バスケシーズン到来――。9月28日、新リーグ『NBL(ナショナル・バスケットボール・リーグ)』が開幕した。「ミスター・バスケットボール」こと、リンク栃木ブレックスの田臥勇太選手が今シーズンにかける想いとは? さらに田臥選手は、大人気バスケットボール漫画『黒子のバスケ』についても熱く語ってくれた。

――ついに新シーズンが開幕しました。現在の体調は?

田臥 例年以上に好調ですね。

――新リーグでは、第1・第3ピリオドで外国人選手が2名同時にコートに立てます。ゲームにどんな影響があるのでしょうか?

田臥 それぞれのチームが、2名の外国人選手をどう使うのか。インサイドがメインなのか、インサイド+アウトサイドで使うのか。チームカラーが色濃く出てくると思います。日本人選手と外国人選手のマッチアップも増え、バスケット的により面白くなるはずです。

――ポイントガードとして、コートに2名の外国人選手がいるのは、やりやすいですか?

田臥 日本人選手のビッグマンも頑張ってくれています。ふたりいるからどうこうというより、攻撃のバリエーションが増えるというイメージですね。

――それでは、今シーズンのリンク栃木はどんな戦い方を?

田臥 今はシーズン序盤。チームのベースを徹底していく段階です。チームの決まり事がある上で、チャンスがあれば走って、自由に思い切りよく攻めるのが理想だなと思っています。外国人選手を含め、走れる選手、走りたがる選手が多いので、パスは出しやすいですね。僕自身の理想とするスタイルに近いです。より自由に、より速い展開を目指しつつ、ハーフコートでもしっかり攻める時間を作りたいと思っています。

――リンク栃木は開幕前、リトアニアでキャンプを行ないましたが?

田臥 ヘッドコーチがリトアニア出身なんです。「チームに浸透させたいバスケは、こういうバスケなんだ」というのを体感できました。

――リトアニアのキャンプで得た物とは?

田臥 ヨーロッパのバスケの見え方がホントに変わって......。今までは正直、見ていて楽しいし、カッコいいので、アメリカのバスケばっかり見ていました。だけど、リトアニアでユーロのバスケを経験し、一見、地味だけど、バスケの奥深さなどいろいろ発見がありましたね。

――たとえば、どんな部分でしょうか?

田臥 ひと言で言えば、『うまさ』。アメリカの高さや速さ、個人能力で勝負するスタイルと違って、ものすごい個人能力を持った選手はいなくても,チームとして統制されていて、強いんです。ボールを持った選手だけでなく、チームとして連動して動くことが徹底されている。だから、崩れることがないんですよね。やるべきことをチームで徹底し、それでシュートが外れたらしょうがない。もう一度、守ってシュートチャンスを待とうというスタイルが確立されている。

――そんな中、日本人選手が通用した部分はありましたか?

田臥 やっぱりスピードでしたね。相手のディフェンスを割っていくときや、速攻のスピードは戦えるなって感じました。

――では、今シーズンのチームの目標は?

田臥 もちろん、優勝を目指します。そのために、まずはプレイオフに出られる位置を狙います。

――田臥選手個人の課題や、目標はありますか?

田臥 常にアグレッシブに。特に得点の部分は、狙って取っていこうと思っています。コーチからも、「アグレッシブに攻めろ」と言われているので。積極的に攻めることでゲームをコントロールすることが、今シーズンのテーマですね。まだまだ、できることはいくらでもありますから。

――つまり、「まだうまくなれる」ということですか?

田臥 もっとうまくなれると思っている......と言うより、うまくなりたいです。リトアニアに行って、すごく感じたんですよね。動き方、ボールの操り方、パスの仕方――。ひとつでも、ふたつでも取り入れたい。学ぶべきことはいくらでもありましたから。

――自身、今年で33歳という年齢は気になりませんか?

田臥 身体のケアには時間をかけなければいけないですし、今まで以上にトレーニングしなければいけない部分もあります。ただ、衰えというのは一切、感じません。

――現在は、学生時代に田臥選手に憧れて練習に励んだ選手たちと同じコートに立っています。そんな世代にも、負けるつもりはないですか?

田臥 そうですね。対抗意識はないですけど、いい刺激になります。僕を見てきてくれた選手と同じコートに立つ。「一緒にやったらココが違うんだ」「コレがすごいんだ」って感じてもらえるようなプレイをしなければいけないってことが、モチベーションのひとつになっています。でも正直、自分の事しか気にしてないんで(笑)。それぞれ選手は頑張っているので、それに負けないようにするだけ。自分のことだけで精一杯です。

――今もうまくなりたいという向上心は、何が支えとなっていますか?

