9月23日付けのWTAランキングで60位になったクルム伊達公子は、62位の森田あゆみを抜いて、日本女子ナンバーワンに返り咲いた。現在もその順位をキープしているクルム伊達だが、「あくまでも一時的なもの」と捉え、一喜一憂することはない。

「あゆみちゃんと、たいしてランキングが変わらない状況になったといっても、今週だけの話であって、彼女は今(腰の)ケガをしている。別に、あゆみちゃんと戦っているわけではないですし、日本人とだけ戦っているわけではない。ポジションが上だから下だからということで、自分の中で変化が起きることはないです。とにかく、1年通してケガなく、自分のテニスをすることを目標として戦っています」

 夏の北米シーズン中に悩まされた右アキレス腱痛からは解放され、秋のアジアシーズンに臨み、その4大会目となったHPジャパン女子オープン。クルム伊達は、大阪で3年ぶりとなる初戦突破を果たし、2回戦では、日本女子期待の若手のひとりである土居美咲と対戦した。

 多くの日本女子選手にとってそうであるように、土居にとっても、クルム伊達は目標にしている選手だ。

「偉大な選手でもあります。私が小さい頃も、世界のトップで戦っていた選手ですから、憧れもある。他のトップ選手とは違ったオーラをすごく感じます」(土居)

 ふたりの過去の対戦成績は、クルム伊達の2勝1敗だが、直近の対戦(WTA北京大会の予選)では、体調不良のクルム伊達が試合途中でリタイアして、土居が勝利していた。

 4度目の対戦は、緊迫した試合展開になった。そしてクルム伊達は、6−7、4−6で敗れた。最後まで強い気持ちで戦い切った土居は、素直に勝利を喜んだ。

「伊達さんに勝つのはひとつの目標でもあったし、日本で勝てたのはすごく大きい」

 現役再チャレンジを始めてから、「若手の刺激になりたい」とプレイを続けてきたクルム伊達にとって、土居ら若手の成長は、心のどこかで待ち望んでいたものでもあった。

「こういう結果が、どんどん増えていかないと、日本の女子テニス界は明るくならない。いつまでも私が勝ち続けている場合じゃないです。競っている場合じゃないと思うぐらいで、(私が)挫折感を感じるぐらいの方がいいんだと思います」(クルム伊達)

 今回の大阪大会では、22歳の土居だけでなく、21歳の奈良くるみもシングルスでベスト8に進出した(10月10日現在)。土居と奈良は、ジュニア時代から切磋琢磨してきた同級生。土居は75位、奈良は87位まで世界ランキングを上げ、共にトップ100入りをしている。クルム伊達は、そのふたりのさらなる成長に期待する。

「今回、土居ちゃんもくるみちゃんも、日本の大会で勝っている。今、くるみちゃんが上がってきて、いい刺激をし合えている関係なんじゃないかな。それで、今回のいい結果になっていると思う。ふたりとも体が大きい方ではないので(奈良は身長158cm、土居は159cm)、トップ100に入って、これからさらにトップ50やその上を考えると、壁があるのは間違いないですから、そこでどういうテニスをしていくか、次のステップを踏まえて戦っていかないといけないと思います」

 もちろんクルム伊達も、負けたままで終わるつもりはない。

「私自身もやるからには、当然ベストを尽くして、ベストの結果を毎回求めていく。今日の結果(土居に2回戦で負けたこと)にも満足していないですし、また次に土居ちゃんと対戦する時には、やり方を考えて、改善できることがまだあるという気持ちがあります」

 今年の秋のアジアシーズン、クルム伊達は、ソウルでベスト8、東京で2回戦進出、北京で予選の決勝進出、大阪で2回戦進出と、1勝もできなかった昨年よりいい結果を残した。

「アキレス腱の問題が解消されて、アジアでは体の心配をすることがなかった。中国では予想外に体調を崩したけど、テニスの調子が悪いわけではなかったです。それぞれの大会で課題はあるし、その日の自分の調子、相手の調子もある。テニス自体はそんなに悪くない中で戦えたんじゃないかな」

 2013年シーズンのクルム伊達のWTAツアーは終了したが、今後、WTAチャレンジャーという、グレードがひとつ下の南京大会(10月28日〜)と台北大会(11月4日〜)の出場を予定している。

 若手の確かな成長によって、日本女子テニスの新しい時代が築かれようとしている中、43歳にして日本女子の最上位に返り咲いたクルム伊達。その存在感は、土居が子どもの頃にクルム伊達に憧れを抱いていた時と同じように、今もなお大きい。

神 仁司●取材・文 text by Ko Hitoshi