Tomoatsu Amaguchi

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取材・文: 編集部  写真: 三宅英正  翻訳: Oilman

 

今年の1月、藤原ヒロシ氏が e コマースのプロデュース会社に取締役として就任することが発表された。それには昨年6月に話題を呼んだ、藤原ヒロシ氏がセレクトしたアイテムを24時間限定で販売する EC サイト『fragment24.』の取り組みがあった。そのサービスの企画・運営をしていたのが「eコマース・ブランディング」をコンセプトに掲げる会社、ネットコンシェルジェだ。クライアントには UNIQLO (ユニクロ)、資生堂、高島屋など大手のファッション・ビューティー・百貨店企業を抱えるほか、最近ではファッション EC サイト『MAGASEEK (マガシーク)』のリニューアルも手がけた。また同社が発信するブログでは、海外の最新の e コマーストレンドが豊富に紹介されており、EC 事業者およびファッション関係者にとっても必読ブログだ。そんな同社の代表取締役を務めファッション系の e コマース事情を知り尽くす尼口友厚 (あまぐち・ともあつ) 氏に、ウェブ担当者が e コマースの開発や運用で注意すべきポイントから、店舗と e コマースの役割、ウェブ担当者が抱える課題とその対処法など、すぐにでも役立つ実践的なアドバイス、さらには近年話題になっているソーシャルコマースの可能性やその付き合い方、ファッション系 e コマースの未来まで語ってもらったインタビューを、全3回にわけてお送りする。

 

(第1回/全3回)【インタビュー】ネットコンシェルジェ 尼口友厚 / いまブランドに求められるソーシャルコマースとの付き合い方
(第2回/全3回)【インタビュー】ネットコンシェルジェ 尼口友厚 / 藤原ヒロシの『fragment24.』の成功から見えたキュレーションコマースの今後
(第3回/全3回)【インタビュー】ネットコンシェルジェ 尼口友厚/ファッション業界のウェブ担当者が考えたい、実店舗とネットの役割。eコマースとソーシャルメディアの運用で大切なコト

 

- 尼口さんのバックグラウンドとネットコンシェルジェについてご説明お願いします。



大学卒業後、NY に留学していました。しかし留学の途中で父の経営するアパレル会社が倒産して、日本に戻ることになってしまいました。倒産後も事業を細々と続けることになったので、Tシャツのデザインぐらいは自分でもできるようになろうと思って、デザインの専門学校を探していました。専門学校のカウンセラーにウェブデザイナーの中村勇吾さんの「mono*craft」を見せてもらって、ウェブの世界が面白そうだと直感的に思い、ウェブデザイナーの道に進むことを決めました。ただ、ウェブデザインは自分にはあまり向いていなくて、すぐにエンジニアに転職しました。この頃からEC サイトに興味をもちだして、個人で友達に相談されては制作していました。約1年、エンジニアとして経験を積んだ後、憧れていたウェブコンサルティングの会社『キノトロープ』でディレクターとして採用され、そこでも1年ほど勤務しました。その後、運良く新会社を立ち上げさせてもらうことになりネットコンシェルジェを立ち上げました。キノトロープはウェブでのブランディングを意識した会社で、それをちゃんと e コマースにも反映するというのがネットコンシェルジェです。EC サイトは独特のスピード感があるプロジェクト進行を要求されるので、もともとはキノトロープの EC 専門チームとしてスタートし、関連子会社として立ち上がりました。そこから10年が経ち、現在は資本上も卒業して独立しています。

ネットコンシェルジェは「eコマースで、ブランディングを」というコンセプトを掲げていて、主に物販系のアパレル・ビューティー・グルメという領域に集中してプロデュース業務をやっています。ブランド力が消費者の購買行動に大きく影響する領域です。僕たちはブランド (クライアント) の成長を、 e コマースを通して持続的に成長していくためにサービスを提供する会社です。なので EC システム、マーケティング、物流、コールセンター等も必要になってきますので、現在はサービスの範囲が広がってきています。例えば、物流は新浦安にアライアンスを結んでいる倉庫があります。そこにフォトスタジオも構えていまして、売上の悪いコーディネートはすぐに変えられるような仕組みになっています。現在、従業員数は20名程です。

 

- 尼口さんが最近気になる国内外の e コマースサイトを教えてください。

1. Vente-Privee
URL: http://www.vente-privee.com


Vente-Privee

プライベートセールサイトというと日本では『GILT』がすっかりお馴染みですが、その原型となったサイトです。創設者のグランジョン氏の「ブランド価値を守る」という強い思いがラグジュアリーブランドへも伝わり、競合が続々と登場している中で、いまでもNo.1を維持しています。ネットビジネスは模倣との戦いですが、コンセプトや哲学が模倣をはねのける強力な武器になるということがよく分かります。

 