田臥 それは単純で、バスケットが好きなだけです。それだけですね。やっていて楽しいから。パスが通った瞬間、点を取った瞬間、どの瞬間も......。ミスした瞬間ですら、悔しいけど楽しい。この感覚は、ミニバス(ミニバスケットボール)時代から変わってないですね。

――そこだけは変わらない、と。

田臥 バスケが好きというより、今もどんどん好きになっている。知れば知るほど、奥が深い。すごい奴もいくらでもいる。だから、コートに立っているだけで楽しいんです。ホント、一瞬でも長くバスケを続けたいだけです。

――2020年、東京オリンピック出場は視野に入っていますか?

田臥 出たいですね(笑)。そのとき、40歳。必ず目指します。

――ただ、日本代表は今夏のアジア選手権で9位。オリンピックの自国開催は決まっても、国際連盟の判断次第では開催国枠で出られる保証はないという状況です。

田臥 絶対にそれは避けなければいけない。そのためにも今シーズンは、7年後の、そして日本バスケの未来のためにも、大切な1年なんです。

 バスケボール漫画『黒子のバスケ』を知っているだろうか? 強豪・帝光中学校に「キセキの世代」と呼ばれる、10年にひとりの天才が5人同時に存在し、無敗を誇った。そして中学を卒業した5人は、別々の高校へと進学。しかし、彼らの他に、もうひとりの天才――「幻の6人目(シックスマン)」と呼ばれる、黒子テツヤというプレイヤーが存在した。そしてその主人公・黒子が、チームメイトの火神大我と全国制覇を目指していく物語――。「『黒子のバスケ』を読んだことは?」。田臥選手にそう聞くと、「ガッツリじゃないですけど、あります」と答えてくれた。

――主人公・黒子テツヤは、マジシャンなどが用いる「視線誘導(ミスディレクション)」を駆使し、マークマンの眼前から消え、スティールやパスでチームの得点を導きます。現役選手の立場からすると、非現実的すぎるように感じますか?

田臥 いえ、同じようなことは常に考えます。基本的に、「どう消えるか」ってことばっかり考えていますから。オフェンスのとき、ボールを持ったチームメイトではなく、マークマンの視線を見ていたりするんです。相手の目線を盗んで、視線が切れた瞬間に動くことで、マークをずらすことができる。特に僕は(身長が)小さいので、そういう一瞬のズレを作ること、消える動きということは常に意識しています。

――プロの選手にも理解できるプレイなんですね。

田臥 ええ。試合では相手もスカウティングして来るので、『次はこういう動きだろ』と予想しています。だからその裏を突いて、空いているゴール下にいきなり飛び込んだりもしますね。でも、やり過ぎると、『そこにいたら邪魔だ!』って、インサイドの外国人選手に怒られるんですけどね(笑)。

――黒子テツヤ同様、田臥選手もパスが持ち味のひとつです。相手の意表を突くパスを出すとき、どんなことを意識しているのですか?

田臥 ボールを持った瞬間、そのまま(パスを)出せるか、一歩踏み込むか――。その違いはすごく大事にしています。なぜなら、一歩踏み込むと、ディフェンスが対応できてしまうからです。ただ同時に、いくら速いパスを出しても、受け手とイメージが共有できていないとキャッチできない。だからボールをもらうとき、誰が走り出しているか、どんな動きをしているか、ぼんやりとですがコート全体を見ますね。

――『黒子のバスケ』に登場するキセキの世代のひとり、赤司征十郎の「天帝の眼(エンペラーアイ)/相手のあらゆる動作を先読みできる能力」みたいですね。ただ、得点に直結するようなパスは、同時にリスクも高いのでは?

田臥 それはチャレンジするか、しないか、です。ビビってないことが大事だと思います。もちろん、点差、残り時間、状況によって、リスクをどれくらい負うべきかは考えますよ。

――黒子テツヤの「サイクロンパス(遠心力を利用する長いパス)」のようなロングパスも、田臥選手は実際の試合でも狙いますよね?

