『The Invisible Woman』で監督と主演を兼ねたレイフ・ファインズ/[c]JUNKO

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アカデミー賞主演男優賞にノミネートされた『イングリッシュ・ペイシェント』(96)や、『ハリー・ポッター』シリーズのヴォルデモート役で知られ、『007 スカイフォール』(13)からジュディ・ディンチ扮するMの後任として今後のボンドシリーズでボンドのボスを演じる名優レイフ・ファインズ。『英雄の証明』(11)に次いで2本目となる監督・主演作『The Invisible Woman』(全米12月25日公開)が第51回ニューヨーク映画祭に出展され、共演者のジョアンナ・スカンランとともに登壇した。

【写真を見る】笑いを交えながら壇上で語るレイフ・ファインズと出演者のジョアンナ・スカンラン/[c]JUNKO

同作は、クレア・トマリンによる同名の著作本を基に描かれており、「クリスマス・キャロル」(1843)などで知られる19世紀の偉大な作家、チャールズ・ディケンズ(1812-1870)が不倫関係にあったとされる女性エレン・ターナンとの知られざる世界を描いたものだ。

ディケンズは、キャサリンという妻との間に10人の子宝に恵まれながらも、45歳の時に出会った18歳の女優のエレン(本作ではネリーとして、フェリシティ・ハフマンが扮する)と不倫関係に。1858年にはキャサリンと別居していたものの、スキャンダルはディケンズの死後まで公になっていなかったとされている。

「もともとディケンズには興味がなかったのですがが、たまたま彼のお芝居を見る機会があって、彼と45歳の時に出会った18歳の女優ネリーとの関係が謎のままだということを知り、突然興味を持ち始めたんです。最初は監督と主演を兼ねるのは無理だと思っていたので出演する気はなかったのですが、脚本家のアビ(・モーガン)と一緒に脚本を進めるプロセスの中で、自分が実際に演じてみたり、台所で全員のセリフを大声で読み上げているうちに、自分がディケンズを演じたいと思うようになりました」

「まずこの映画を見る観客に対して、ディケンズが大スターだったということを知らせる必要があると思いました。彼は、芝居小屋の観客だけではなく、朗読を聞いてくれる観客を愛していましたし、リーダーシップを取るのが好きな人物だと思います。それらは彼にとって非常に大事なものでした。作家になる前は役者を目指していたこともあるくらいで、人前に出るのが好きだったのでしょう。自らの著作を朗読する仕事を見出したことで、彼は大いなる成功を収めました。彼は生前、2度ほどここニューヨークを訪れていますが、2度目は死の直前で体調が悪かったにもかかわらず朗読を行い、チケットは完売になりました。彼には公の場とのつながりが必要だったのだと思います」と製作、主演を演じるまでの経緯を語った。

ディケンズの妻で、10人の子供を授かりながらも疎遠状態が続いていたキャサリンを演じたジョアンナは、「監督・主演として、レイフと一緒に仕事ができただけで嬉しかったです。でも、私の役はいつも一人ぼっちで、皆が楽しそうにパーティをしている間もずっと孤独な状況に置かれていたので、それがちょっと残念でした」と語り、会場の笑いを誘った。

1850年代の時代を反映した建物やコスチュームについて、「ビクトリア朝の時代の建物は、ある決まった大きな模様のパターンの壁紙に、重厚な木の家具や内装などといった基本的な特徴があるので、なるべくその時代に忠実な家屋、置物などにこだわりました。またコスチュームデザイナーが、当時の衣装をなるべく忠実にコピーしてくれた上に、実際にその時代のベストを用意してくれたおかげで、時代設定の中に入りやすかったんです」というレイフ。彼がインスパイアされた作品の一つは、マーティン・スコセッシ監督が、脚本・出演も兼ねた1870年代を描いた同名タイトルの著作本の映画化作で、アカデミー賞衣装デザイン賞を受賞している『エイジ・オブ・イノセンス 汚れなき情事』(93)だったという。

「『エイジ・オブ・イノセンス〜』は、マナーや慣例、立ち振る舞いなどにおいて、当時をとても良く反映しているからです。監督としてその時代をしっかり受け止めながら、映画の中で自らが演じるということは、とてもセクシーで危険なことだと思うんです。この矛盾する立場にありながら、スコセッシ監督はしっかりと表現しており、素晴らしいと思いました」。

ゆっくりと語るレイフの口調と同じように、同作もまたゆっくりと美しい映像が展開するが、背後からのショットが多いのが印象的だ。

「人間の頭とか後ろ姿は、どんな顔をしているんだろうと背後からイメージすることができて、とてもミステリアスだと思うんです。ネリーの家を訪ねる時のキャサリンがかぶっているボンネット(つけひもをあごの下で結ぶ帽子)は、当時女性らしさを表す象徴だったと同時に、自らを守る鎧のようなものでした。これから起こりうることを帽子の後ろから垣間見える表情から暴いていくという手法に、とても興味があったんです。その人が見ているものだけを語りかけるのではなく、背後から彼らが見ているものを想像できるので、背後からのシーンは気に入っています」と、細部にわたる監督としてのこだわりを語ってくれた。

最後に、もしディケンズが生きていたら何を聞いてみたいかとの問いには、「実際にあなたがネリーと出会ってから書いた著作本のヒロインには、ネリーが反映されているのか、ということどうかですね。特に『大いなる遺産』(1860)とか『互いの友』(1864)に描かれているヒロインはネリーなのか、そしてそこに真実があるのかを、厚かましくも聞いてみたいです」とレイフが語ると、妻役のジョアンナは、「『一体あなたは誰と会っていたの?私(妻)とは何回くらい顔を合わせたの?』と聞いてみたいわ」と答え、会場をまたもや大きな笑いの渦に巻き込んだ。【取材・文/NY在住JUNKO】