就活生が企業に提出するエントリーシート(ES)。大手就活支援サイトのリクナビがそのESを共通化する予定という。その就活に対する影響とは? 作家で人材コンサルタントの常見陽平氏が分析する。

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 先週、人事担当者、大学教職員の間で話題になったニュースがありました。それは、就活生が使う就職ナビサイトの雄である、リクルートキャリアのリクナビが打ち出した「エントリーシート共通化」施策です。10月16日付の日本経済新聞が報じました。学生の負荷を軽減する取り組みだと言われていますが、そうでしょうか? 根本的問題をちっとも解決しないと私は考えています。

 まず、エントリーシートとはそもそも何かということについて、説明します。エントリーシートとは、簡単に言うならば、履歴書がより進化したものです。プロフィール情報などが中心の履歴書と違い、「学生時代に力を入れたこと」などより詳しい情報や、「1000万円あったら何に使いますか?」「商品の企画を考えてください」など多様な設問を設定できるのが特徴です。1991年入社の採用で、ソニーが導入したのが最初だと言われています。同社が、学校名にとらわれない採用を実施するために取り入れたものでした。当初は、学生をより味わうために導入したこの取組みですが、徐々に学生にとって負荷のかかるものになっていきました。応募数を抑制するために難問化も指摘されていました。

 日経の記事によると、リクナビは2015年卒向け(つまり、現在の大学3年、修士1年向け)から氏名や住所、学歴、特技趣味などの基本情報に加え、大学で学んだ内容や自己PRなどを共通化したエントリーシートの仕組みを導入します。各社の自由項目を3つまで追加できます。リクナビ上で一度記入しておけば、このエントリーシートの仕組みを利用する企業ならば、どの企業に応募しても同じ内容が自動的に送付されるというわけです。リクナビに求人広告を掲載する約1万社のうち、来年3月末までに2000社程度の導入を狙っているそうです。既に日清食品やNTTコミュニケーションズなどが利用を決定していると言います。

 そもそも、リクナビがエントリーシートの共通化を検討していることは、就活に関わる者の間では周知の事実ではありました。彼らは2010年の9月、就職活動の健全化を目指し、「7つの約束」を発表しました。日経など全国紙にも広告が掲載されました。次のような内容でした。

約束1.入社後の活躍を期待できる出会いを創造します。
約束2.若い人たちが働く機会の拡大、ミスマッチの解消に努めます。
約束3.学業と両立できる就職活動を実現します。
約束4.就職活動にかかる学生の負担を軽減します。
約束5.将来を考える学生に、オープンな機会を提供します。
約束6.産業界が求める人材像を明らかにし、学生、大学に発信します。
約束7.国を越えた就職・採用活動を促進します。

 エントリーシートの共通化は約束4の中で掲げられていました。しかし、いまはもう2013年ですよ。丸3年かかっています。よく言うと慎重に検討したと言えますし様々な難題があったのでしょう。悪く言うと、時間がかかりすぎだと思います。この「7つの約束」もすっかり風化されてしまいました。

 肝心のエントリーシート共通化ですが、私はこの件は学生も企業もあまり救わないと思っています。

 この報道では、リクナビに登録する大学生が送付するESは平均22社で、共通化することで学生の負担が減れば、学生1人当たりのESの申し込みが2〜3社は増えると見込んでいるとあるのですが、手間を軽減することは良いことだと捉えても、そもそも応募を増やすことは良いことなのでしょうか。良くも悪くも応募しやすくなったことで、たくさんの人を「さばく」採用にしてしまったのは、リクナビが作った悪しき状態です。学生からするならば、数撃ちゃ当たる状態だと勘違いされているわけです。もちろん、これまでもウェブ経由の応募の場合、学生は一度つくった答をコピペしていましたので、その部分は効率化していますが。

 内定が出ない学生に限って、どこにも響かないような自己PRを使いまわしているものです。この共通化という取り組みによって、企業に響かないエントリーシートを何度も送付して落ちるという、「いくら頑張っても落ち続ける」学生が増えることも懸念されます。

 逆にこの取組みによって、応募数が増えて収集がつかなくなったり、コピペが増えて意味がなくなってしまったら、エントリーシートという仕組みそのものが崩壊する可能性はありますけどね。

 この取り組みが、学生の作業レベルでの手間の軽減に役立つ可能性がありつつも、学生もたくさん応募し、企業もたくさん対応する(あるいは無視する)ことで疲れる、就活の課題はちっとも解決しないと考えた次第であります。あくまで手間の軽減ですね。

 なお、やや宣伝っぽくてなんですが、最新作の『普通に働け』(イースト新書)と、11月刊の『「就社志向」の研究』(KADOKAWA)では、就活をめぐるリクルートの功罪について論じていますのでご参照ください。特に後者では1章かけて論じています。

 今回の件もそうですが、就活の改革につながる取り組みは、常に「それで本当に学生は救われるのか?」というものだらけです。手間の軽減という点も大事なポイントではありますが、そもそも、ここまでしないと学生と企業が出会えない構造をどうするかを考えたいところです。