田臥 はい。モーションは小さいほうが、実際は通りやすいでしょうけどね。僕の場合は相手の顔の横や、手が届かないところを狙ったりもするんです。ボールをカットされないためには、より早く、ディフェンスの手が届かないところにパスを出す必要があるので。それに自分は(身長が)小さい。自分より大きいディフェンスの手にひっかけないためには、どうすればいいのか? 相手に読まれた時点でパスは通りませんので、いかにわからないようにパスを出せばいいのか、昔から意識しています。でも、そういうプレイは悩んで考え抜いたというより、面白さを感じてやっていましたね。相手が、『こんなところにパスはしないだろ』と思っているところに、パスをしたいと。もちろん、味方が取れなければ意味がないのですが、『俺はこういうパスを出す』という意識は練習で共有できるようになるし、誰が、どこで、どういう状況で欲しいのか、選手によってのクセや特徴も観察しています。

――『黒子のバスケ』では、敵のプレイをコピーして自分のものにする黄瀬涼太、コートのどこからでも3ポイントシュートを決められる緑間真太郎、抜群の跳躍力を誇る火神大我など、自分だけの武器を持った個性豊かな選手たちが登場します。実際、自分だけの武器や個性を見つけるは難しいですか?

田臥 それは簡単で、「自分の好きなプレイとは何か?」ってことだと思うんです。シュートが好きなのか、パスが好きなのか、ドリブルが好きなのか、ディフェンスが好きなのか......。自分が好きなプレイを磨いていけばいい。僕は最初、マジック・ジョンソン(元ロサンゼルス・レイカーズ/ポイントガード)のプレイに憧れたので、シュートよりパスに楽しさを感じたんです。マイケル・ジョーダン(元シカゴ・ブルズなど/シューティングガード)やチャールズ・バークレー(元フェニックス・サンズなど/パワーフォワード)に憧れていたら、違うスタイルになっていたと思います。

――「憧れ」が今の田臥選手のスタイルを作ったと。

田臥 そうですね。バスケは、身長が高いにこしたことないけど、低くてもできることがある。足が遅くても、走り出しを一歩速くするだけで、先頭を走れる。得点を取れなくても、リバウンドやディフェンスでチームに貢献できることがある。僕は自分の身長を弱点に思うときもあるけれど、強みに思うときもある。必ず、その人にしかできない、チームに貢献できるプレイってあると思います。

――それは多くの選手の励みになります。

田臥 あと、最近、「何を考えているかわからない選手」というのが、相手にとって脅威だし、究極の目標かもしれないなって思いますね。

――『黒子のバスケ』で言えば、相手の反応を見てからプレイを変更できる、「後出しの権利」の能力を持つ、木吉鉄平の能力に近い?

田臥 近いかもしれないですね。NBAのサンズで一緒にプレイしたスティーブ・ナッシュ(現レイカーズ)がホントにそうでした。淡々とやっているように見えるけど、何を狙っているかわからない。マッチアップして鼻息が荒かったりすれば、「ドライブが来るな」ってわかるんです。でも、ナッシュは飄々(ひょうひょう)とドライブしてくる。何を考えているか完全にわからない選手っていうのが究極かもしれないです。

――では、もし、『黒子のバスケ』で登場する選手と同じ能力を持てるとしたら、誰の能力がほしいですか?

田臥 もちろん全部、欲しいです(笑)。ひとりだけなら......、誰ですかねえ? 一度でいいので、火神選手みたいに高く跳んでみたいですね。あれだけ跳べたら、どんな世界が見えるんだろうって思います。あんなすごいダンクをしてみたいです。

――では、チームメイトとして一緒にプレイしてみたい選手は?

田臥 黄瀬選手かな。敵のプレイをコピーできるのは、面白いですよね。どんな強い選手が相手チームにいても、そのプレイをコピーしてくれたら、ポイントガードとしては助かります。ただ、ズバ抜けた能力を持った選手がチームにひとりいても、勝てないのがバスケの面白さなのかなとも思います。

――それは、どうしてですか?

田臥 どんなにすごい選手がひとりいるより、一体感のあるチームの方が強いと思うからです。昨シーズンのNBAは、マイアミ・ヒートが優勝しましたけど、レブロン・ジェームズひとりで勝ったんじゃない。各々が自分の役割を理解し、そこに責任を感じ、徹底できたから強かったんだと思うんです。

――では最後に、「楽しくなければ勝利じゃない」という黒子テツヤの信念は、プロの立場からはどう思いますか?

田臥 正直、僕はどんな内容のゲームでも、勝って楽しくなかったことはないですね。たとえ、自分のプレイが良くなくても、勝てたら嬉しいです。ただ、黒子選手の考え方もわかります。もし自分がダメでも、チームが勝つということは、チーム全員で補えたということなんで。そもそも僕は、プレイできるだけで楽しいんで(笑)。コートに立てるだけで嬉しいんです。

水野光博●構成・文 text by Mizuno Mitsuhiro