『12 Years a Slave』が好評なスティーヴ・マックイーン監督がニューヨーク映画祭で登壇/[c]JUNKO

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第38回トロント国際映画祭で最高作品賞を受賞し、早くもアカデミー作品賞の最有力候補として呼び声高い『12 Years a Slave』(全米10月18日公開)が第51回ニューヨーク映画祭で上映され、スティーヴ・マックイーン監督が、衝撃の長編デビューを果たした『Hunger(日本未公開)』(08)、『SHAME シェイム』(11)に続いて同映画祭で3度目となる記者会見に臨んだ。

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同作は、ソロモン・ノースアップ著作の自伝で、同タイトルの著書(1863年)がオリジナル。南北戦争以前の1841年に、自由の身でニューヨークに生まれた黒人ソロモンが、奴隷制度が根強く残る南部ルイジアナに売り飛ばされ、3か所の綿花農園で奴隷として12年間の月日を過ごした後に、自由を獲得していくというストーリーだ。

主役のソロモンを演じるのは、『アミスタッド』(97)で映画デビューを飾ったキウェテル・イジョフォー。マックイーン監督と3作連続でタッグを組んだマイケル・ファスベンダーが卑劣な白人農場主を演じるほか、ベネディクト・カンバーバッチやポール・ジアマッティ、ポール・ダノ、昨年『ハッシュパピー バスタブ島の少女』(12)で史上最年少でアカデミー賞主演女優賞にノミネートされたクヮヴェンジャネ・ウォレス、そして製作も兼ねるブラッド・ピットら豪華キャストが脇を固めている。

奴隷制度を描いた映画としては、昨年アカデミー賞作品賞にノミネートされたクエンティン・タランティーノ監督作『ジャンゴ 繋がれざる者』(12)が記憶に新しいが、「そもそも奴隷制度というものが何だったのかを、知らなかった。ある時、『奴隷制度について最初に知ったのはどんなことだったか』って初めて聞かれて、知っているべきことを知らない自分に気が付いたんだ。覚えているのは、恥辱的できまり悪い感覚だけだった。それが映画を作るきっかけになって、リサーチを始めた。もともと奴隷じゃなかった黒人が奴隷になり下がるというストーリーは新しく、自分らしい作品になると感じた。そうしたら妻が『12 Years a Slave』の本を持っていて、僕に手渡してくれた。僕が思い描き、映画にしたいと思った内容の本に出会うっていうのは、凄いことだ。家族と引き離されて自身の旅をすることになるソロモンの置かれた状況は、誰にでも共通する部分があってとても気に入ったし、甘い罠にかかったソロモンが、いろんな苦難を乗り越えてサバイバルしていく様子は、ピノキオにも共通するところがあって面白いと思った」と、製作過程について語った。

ちなみに、同著作本のテレビ映画化でゴードン・パークス監督作『Solomon Northup's Odyssey』 (84、日本未公開)の存在は知らなかったというマックイーン監督。本作を手掛けたことで自分の先祖のことを知らなかったことを痛感したそうで、「奴隷についてリサーチで学んだことは、サバイバルに尽きる。手榴弾も拳銃も持たない彼らが、どんな状態にあっても生き抜いてきたおかげで、自分が今ここにいるんだということだ。自分が、奴隷として生まれる人生を想像できるだろうか?それは人間にとって最悪の悲劇だと思う。生まれた時から雇い主の意のままで、自分が意志を持てない“無”だという、精神的ダメージの深さは計り知れない」と熱弁した。

3度目のタッグとなるファスベンダーについては、「もちろん僕はいつも彼の出演を望んでいるけれど、彼は別に僕の監督作だから出ているわけじゃない。だから、彼が出演してくれたことは本当に嬉しい。彼は本当に素晴らしい役者だし、今あの年代で最も影響力のある役者だと言える。かつてのミッキー・ロークやゲイリー・オールドマンみたいに、彼みたいな役者になりたいとか、彼が出るから出演したいとか、彼の出演する映画が作りたいと言わしめる実力と人を引き付ける力がある。まるでジンジャー・ベイカーみたいだ」とファスベンダーを絶賛したマックイーン監督。2年前に『SHAME シェイム』の記者会見に登壇した際に遅咲きのファスベンダーが、「サラリーマンでもそうだけど、人生には節目っていうのがあって、僕も30歳を節目と考えていた。芽が出なかったら役者をあきらめようと思っていたから、役者を続けることができたのは監督のおかげだ」と語っていたように、まさにふたりはお互いをスターダムにのし上げた相思相愛の関係だ。わずか5年の間に、今や“イギリス版マーティン・スコセッシ監督とロバート・デ・ニーロ”と言われるほどになった。

同作は、現時点で『ゼロ・グラビティ』(全米公開中、12月13日日本公開)とともにオスカーの最有力候補作品であり、監督賞、そしてキウェテルの主演男優賞、ファスベンダーの助演男優賞をはじめとした複数のノミネートが確実視されているが、役者たちがこれだけの素晴らしいパフォーマンスを生み出したのは、ずばり何だったのだろうか。

「一番大変だったのは、リハーサルだ。もちろんアドリブが全くないかと言えばウソになるが、とにかく何度も役どころについて話し合って、共演者同士でたくさん話をしてリハーサルを重ねると、その時点で一つの球体のような一体感が生まれてくる。その上で本番で彼らが生み出した演技は、たとえ自分が思っていたものと違っても、すべて正しいし、美しいし、まるでマジックのように最高のものであるはずだ。すべては信頼関係が生み出した結果だ」と監督は語った。

既に受賞の確率に話題が移っているほど、今年最大の注目作になっており、各賞総なめも期待できそうだ。【取材・文/NY在住JUNKO】