ジェームズ・グレイ監督作『The Immigant』に主演し、ニューヨーク映画祭の会場に姿を現したホアキン・フェニックス/[c]JUNKO

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第66回カンヌ国際映画祭にも出展された『The Immigrant』が第51回ニューヨーク映画祭で上映され、監督のジェームズ・グレイと、直前に出席を決めたというメディア嫌いで知られるホアキン・フェニックスが、ジーンズとフード付きトレーナーにサングラス姿で記者会見に臨んだ。

【写真を見る】ほとんど正面を向くこともなく、唯一語った役作りの話も奇妙なものだったホアキン/[c]JUNKO

『裏切り者』(00)、『アンダーカヴァー』(07)、『トゥー・ラバーズ』(08・日本未公開)に続くグレイ監督とホアキンの4度目のタッグとなる本作は、ポーランドからニューヨークへ多くの移民が流れ込んできていた1921年が舞台。生まれ故郷のポーランドを離れ、約束の地ニューヨークへやって来た姉妹だったが、エリス島に到着すると結核の妹・マグダが隔離されてしまい、エヴァ(マリオン・コティヤール)は途方に暮れる。バーレスクの雇われオーナーのブルーノ(ホアキン・フェニックス)と出会い、彼の罠におちてしまったエヴァは、妹を救うため売春婦となり、すべてを犠牲にしようとするというストーリー。エヴァを巡ってブルーノの恋敵となる従弟のオーランド役を、ジェレミー・レナーが演じている。

グレイ監督は製作に至る経緯について、「2008年ごろにプッチーニのオペラ『三部作』をロサンゼルスで見たのがきっかけです。三部作の一部、二部の2つの悲劇は、ウィリアム・フリードキン監督が、三部の喜劇はウディ・アレン監督が手掛けているのですが、二部の『修道女アンジェリカ』は出演者がすべて女性でした。約60分間のオペラを涙ながらに堪能したんですが、その時突然、僕が常に“男らしいふるまい”とか“マッチョ”と呼んでいる、男性としてあるべき強迫観念みたいなものから解放されたんです。『女性の視点から描かれた、なんてドラマティックで美しいメロドラマなんだ』と感激しました。そこで僕は、男性の振る舞いという概念を切り捨てた、オペラ的なメロドラマを作ろうと思ったんです」

「移民をテーマにしたのは、僕の祖父母が実際に1923年にエリス島に移住してきた移民だったからです。アメリカ映画でよく見られるような、『アメリカに来て、成功したぞ!』というような簡単なものではなく、もっとドロドロとして複雑なものだったという話を聞きました。もちろん文献もいろいろ調べましたが、いわゆるアメリカンドリームの映画にはしたくなったのです。主人公をキリスト教徒にしたのは、テーマが罪の贖いと赦しにあるからです。誰にも上下はなく、価値のない人間なんていない、ということを言いたかったんです」と語った。

主役のマリオンとホアキンについては、「ふたりを想定して脚本を書いたという」グレイ監督。「子供が3人いて、2006年には監督業を休んでいたので、その頃の僕は業界事情に疎かったんです。正直、マリオンのことを知りませんでした。たまたま彼女のボーイフレンドと知り合いになって、ある日パリで彼とマリオンと食事をした時に、僕とマリオンは好きな女優について話していて、『マリオンが女優を高く評価しすぎている』と僕が言ったことで言い合いになりました。マリオンが、怒って僕の頭にパンのかけらを投げつけたのが出会いでした。彼女は、僕のことを世間知らずの嫌な奴だと感じたのではないかと思います」

「マリオンの顔は造形が美しいだけではなく、何か物憂げで悩んでいるような、サイレント映画の女優のように、何も言わなくても表情で心の奥深くに秘められたすべての感情を表現できるタイプの顔だと思いました。そのことについてはマリオンとも話したのですが、カール・ドライヤー監督の『裁かるるジャンヌ』(1927)のルネ・ファルコネッティを彷彿させ、また、とても知的な女性だとも思いました。彼女がポーランド人であろうとフランス人であろうと関係ありませんでした。マリオンとホアキンが出演を快諾してくれていなかったら、この作品は作っていなかったでしょう」と、驚きのエピソードも披露してくれた。

ホアキンについて、「毎回新しい発見をさせてくれる、素晴らしい役者で…」と語り始めると、すかさずホアキンが、「そんなこといいじゃん。5作目(のタッグ作)で話そうよ」と監督の話を遮るシーンも。また、痛々しいほどにエヴァを愛し続けたブルーノを熱演したホアキンが、役作りのリサーチについて聞かれ、グレイ監督が、「移民についての本を渡したよね」とホアキンに話を振ると、「“くる病”だね。その時“くる病”に取りつかれてて、映画の中で生かせる場面はないかと思って一生懸命考えたんだけど、ダメだった。役作りのために調べたのはそれだけだよ」とバッサリ。さすがのグレイ監督も苦笑いだったが、いかにもホアキンらしい本気とも冗談ともとれる回答に、会場からも笑いがこぼれた。

ホアキンと言えば、2008年には髭ぼうぼうの姿で「役者は疲れた」と役者引退を宣言し、ラップミュージシャンに転向しながら(フェイクドキュメンタリー『容疑者、ホアキン・フェニックス』(10)でその姿が確認できる)、『ザ・マスター』(12)に出演。過去にオスカーにノミネートされながら「アカデミーなんてくそくらえ」と発言したが、同作でアカデミー賞主演男優賞にノミネートされるという、まさに業界の異端児であり実力派であることは誰もが認めるところだ。

同記者会見でも記者の質問に答えないどころか、足を組んで浅座りをしたまま、椅子のむいた方向(監督の方)以外ほとんど観客席を見ることもなく、一度外したサングラスを途中でかけて会見に臨んだホアキン。しかし会場は早くから並んだ記者たちで満席となっており、オスカーノミネートへの期待の高さがうかがえた。【取材・文/NY在住JUNKO】