富士フイルムは2001年頃から「技術の棚卸し」を行なうなど構造改革に着手。祖業だった写真フィルム事業を縮小する一方、化粧品や医薬品、医療用機器など新しい稼ぎ頭を次々と生み出し、現在では2兆円以上の売上高を誇るマルチ企業へと成長を遂げている。

 では、どんな技術と取り組みが成長につながったのか。

 富士フイルム創業の地、神奈川県西部に位置する足柄周辺は、神奈川工場を始め、富士ゼロックスなどグループ企業の事業所が集積する企業城下町。この一角に2006年、「先進研究所」が設立された。

 6階建て、総床面積5万9000平方メートルの建屋に約1000人が勤務する。世界でも最先端の技術を持つ同社の“頭脳”だ。先進研究所の随所にはユニークな設計が見られる。

 他社の多くの研究所では、研究ごとに部屋が異なるのが一般的だが、ここでは大部屋に研究者の席を置く。“うしろの席はまったく異分野の研究者”という状況だ。浅見正弘・取締役R&D統括本部長(57)が語る。

「行き詰まった時に、すぐ別の分野の研究者に聞いてヒントが得られる」

 廊下からガラスで中が見通せる会議室、エレベーター付近などにはホワイトボードが置かれた打ち合わせコーナーもある。

 実際に所内を歩くと、多くの研究者がオープンスペースで化学式などを書いて打ち合わせしていた。他の社員がどんな研究をしているかが分かる。だから異分野との融合がしやすいという寸法だ。

 先進研究所のエントランスホールでは、飛び立とうとする梟の像とローマ神話のミネルバの女神像が来訪者を出迎える。そして、「ミネルバの梟は黄昏に飛び立つ」という哲学者ヘーゲルの『法の哲学』序文の一節が記されたパネルが置かれている。ミネルバは来るべき新しい世界での戦いに備えるため、梟を飛ばし次の文明を探らせたという。

 写真フィルムの“黄昏”に、次の時代を支える技術とは何なのかその想いが、先進研究所に込められている。

※SAPIO2013年11月号