今週はこれを読め! SF編

 異色短篇の名匠と呼ばれる作家は何人もいるが、そのなかでもチャールズ・ボーモントはひときわ目映く見える。1929年生まれ、16歳のときに先輩作家レイ・ブラッドベリと知りあいその交遊のなかで小説家を志し、20歳そこそこでデビュー、以来、SF誌やスリックマガジンを舞台として活躍する一方、TVの怪奇SFシリーズ〈ミステリーゾーン〉に脚本を提供、しかし若年性アルツハイマーを発症し1967年に早世してしまう。20年足らずの作家活動で発表した作品は60篇ほど、生前に刊行された短篇集は5冊。「彼がもっと長く活躍していたら......」と多くのファンが思ったはずだ。



 もっとも、異色短篇作家が輝く時間はおおむね短い。ブラッドベリは洗練を手に入れるかわりに暗く甘やかな幻想性を手放していったし、ロバート・シェクリイは才気煥発な奇想性はもっぱら初期だけで、やがて人文科学的なロジックをひねる方向へとシフトしていった。リチャード・マシスンは職人的エンターテインメント作家となり、ウィリアム・テンは小説家としては半引退の状態になった。



 その点、早世したボーモントは絶頂期のまま止まっている。だからファンはいっそう彼に憧れる。かく言うぼく自身もそうだ。早川書房《異色作家短篇集》に収録された『夜の旅、その他の旅』でこの作家を知ってから、新しいボーモント短篇集を待ちわびて幾星霜。2007年に論創社《ダーク・ファンタジー・コレクション》の一冊として『残酷な童話』が刊行され、ようやく渇を癒やした。本書の編者である井上雅彦もおそらく同じ思いだったろう。



 この『予期せぬ結末2 トロイメライ』は日本オリジナルのベスト・セレクションだが、既刊の邦訳短篇集との重複を避けており、全13篇のうち初訳が4篇含まれている。日本のファンの目に触れにくかった作品を掘りおこしたいという意気だ。また、スリラータッチの犯罪小説「殺人者たち」は『残酷な童話』収録の「人を殺そうとする者は」の異稿で、クライマックスが違っている。読み較べが楽しめるという、これまたファンには嬉しい趣向である。



 その「殺人者たち」を挟み、「黄昏と怪奇と幻想」と銘打った怪奇篇(第一部)が6篇、「未来と戦慄と星空」と銘打ったSF篇(第二部)が6篇という構成だ。総じて怪奇篇のほうが、SF篇よりも引き締まった作品が多い。



 SF篇のうち「エレジー」と「変身処置」はボーモント自身の脚本によって〈ミステリーゾーン〉で映像化されていて、たしかに情景はドラマ映えしそうなのだが、活字で物語を追うと文明批判のテーマ性が直截に出すぎているきらいがある。ただし、モチーフは師匠筋のブラッドベリを思わせて興味深い。とくに「エレジー」は舞台を移せば『火星年代記』の一挿話になりそうだ。



 SF篇でいちばん面白いのは、ベム小説「フリッチェン」だ。ベムといってもフリッチェンは小動物(イメージとしては両生類っぽい)で、少年がそれを拾って飼おうとするのだが、何を食べるのかなど生態がよくわからない。珍獣を眺める楽しさと徐々に高まっていく不吉な雰囲気と、一度で二度おいしいアイデア・ストーリーだ。



 いっぽう怪奇篇のほうは、どれも面白い。巻頭を飾る「血の兄弟」は、吸血鬼が精神分析医を訪ねて悩みを打ちあける、いかにもスリックマガジン好みの設定(初出は〈プレイボーイ〉)でスマートなオチがついている。



 「とむらいの唄」はボーモント最晩年の作品で、これぞ"奇妙な味"と喝采したくなる傑作。誰かが死ぬのを予測したかのように訪ねてくる正体不明の男ソロモンも無気味だが、彼の存在を深く考えずに受け入れている村人たちの日常性もちょっと恐い。ただひとりソロモンに拒否感を覚えている「ぼく」が、数奇な運命に翻弄されることになる。結末の謎めいた余韻が印象的だ。



「トロイメライ」は、唯我論の発想を悪夢のごとき展開へと落としこんでみせる。



「悪魔が来たりて----?」は、悪魔との契約を扱ったユーモア・ファンタジイ。ボーモントのデビュー作で、下読みをした編集助手が編集長に「採用して小切手を送るように」と進言したとの伝説がある。二転三転する展開も機知に富んでいるし、愛嬌があって憎めない悪魔もいい感じだ。



「幽霊の3/3」は、初出が男性誌だったせいかエロチックな要素をスパイスとして配しているが、骨格は伝統的なゴースト・ストーリー。といっても古色蒼然たる恐怖で終わらず、落とし噺になっている。これまたスリックマガジン的なしゃれっ気だ。



「秘密結社SPOL」は、秘密クラブ小説。笑いのセンスが入会要件になっているらしいのだが、それを判定する段取りがまたへんてこで、その微妙な空気をボーモントの筆がうまく描きだしている。全体に不条理感が漂う、これまた"奇妙な味"の逸品だ。



 本書の価値は、ボーモント作品の質だけではない。多くの収録作を手がけた訳者・植草昌実の「解説」と編者・井上雅彦の「編集序文」が、気分を大いに盛りあげてくれる。井上さんはそれ以外に収録各篇ごとに口上を添えているのけど、これがヒッチコックばりの名調子。泉下のボーモントもさぞ喜んでいるだろう。



(牧眞司)




『予期せぬ結末2 トロイメライ (扶桑社ミステりー)』
 著者:チャールズ・ボーモント
 出版社:扶桑社
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