今週はこれを読め! SF編

 人気作品『ハローサマー、グッドバイ』の続篇。といっても、あれから何世代もが経過し、ドローヴとブラウンアイズのロマンスはすでに伝説となっている。この新しい物語は、すべてを凍らせる季節が到来しようという直前、主人公の少年がひとりの少女と出会うところからはじまる。まさに前作の再演だ。

 まず、この世界の設定をおさらいしておこう。主人公たち(人間型だが地球人ではない)が暮らす惑星は太陽フューのまわりを公転しているが、惑星ラックスの引力によってその軌道が歪み、太陽から大きく遠ざかってしまう。そうして訪れる厳寒期が、人びとの生活を壊滅させ多くの生命を奪うのだ。科学的整合性に淫するマニアは「こんな不安定な惑星系に生命が発生するか? そうだとしても知性や文明が発達しうるか?」と首をひねるだろうが、これは天文物理のクイズではなく、文学的隠喩なので辻褄にこだわらずともよい。死の象徴であるラックスは人びとの死生観や生活感覚の深淵まで食いこんでおり、この物語でもさまざまな局面で作用する。

 物語はいくつもの層が折り重なっている。いちばん先にあらわになるのは恋愛の層だが、これは判で押したようなボーイ・ミーツ・ガール。内陸で暮らす少年ハーディと海辺の娘チャームとがひとめで恋に落ち、共同体の垣根を越えてそれをまっとうしようとする。

 第二の層は、その共同体の問題が関わってくるミステリで、ハーディの父で村長の補佐役でありブルーノが海辺の村で殺害される。はたして内陸と海辺の反目によるものか、あるいは内陸村内部の抗争もしくは怨恨によるものか? フーダニットとホワイダニットとが探求されることになる。

 第三の層は、厳寒期の到来をいかに乗りきるかのサバイバルだ。判断力に優れたブルーノが亡くなったことで、内陸の村はもとより海辺の村でも対策の足並みが揃わない。目先の利害を越えて協力しなければ全滅の危険すらある。

 第四の層は、この惑星のなりたちに関わる謎だ。厳寒期を乗りきるカギは、どうやら不思議な動物ロリンが握っているらしい。ロリンは『ハローサマー』でも重要な役割を果たしたが、その近くに寄った人間はなぜか労働意欲を失ってしまう。もふもふした穏やかなかんじとでも言えばよいか。じつを言えば、この第四層の真相に到達したときに「こんな不安定な惑星系に生命が」というハードSFの疑問もあっさり解消される。この前、谷甲州『星を創る者たち』に驚愕したばかりだが、本書のサプライズもそれにきわめて近いものがある。読んでのお楽しみ。

 さて、以上に述べた四つの層はバラバラに動くのではなく、それらを縦貫する仕掛けをコーニイは用意している。それは「夢見」もしくは「星夢」と呼ばれる特殊な記憶能力だ。ひとは自分の同性の先祖の記憶を継承している。ただし随意に呼びだせるのではなく、記憶を遡るプロセスが必要だ。どこまで過去へ到達できるかは才能による。また、記憶を封じるギーズという刻印もある。これは機能ではなくタブーであって、無理に突破できないこともないが、冒涜なのでふつうはやらない。このギーズ、謎解きミステリのギミックとしては、アンフェアではないにせよちょっと都合がよすぎる観もあるのだが、まあ固いことは言わずにおこう。

「夢見」は『ハローサマー』にはなかった能力なので、おそらく前の厳寒期のさなかに(あるいは直後に)新しく身につけたものなのだろう。この物語のクライマックスで恋人たちは「夢見」をぎりぎりまでおこない、ハーディはドローヴの、チャームはブラウンアイズの記憶まで到達する。つまり過去の因果がいまへとめぐる恋。どこまでロマンチックを重ねれば気がすむのか、コーニイ。

『ハローサマー』にはなかった、本書ならではの新設定がもうひとつ。それは地球人がこの惑星に来ていることだ。希少元素の採掘が目的だが、その地球人のひとりとやりとりをするなかでハーディは自分たちを相対的に眺める視点を得る。

 いっぽうに盲目的な恋、もういっぽうに惑星規模の歴史(運命)。このバランスというか振幅というかが、この作品の読みどころだろう。まあ、ぼくはそれよりロリンのもふもふ感にもっぱら耽溺していましたが。

(牧眞司)

『パラークシの記憶 (河出文庫)』 著者:マイクル・コーニイ 出版社:河出書房新社 >>元の記事を見る

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