倍首相は官僚の詐術を排したうえで消費税増税を最終決定すべきだ。

安倍首相の指示のもとに甘利経済財政・再生相は8月末、消費税増税について有識者60人に意見を求めた。だが、安倍首相らが真剣に問いかけるべき相手は政府内部にいる。増税のために虚報を流し続ける官僚たちだ。虚報とは、「消費税率10%でも財政再建できない」「増税で税収が増え、デフレにならない」「増税しないと国債が暴落する」という3点に尽きる。

まず、1つ目の「消費税率10%でも財政再建できない」について。最新例は内閣府がまとめた「中長期の経済財政に関する試算」である。単なる?試みの計算〞書ではない。この書には、1年前に国会で成立した消費税増税法案通りの引き上げはもとより、さらにいっそうの増税を合理化する狙いが込められている。

増税分が上乗せされる2014年度、2015年度以降、2023年度までの税収が試算されたが、「今後10年間の経済成長率平均が名目3%、実質2%であっても、国・地方の基礎的財政収支(税収・税外収入と国債費を除く歳出の収支)は2020年度でもGDP(国内総生産)比で2%の赤字となり、目標とする黒字化を達成できない」という。これは詐術(人をだます手段)である。

カギは基点となる今年度の一般会計税収にある。「試算」では43・1兆円と、なんと2012年度の実績である43・9兆円より減っているのだ。

現実には景気の好転で、税収は法人税収を中心に大きく伸び続けている。ところが、首相のお膝元の内閣府がアベノミクス効果を完全無視し、2013年度予算の税収見込みをそのまま受け入れ、財務官僚の意に従った。この試算の?ウソ〞は、筆者が安倍首相周辺の専門家たちに指摘したところ「気づかなかった。まさか、そこまでやるとは」とあきれていた。「税収は名目経済成長率の2・5倍ないし3倍くらいの速度で増える」というのが民間シンクタンクの間では常識である。

次に2つ目の「増税で税収が増え、デフレにならない」。上のグラフは1997年度の消費税増税後の政府一般会計の消費税収と消費税を除く税収が1997年度に比べてどうなったか、その増減の推移を追ったもの。消費税増税の後は、経済全体がデフレ圧力を受けて税収全体は減っている。消費税率を1%引き上げると約2兆円、一般会計消費税収は増えるが、1997年度の消費税率引き上げ幅は2%なので毎年度4兆円の消費税収が増えた。だが、所得税収や法人税収などは逆に大きく減っている。

税収全体を見ると、1998年度以来2012年度までの15年間のうち13年は、税収合計が1997年度を大きく下回った。2000年度、2007年度はプラスになったが、プラス幅は誤差の範囲内といえるほど極小で、いわば0勝13敗2引き分けである。

ちなみに、日本の増税失敗に続いて英国も2011年1月実施の付加価値税増税でデフレ圧力が一気に高まり、マイナス成長に陥った。イングランド銀行が躍起となって量的緩和政策を最強化したが、効き目がなくなった。

3つ目の「増税しないと国債が暴落する」。これは財務官僚による執拗な「日本国債暴落」説だ。日米を比較すれば、それが詐術だとすぐわかる。両国政府の純債務を見ると、2011年度末で日本は473兆円、GDP比97%、米国は14兆8000億ドルで同95%だ。日米の債務水準はほぼ同じで、日本が飛び抜けて高いわけではない。しかも日本国債の90%以上は日本国内の貯蓄で賄われており、日銀が買い増しするゆとりが十分ある。米国の場合、国債の3分の1は外国勢に依存しており、投げ売られるリスクは日本よりはるかに高い。FRB(連邦準備制度理事会)による国債買い入れも限界に来ている。外国の投資家はそれをよく知っているので、米国債よりも日本国債をはるかに安全資産だとみている。

安倍首相はわかっておられるだろうが、このような官僚の詐術を排したうえで消費税増税を最終決定してほしい。

田村秀男(たむら・ひでお)
産経新聞社特別記者・編集委員兼論説委員

日本経済新聞ワシントン特派員、米アジア財団上級フェロー、日経香港支局長、編集委員を経て現職。『人民元・ドル・円』(岩波新書)、『円の未来』(光文社)、『財務省「オオカミ少年論」』(産経新聞出版)、『アベノミクスを殺す消費増税』(飛鳥新社)など著書多数。今、政府・日銀の金融経済政策運営に対して数多くの有益な提言を行なう気鋭のジャーナリストとして注目を集めている。



この記事は「WEBネットマネー2013年11月号」に掲載されたものです。