W杯本大会まであと8カ月。10月、11月には欧州遠征が行なわれる日本代表だが、これまで、格上相手の試合で自分たちの力がどこまで通じるのかの「腕試し」という印象が強かった。そのため、「何がなんでも勝つ」という姿勢があまり感じられなかったように思う。

 もちろん強豪相手に自分たちのサッカーがどのぐらい通用するかを見るのは重要で、今まではそれでよかった。ただ、W杯本大会で「自分たちの100%の力でやりきりました、でも負けました」で終わってほしくない。自分たちのスタイルを貫いて負けても、自分たちの力がなかったからと潔(いさぎよ)く負けを認めて終わるようなことはしてほしくない。もがいて、もっと勝負にこだわってもらいたいということだ。

 ブラジルですら、スペインやドイツに勝つためにどうするかを考える。日本も、もっと勝つためにどうするかをいろいろ考えなくてはいけないのではないか。ザッケローニ監督の志向するサッカーが軸にあったうえで、相手との力関係を見た時に、どうやって勝ち点を取るかをチームとして考える必要がある。

 バルセロナやスペイン代表は、王者として自分たちのスタイルを貫く。王者だから自分たちのスタイルは変えなくていい。日本にもスタイルはあるが、格上と対戦する時、何らかの手を打たなければいけない。いろんな戦い方を持っていなければ勝利することはなかなか難しい。だからこそ、ザッケローニ監督は3−4−3システムを試すのだと思うし、さまざまな戦い方で、相手に揺さぶりをかけて、その隙を突いていく。

 本田圭佑ら選手も言っているように、W杯出場国のなかで日本は強豪ではない。弱者とは思わないが、自分たちの立ち位置をしっかり理解したうえで、勝つためにいろんな手を尽くしてもらいたい。

 これは失点を減らすために守り倒せということではない。たしかに、サッカーには人数をかけてゴール前を固めるやり方もある。でも、それでは勝てないとザッケローニ監督は考えて、今のメンバーとスタイルを採用しているのだと思う。

 日本サッカー協会が、W杯南アフリカ大会後、ザッケローニ監督に日本代表の指揮を託したということは、つまり、守備的なスタイルではなく、自分たちが主導権を握るサッカーで世界と戦っていきたいということだと思う。

 もともと、そうした方針でザックジャパンがスタートしているのだから、もっと守備に比重を置いたスタイルにすべきというなら、監督を代えなくてはいけない。ザッケローニ監督は攻撃的に主導権を握るサッカーを求められたのであり、守り倒すチームをつくるために就任したわけではない。

 だからこそ、今のザッケローニ監督が志向するスタイルを推し進めて、信じて続けるべきだと私は思う。最終ラインからワントップまでがピッチの4分の1に入るぐらい陣形をコンパクトにして守備をして、攻撃には人数をかける。

 守備に関していうと、最終ラインを高くすることがザックジャパンの生命線で、当然リスクもある。それでも、勝つ確率をあげるためにDFラインを上げる。チームとしての連動性を高めて、決め事をしっかり作って規律をしっかり守らないと、穴はできる。そうであっても、ラインを高くして、コンパクトにして、攻撃的な守備をすることで勝利をめざしてほしい。

「攻撃的な守備」というのは、ボールを奪っていい攻撃につなげるための守備。それがザッケローニ監督のコンセプトで、私はその方針を変えるべきではないと思っている。

 もちろん、完璧な守備なんてない。ラインがそろわなくてやられる時もある。トレーニングを重ねて守備の組織力の精度を高めていくしかない。W杯本大会では、対戦相手のレベルが数段上がるのだから、最終ラインに少しでもギャップができた瞬間にやられる。それは8月のウルグアイ戦でよく分かったと思う。

 ウルグアイにあれだけカウンターを食らったのは、相手が守備を固めているところに日本がどんどん向かっていって、悪い形でボールを奪われたのが原因。日本が攻撃に出てくる力を向こうが利用して、こちらのギャップをうまく突いてきた。その駆け引きをするためにも、選手同士がコミュニケーションをより密にしないといけない。だからこそ、最終ラインはある程度メンバーを固定して連係と精度を高めていくべきだろう。

 強豪との試合で、攻撃でも守備でも選手たちが「このままでは難しい」と思うところがあったはずだ。「もっといろんな手を尽くさないと難しいんじゃないのか?」ということが分かっただけでも、コンフェデやウルグアイ戦の敗戦というのは十分意味があったと思う。

 強豪に勝つために、試合の流れを読み、コントロールしてゲームを進める力も重要だろう。どんな試合でも、全員が「勝つために今どうすべきか」を考えていないと、試合の流れはつくれない。「とりあえずやれることをやろう」だけでは足りない。90分の試合の流れをつくりだすことが重要で、20年前に比べればはるかにそのレベルは上がっていると思う。

 また、11月に対戦する格上のオランダレベルの国に、攻撃をどう仕掛けるかという部分については、ドルトムントの戦い方がひとつのヒントではないかと考えている。

 世界のトップではないドルトムントというクラブが、レアル・マドリードなどのビッグクラブに勝つために何をしているのか。「ハードワーク」と、「組織的な守備」と、「縦に速い攻撃」だ。これは、オシムさんが日本代表監督時代に目指していたサッカーにも共通点がいくつかあった。運動量が抜群に多く、縦へのランニングも多い。それを90分間やり続け、規律をしっかりと守り通すメンタリティ。そういうもので上回っていかないと、日本は世界の強豪とは戦っていけないと私は思う。

 ザッケローニ監督も、縦に速いサッカーを狙っているのだと思う。ボールを奪ったらすばやく相手の守備ラインの裏を1本のパスで突いていくサッカー。こうした縦にスピーディーに展開していくサッカーがこれからのトレンドになっていくだろうし、ドイツ代表のように選手の体のサイズも大きくなっていくだろう。全員がハードワークをする縦に速いサッカーが、これからの主流になっていくはずだ。

 9月のグアテマラ戦とガーナ戦で、ボランチのふたり、とくに遠藤保仁が前線に飛び出すシーンが増え、得点も決めた。今までだったらパスを選択していたところで、シュートを狙うシーンもあり、強豪からゴールを奪うために、ボランチは守って後方でパスをさばくだけでは駄目だということを意識していることが見てとれた。それは、方針転換とまでは言わないが、ひとつの変化だった。チーム全体にもそういう「縦への積極性」が出てきているので、それが強豪相手にどのぐらいできるのか、さらに注目したい。

 ベスト8、ベスト4をワールドカップで目指すのであれば、逆算して何をすべきか。世界のトレンドも踏まえたうえで、ザッケローニ監督が志向するサッカーを信じて続けていってほしい。

福田正博●解説 analysis by Fukuda Masahiro