日本を震撼させた宗教事件に巻き込まれ勤務先の大学をやめることになり、年収150万円まで落ちたという島田裕巳さん。しかし、そのとき、少ない収入だからこそ、豊かで幸せな毎日を送れる「少欲知足」の「プア充」生活の喜びに気づいたそうです。マリコさんの「野心」とトークバトルです!

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林:先生がお書きになった『プア充―高収入は、要らない―』を読ませていただきました。私の本『野心のすすめ』とは真逆な内容で(笑)。

島田:ハハハハ。

林:オビに「年収300万円だからこそ、豊かで幸せな毎日!」とあって、あくせく働くのはやめて、ゆったり時間をとって、外食もやめてうちで食事をしようとかいうことを書かれていますけど、ちょっと寂しいような感じが…(笑)。でも、今の若者の生活ぶり、すでに「プア充」に近いんじゃないですか。

島田:実態としては「プア充」に近いですね。

林:私、このあいだはミラノ・スカラ座の「リゴレット」を見て、夏はドイツのバイロイト音楽祭に行ってすごく楽しかったんですけど、「ああいう楽しさを一生知らないでいいわけ?」みたいなことをつい思ってしまうんです。今の若い人たちって、留学もしないし、車の免許もとろうとしないし、食べていければ一流企業じゃなくてもいいやと考えて、結婚もしないし…。

島田:それでいいというよりも、その枠の中に押し込められちゃって、年収300万以下じゃ結婚できないとみんな思い込んでいるんじゃないですか。だけど、昔は貧しいからこそ結婚したと思うんです。

林:「一人口は食べられないけど、二人口は食べられる」って言いますよね。

島田:そういう感覚が今は失われているんです。お金がなきゃ生活が成り立たない、だから給料のいい会社でたくさん働かなきゃいけない、それでブラック企業に入っちゃったりする。本当にそれでいいのかと思うんですね。出発点のところで社会にだまされちゃってる。

林:でも、「結婚したほうがいい」と言うと、今の世の中、そういうことって女性を制約することだという流れがあるじゃないですか。「結婚して籍を入れること自体、男社会に組み込まれる」とか言って。

島田:そこまでの自覚がある人はいいと思うんですよ。

林:ああそうか。自覚がある人は何をしたっていいですよね。

島田:多くの人はそういう自覚がなくて、特に「いい人がいれば結婚したい」という人が多いですけど、いい人なんていないじゃないですか。

林:はい、いないです(笑)。

島田:いい人がいると思っている人は、結婚できないんですよ。昔、僕が日本女子大で教えていたとき、卒業生で結婚している人が学生のときにどういう意識を持っていたか、学生に調査させたことがあるんです。そしたら、結婚しようとはっきり思っていた人は結婚してるんですよ。「いい人がいたら」的な人は、半分ぐらいしか結婚していない。

週刊朝日  2013年10月18日号