2. 夢展望 (ゆめてんぼう)
URL: http://www.dreamvs.jp


Yumetenbou

安カワ系(安くてカワイイ)というジャンルがあるのですが、10〜20代前半の女性がターゲットの e コマースサイトです。日本発の e コマースサイトとしてここは注目です。社長の岡隆弘さんにお話をうかがったことがあるのですが、「うちのお店は主に携帯電話で商品が売れるから、携帯電話で柄が映えるように商品の柄を大きくしている」と言っていました。つまり携帯電話で売るコトを中心に考えて、商品開発をしているそうです。最近上場しましたね。

 

3. Oh My Glasses(オーマイグラスィズ)
URL: http://www.ohmyglasses.jp


Oh My Glasses

スタートアップ系の注目株です。メガネ屋の e コマースサイトです。海外の有名な WARBY PARKER (ワービー・パーカー) というアイウェアの e コマースサイトに触発されて立ち上げたみたいです。ここの特徴は、試着することが前提の e コマースサイトであるということ。まずユーザーに最大5本まで気になるメガネを選んでもらって注文してもらいます。そしてユーザーに届いた5本のメガネのうち、4本を返却するという「返品前提のビジネス」を展開しています。いま、アイウェアの e コマースサイトとしてはダントツに伸びています。自社でメディアも運営していて、その質も高いので注目です。

 

4. vat19 (バット・ナインティーン)
URL: http://www.vat19.com


vat19

大好きなサイトです。ここは、本当にどうでもいい商品を売っている e コマースサイトです。それをもの凄いクオリティの映像で商品を紹介するんです。(笑) もともとは映像制作会社が立ち上げた e コマースサイトらしくて、とにかく映像制作力が郡を抜いてすごい。そのアホくささが好きです。

 

5. JULEP (ジュレップ)
URL: http://www.julep.com


JULEP

『JULEP』は『beautybuzz (ビューティ・バズ)』というブログメディアも運営していますが、コンテンツの発信頻度はもちろん、質も相当のものです。またfacebook上でも室の高い情報発信と、丁寧なコミュニケーションを感じます。Facebookページヘの「いいね」は13万程度ですが、このページを話題にしている人は8000人程度。参考までに「MUJI」のfacebookページはなんと53万もの「いいね」がついていますが話題にしている人は3200人です。MUJIもソーシャルメディアに力を入れていると思いますが、JULEPのソーシャルメディアの活用力はこういう所でも伝わってきます。これからは「発信力のあるブランドが成長する」ということがよくわかります。

 

2/3ページ: 日本でのソーシャルコマースの現状と、今後の可能性

 

 

- 『Pinterest (ピンタレスト)』、『Fancy (ファンシー)』、『Sumally (サマリー)』『Origami (オリガミ)』などを代表するように、ソーシャルコマースが日本でも注目を集めていますが、日本でのソーシャルコマースの現状と、今後の可能性をどのように見ていらっしゃいますか?

僕が思うに、『Pinterest』は基本的には画像系のソーシャルメディアというイメージです。運用していくうちに e コマースとの相性が非常に良いこと分かってきて、若い女性を中心に e コマースに動いている事実があり、それもあって「ソーシャルコマース」と言われるようになったのかもしれませんね。なので、決して彼らはコマースをゴールにしていないので「ソーシャルコマース」と言ってしまうと、彼らのサービスの全部を表わせていないのかと思います。

 


Pinterest

 

『Sumally』は「モノの"百科事典"を目指す」なんていうコンセプトを掲げていて、eコマースとの関わり方は部分的です。『Sumally』の原型である『Fancy』も同様でしょうね。一方で『Origami』は明らかに「e コマース」を意識しています。最終的には「オフラインコマース」も意識していますし、ここが『Origami』の一番大きな売りなんだと思います。あれだけ多くのブランドを最初の段階から参加させることができたのも「O2O」という殺し文句があったからだと思います。店舗の位置情報も連携させているので来店を促進させることも、店舗で『Origami』のプラットフォームを使って決済することも考えているようですしね。でも「ソーシャル」という視点で考えると、現状だと他のサービスと比べて「ソーシャル」らしさはまだあまり出せていない感じがします。たぶんコンテンツがブランド側からの発信がメインになるので、他のサービスと比べるとソーシャル感やコンテンツのボリューム感がまだ足りてないかと思います。

 


Sumally

 

『Origami』もそれ以外のサービスも、現状で「ソーシャルコマース」というにはまだやるべきことがたくさんあると思っています。発展途上というか模索中の段階だなと。ソーシャルメディアと e コマースの相性自体も業界的にはまだまだ模索中ですし。

