第63回ベルリン国際映画祭で最優秀女優賞を受賞した『Gloria』のパウリナ・ガルシア/[c]JUNKO

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第63回ベルリン国際映画祭で銀熊賞女優賞を受賞した『Gloria』が第51回ニューヨーク映画祭で上映され、主演を務めた52歳のチリ人女優のパウリナ・ガルシアと、メガホンを取ったチリ人監督のセバスティアン・レリオが記者会見に臨んだ。

【写真を見る】『Gloria』は第51回ニューヨーク映画祭で上映され、監督とパウリナが登壇/[c]JUNKO

同作は、58歳にしてバツイチのキャリアウーマンのグロリアが主人公。彼女は娘や息子、孫にも恵まれているが、老いと孤独感から脱出するためにシングルパーティに出席。バツイチの男性ルドルフと出会い、彼と第二の人生を送ろうと考えるが、いつまでも過去の家族から離れられないルドルフに翻弄されながら、自分を見つけ出していくドラマだ。ベルリンの主演女優賞受賞作品とあって、メディアの注目度も高く、試写後は会場からも大きな拍手とともに、ブラボーという絶賛の声が上がった。

脚本も手掛けたセバスティアン監督は、心理描写の鋭さで注目を集めている39歳の新進監督だが、「僕は今の50歳代、60歳代の人たちにとても興味があるんです。というのもチリは、彼らが成人したころの1973年9月11日の軍事クーデターで独裁体制になり、1990年には17年ぶりに民主主義を取り戻しました。2006年にはチリで初めて女性大統領が生まれましたが、彼らは、変化の波についていくことが難しいような激動の時代に生きてきた世代だからです。国が変化するのに合わせて、自分も変えていかなければいけない状況に苦しむことが多かった世代の人たちと、自分の置かれた立場をなかなか受け入れることができずに個としての自分を見つけようともがくグロリアとの間には、共通点があります」

「脚本をまったく書いていない時点でこの作品の発想を考えついたとき、まずはファンであり、一緒に仕事がしたいと思っていたパウリナが頭に浮かびました。グロリアは、まさにパウリナをイメージして書いた人物です。この作品が完成するまでには、色々な問題が生じましたが、最後まで変わらなかったことは、パウリナこそがグロリアだという点です。この作品では、“人が誰かを愛した後”に見えてくるものが大切なファクターになっているので、まず自分がパウリナに惚れ込まなくてはいけなかったのですが、もちろんそれは簡単なことでした」と、同作を製作するまでの経緯について語った。

当日は交通渋滞に巻き込まれ、記者会見の途中で登壇し、拍手喝采を浴びたパウリナ。アメリカでは50歳を超えた女優はおろか、40歳を過ぎるとごく一部の女優以外にはお決まりの役以外に回ってこないと言われる中で、実に生き生きと、還暦を目前にした等身大の女性をリアルに演じたことが、世界中の映画界にとってもセンセーショナルなことだった。

「チリでもメキシコでも、60歳以上の女性にはなかなかいい役が回ってこないんです。そんな中で私がこの作品を演じられたことはラッキーでした。グロリアは、ある意味どこにでもいる女性です。監督が、いろんな女性にインタビューをしてくれて、その話をたくさん聞きましたが、私自身も演じるにあたって、母、祖母、姉、友人ら色んな人が頭に浮かびました。フィクションでありながら、実生活にインスパイアされた役どころでもあったんです」とパウリナ。

ハリウッド女優とは違う、一般中年女性特有のたるんだ肉体で挑んだ全裸のセックスシーンもまたリアリティを倍増させたが、グロリアを演じるにあたって難しかった点は何だったのだろうか。

「もちろん裸のシーンとかセックスシーンでは常に緊張していたし難しかったですが、一人芝居のシーンが多く、キャラクターの正直な気持ちになりきってそれを表現していかなければならないのが、最もチャレンジングな事でした。共演相手がいれば、お互いの関係の中で時にはお互いを補い合いながら話を展開できるのですが、一人で多くのシーンを展開させていくということは、私の演技にすべての責任がかかっている、それが大変なことでした」と語ったパウリナ。その緊張感と責任感が実を結び、見事最優秀主演女優賞を手に入れた。

ベルリン映画祭で同作は、「なんとなく男性にいいように性の対象のようにされた感のある中年女性が、バシッとけじめをつけていくストーリー展開はまさに爽快で、特に中年女性から拍手喝采を浴びた」そうだが、「Facebookなどで多くのリアクションがありましたが、中年女性だけに限らず、いろんな世代の女性、ひいては男性からも共感のメッセージがたくさん届きました。驚いたのは30歳代の男性が寄せた、『僕もグロリアと同じように感じている』というコメントでした。まさに世界共通、世代を超えて共感できる主人公だと思います」と監督が言う通り、まさに人生の縮図と言える同作は、見るものに勇気を与えてくれる作品に仕上がっており、パウリナのオスカーノミネートにも期待がかかる。【取材・文/NY在住JUNKO】