主演作『All is Lost』の上映でニューヨーク映画祭の会場に登壇したロバート・レッドフォード。なんと御年77歳!/[c]JUNKO

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第66回カンヌ国際映画祭で大絶賛された『All is Lost』(全米10月18日公開)が、第51回ニューヨーク映画祭で上映され、J・C・チャンダー監督とロバート・レッドフォードが登壇した。

【写真を見る】長編2作目となる『All is Lost』を手掛けたJ・C・チャンダー監督/[c]JUNKO

長編デビュー作『マージン・コール』(11・日本未公開)でアカデミー賞オリジナル脚本賞にノミネートされたチャンダー監督が2作目の主役に選んだのは、御年77歳のレッドフォード。久々の監督・主演作『ランナウェイ 逃亡者』(日本公開中)の記者会見で、「自分の変わり果てた姿を見れば、落ち込むよ」と語っていたレッドフォードだが、メディアの関心は未だに高く、会場は瞬く間に満席となった。

同作の出演者は、なんとレッドフォードひとりだけ。インド洋でボートが転覆し、救命ボートで必死にサバイバルゲームを展開しながら自らの運命を見つめていく様子が描かれている。夜中の2時半にニューヨークに到着したチャンダー監督とレッドフォードだが、レッドフォードがなかなか現れなかったため、まずはチャンダー監督が製作経緯について語った。

「31ページの脚本を完成させてから2、3週間後にレッドフォードに脚本を送ったんです。セリフがほぼ皆無なので、台本というよりは、シーンごとの瞬間瞬間の状況について事細かく記述したものでした。アイデアが浮かんでから脚本が仕上がるまでには約1年間くらいかかりましたが、アイデア自体は、若い頃に何度か家族でセーリングをした経験に基づいています。20歳代前半で嵐に遭遇した時の恐怖感は、今でも忘れることができません。だだっ広い海の上での解放感と船の中の閉塞感が入りまじり、まるで船がドラム缶のようでした」と、当時を振りかえった。

ここで、ジーンズに茶のジャケット、昔と変わらぬさらさらな金髪のレッドフォードが遅れて登壇。会場からは大きな拍手が起こり、早速同作に出演した経緯と役作りについての質問が飛んだ。

「サンダンス映画祭で上映された『マージン・コール』は見ていたけど、それ以外彼については何も知らなかった。まず最初に脚本を読んだ時点で、魅力的な要素がたくさんあった。セリフがほぼ皆無で大胆でありながら、詳細がぎっちり詰まった骨太な脚本で、はっきりとしたビジョンが感じられた。だから彼に会ったときはこの役を演じることにかなり乗り気で、ただ会って、彼が変な奴じゃないか、ってことだけ確かめたかったんだ」と語り、会場の笑いを誘った。

「レッドフォードのオフィスで会って話したのは、わずか10分くらいでした。かなり綿密な準備をしましたが、特に説得する必要もなかったんです。彼が膝をたたきながら、『やろう』って言ってくれて、その瞬間から、どこからくるのかわからない信頼感が生まれて、その後のプロセスはもう素晴らしいものでしたね」とチャンダー監督。レッドフォードも、「その時の状況とか直感で、誰かの手に自分を委ねてもいいと思えるような信頼感を感じるのは本当に稀なことだけれど、彼にはそれを感じたんだ」と語り、お互いの信頼感をアピールした。

「J・Cに、この人物のバックグラウンドを質問してみたら、ちゃんと答えなかったんだ。でも最初に主人公が家族に読む手紙の中に、『トライはしたんだ』っていうセリフがあって、それで何か足りないものを探すための旅だったってことがわかるだけで十分だった。これだけ夢中になれる役っていうのはそうそう見つからないし、観客も彼に共感できると思った。何より、彼がスーパーヒーローでもプロの船乗りでもなく、悪いことが起きて初めて何かを学ぶ人間であり、危機に直面したとき、極力平常心を保ち、諦めるか目の前のできることをやるかという選択があった時に、後者を選ぶキャラであったことも気に入ったんだ」

「役作りは、脚本がよくできていて、基本的にその通りに演じればよかったから、あまりしていない。普段から泳いでいるし、セーリングについては3、4人のエキスパートから指導を受けたけど、自分でも経験があったからね。自分の人生の中で色んな困難を乗り越えてきたから、それを生かして自分を信じて演じた」というレッドフォードは、船に水が入ってきたシーンで、まず髭を剃った仕草に関しても、平常心を保つためにやる自分の経験を生かしたという。

セリフはほぼ皆無の約2時間、顔と身体だけで感情を見事に表現し、当然スタントマンが代わるはずの泳ぎのシーンなどもほぼ自分でこなし、スタッフを唸らせたというレッドフォード。「彼は、泳ぎも狭いところでの演技も難なくこなしてくれた」というチャンダー監督に、「僕があの状態で快適だったと思ってたの?」と聞き返して会場の笑いを取ったレッドフォードは、そのプロ根性と渾身の演技で、アカデミー賞主演男優賞のノミネートが確実視されている。もしノミネートされれば、俳優としては実に『スティング』(73)以来の快挙となり、40年後の復活に期待したいところだ。【取材・文/NY在住JUNKO】