ソーシャルメディアを見てすぐにモノを買うという人はかなり気前のいい人ですよね。どちらかというとソーシャルコマースを「ブランディング」として活用するという方がソーシャルコマースの今後の進んでいく方向性にありそうな気がしています。お客さんとの新しい接点作りや、ファンを作るという意味でソーシャルコマースは無視できない存在になると思っています。

 


Origami

 

『Sumally』と『Origami』では成長戦略の描き方も対照的で興味深いですよね。『Sumally』はユーザー、つまり顧客を先に揃える戦略をとり、十分に顧客が揃ったと判断したあとに商品の販売を始めたのに対して『Origami』は先に購入できる商品を揃えた。客が先か、商品が先か。販売方法は似ているのですが、そこに至るまでアプローチがぜんぜん違います。

 

3/3ページ: 「現状、まだブランド側とソーシャルコマース側でユーザーに商品を購入してもらうまでの全体の戦略をつくれていないのだと思います。」

 

- まだソーシャルメディア上で友達が薦めた商品に対して、その場ですぐに購入するという文化が日本人には根付いてないのでしょうか?


Tomoatsu Amaguchi

個人的な考えですが、おそらくどこまでいっても友達が持っているからその場で買おうという消費行動は起こらないと思っています。「友達が持っているからこのブランドは気になる」というのはソーシャル上ではすごく有効だと思うのですが、そこから欲しくなるか欲しくならないかはもっと別の所にあると思います。例えば、ブランド側が発信するプロダクトの情報だったり、場合によっては価格の比較が入ったり、そういったプロセスを経て購入にいたるわけなので。そこを飛ばしてしまって友達が薦めているから買う、という風にはならないと思います。だからといってソーシャルコマースの存在意義がないかというと、まったくそんなことはないと思っています。検索というのはどうしても自分が欲しいモノしか探すことができないので、顕在化しているニーズしか引っ張ってこられません。潜在化していた自分のニーズを引き出すという意味ではソーシャルコマースはすごく大きな意義があるし、そこに価値があると思います。ただ、直接購入させるというにはまだいろいろと「間」の部分を埋めていく仕事があって、そこはソーシャルメディアに頼らずブランド側がどうにかしていく仕事だと僕は思っています。

 

『Fancy』は会員数が800万人ぐらいですが、ネットで会員数が800万人というのは決して多い数ではないです。アーティストの Jay-Z (ジェイ・Z) が出資したり、『Facebook』の有名な人が出資したり、ニュースとしてはサクセス・ストーリーとして演出されていますが、まだまだ期待値のレベルを出ていなくて実際の購買に繋がっているかどうかは論じられていません。ただ、今後どうやってうまくいくかを考えた時に、おそらく先述した「間」の部分を埋めていく必要が出てくると思います。「知る<-買う」ではなく「知る<-理解する<-欲しくなる<-買う」という消費者行動のフローが必要だと思うので、その「欲しくなる」や「買う」の部分をソーシャルでできるように今後何かサービスが出てくるかもしれない。もしかしたら『Sumally』や『Origami』がそういうところを解決してくれるかもしれない。ただ僕は、その部分はあまり外部のメディアに頼りすぎずに、ブランドがきっちりとお客さんとコミュニケーションをとって購買に結びつけていくべきだと思います。

 


Fancy

 

こういうソーシャルコマースの活用方法を間違えると「フォロワーは増えているけど、ぜんぜん売れない」とブランド側はソーシャルコマース側に文句を言ってしまうでしょうね。そして現状、まだブランド側とソーシャルコマース側でユーザーに商品を購入してもらうまでの全体の戦略をつくれていないのだと思います。このソーシャルコマース上ではどういう状態のお客さんがくるので、それに対してどういう風にコミュニケーションを取ってあげると商品の購入に繋がる。とか、そのロールモデルやストーリーを両社で共有していく必要があると思います。

 

(第1回/全3回)【インタビュー】ネットコンシェルジェ 尼口友厚 / いまブランドに求められるソーシャルコマースとの付き合い方
(第2回/全3回)【インタビュー】ネットコンシェルジェ 尼口友厚 / 藤原ヒロシの『fragment24.』の成功から見えたキュレーションコマースの今後
(第3回/全3回)【インタビュー】ネットコンシェルジェ 尼口友厚/ファッション業界のウェブ担当者が考えたい、実店舗とネットの役割。eコマースとソーシャルメディアの運用で大切なコト

 


Tomoatsu Amaguchi

尼口友厚 (あまぐち・ともあつ) /株式会社ネットコンシェルジェ 代表取締役。国内一線のウェブコンサルティング企業、株式会社キノトロープにて大手コスメ会社の EC 支援を担当。その後同社の資本を得て e コマース専門のプロデュース会社、株式会社ネットコンシェルジェを設立。以来、年商100億円を超える大手 EC からスタートアップまで、支援実績は8年間で125社に上る。

ネットコンシェルジェ
URL: https://netconcierge.jp