「〜じゃね?」は“方言”だった!? 関東の意外な方言を大学教授が解説

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今回のテーマは…

<横浜のココがキニナル!>
語尾に「○○じゃん(か)」とつけたり、列に割り込む「横はいり」は横浜の方言と聞いたのですが本当でしょうか。ほかにも横浜に方言があるのか気になります。(enさんのキニナル)

■まさか、「じゃん」は横浜発祥ではない!

「最近、夜更かしばっかりしてんじゃん。ダメだよ」
「別にいいじゃん。ちゃんと朝起きてるんだから」

横浜生まれ、横浜育ちの記者は親子の会話でも当たり前のように「じゃん」を使ってきたが、中学生くらいまでは方言だと意識したこともなかった。

関西からの転入生が「横浜に来るから『じゃん』を練習してきた」というのを聞いたり、テレビ番組の中で、“横浜といえば「じゃん」”というような扱いを見たりして、横浜独特の言葉なのか?と思ったこともあったが、今ではドラマの会話や関東広範囲で使われ、やはり標準語ではないか?と思ったり・・・。

「横はいり」にいたっては、完全に標準語だと思っていたので、方言と指摘されて驚いた。
ハマっ子が当たり前のように使っている言葉が方言かもしれない!

この真相を専門家に尋ねようと、方言について数々の著書をお持ちの明海大学・日本語学科教授の井上史雄先生の元へ向かった。

先生に「方言」の定義を伺ってみると、「標準語と対になっているもの。一定の地域でふだん使っている言葉があれば、それは方言。1県独自の方言は少なく、何県かにまたがっているものが多い」とのこと。

では「じゃん」は方言なのか?
先生に伺うと、「じゃん」は方言といえるが、横浜発祥ではないそうだ。

先生曰く、方言の「じゃん」と対になる標準語は「ではないか」。「ではないか」が話し言葉で変形したものなのだそう。

「では」→「じゃ」 (「それでは」が「それじゃ」となるように変わった)

「ない」→「ん」 (「やらない」が「やらん」、「行かない」が「行かん」となるように変わった)

「か」→脱落 

「ない」が「ん」に変わるのは、西日本特有のものであって、この点からも関東発祥ではないことがわかるとのこと。

■「じゃん」はどこから来て、どこへ行く? 

関東発祥ではないという「じゃん」。ではどこから来たのだろうか?

1905年に山梨県で「じゃん」が使われていた記録があり、山梨県が発祥地と考えられている。それから、1940年代の静岡での空襲の記録に会話が記されていて、その中に「じゃん」が出てくる。静岡県清水市が舞台のマンガ、ちびまる子ちゃんの中でもおばあちゃんだけ「じゃん」を使うことがあるそう。東海道線各駅で調査した結果でも、静岡県で早く広がったと見られる。

このような資料から、横浜よりも前に東海地方で使われていて、東海道を通って横浜に入ってきたと考えられる。

横浜の港や宿場町を通ってきたものが、東京までたどり着き、そこから関東、全国区に広がるケースが多いのだとか。

横浜で「じゃん」が使われるようになり、広がったのは1960年代頃から。60年〜70年代にかけて近郊にも広がり、品川区や太田区で使われていた記録もある。まだその頃は、足立区や板橋区では使われていなかったので、横浜に近い方面から東京に広がったと思われる。

今では広島県でも使われることが増え、平成16年の観光用ポスターのキャッチコピーに「ええじゃん広島県」と書かれたことがあった。かつては、30年前頃に瀬戸内の女学生が「じゃん」を使っていた記録も残されている。

これは意外。全国に広がっているようだ。

同じように「横はいり」も中部地方で使われていたものが、横浜に入ってきたものだという。
東京では「ズルコミ」と言っていたとか。

それでは、なぜ横浜発祥というイメージが付いたのだろうか?

井上先生に方言の定義として伺ったように、言葉が方言として定着するには、その言葉を使う人数が重要となり、大人数で使わなければ確立されない。

「じゃん」は、横浜では昭和初期から使われ始め、だんだんと定着し1980年代に流行した。横浜のように、昭和の高度成長期にこれほどの大都市に発展したケースは珍しく、「じゃん」を使う人数も多かった。そのため方言として定着したと考えられるそうだ。

また、80年代は港町やロックバンドの横浜銀蝿に憧れる人も多く、全国的に「横浜はかっこいい」という印象があった。そんな中、自信を持って「じゃん」を使う横浜の人を見て、横浜発祥というイメージが強くなったのではないかとのこと。

■横浜オリジナルの方言は無いのか!?

「じゃん」「横はいり」とも、他県から流れてきた言葉という事実にショックを隠せない記者。せめて1つくらい横浜から生まれたオリジナルの方言はないものかと、先生に尋ねてみたのだが、残念ながら横浜発祥と言い切れる方言はないんですよ、と先生。

ただ、横浜発祥のものはなくても、方言にまつわる横浜のよもやま話は色々あるんですとのこと。

横浜は港町で、海外から最初に伝わったものも多く、外国人と接する機会があったため、横浜から始まった、外国語由来の言葉があるといわれる。

例えば、建物の上に雨除けで作られる「上屋(うわや)」は、「上ハウス」という意味と勘違いして「ウエアハウス(warehouse・倉庫)」が訛ってできたなどの説がある。

他に、昔は洋犬のことを「カメヤ」と言っていたが、これは外国人が犬を「Come here!」と呼んでいたのが「カメヤ!」に聞こえ、洋犬のことをカメヤ・カメというものだと勘違いしたらしい。

これらは、色々ある説の1つとして聞いていただきたいとのこと。


今度は、先生から質問。

横浜でも「〜じゃね?」って使いますか?
「『そろそろ時間、やばいんじゃね?』とか使いますよ。高校生とか、若い子の方が使うと思いますが」
と答えると「これは北関東から入ってきた方言です」と衝撃発言!

「ない」が「ね」に変わるのは西日本ではなく、関東ならではの使い方だそうだ。「行かない?」→「行かね?」など。

北関東が発祥で「じゃない?」→「じゃね?」に変わり、これは「じゃん」と真逆のルートで北関東から東京に入り、横浜にも広がったそう。

若者を中心に広がった方言を「新方言」と呼ぶが、「じゃね」も新方言の1つなのだという。

若者は最新の流行り言葉のように、「じゃね?」を連発しているが、ただの北関東訛りだったのだ。栃木県出身のお笑い芸人、U字工事は「神奈川県は関東のエース」と言っていたが、まさかエースが北関東をリスペクトしていたとは・・・。
こんなところにも方言のおもしろさが隠れていた。

■取材を終えて

ふだん何気なく使っている言葉だが、ルーツを辿ると意外な発見があり、さらに興味が湧いてきた。各地の出身者に「じゃん」「横はいり」「じゃね?」を使うか聞いてみると、盛り上がるかもしれない。

「じゃん」は横浜発祥ではなかったが、ハマっ子が自信を持って使っていたから横浜から広まったのだと聞き、これからも誇りを持って使えばいい“じゃん”と思った。

(参考)
■井上史雄「新方言辞典稿・インターネット版」(1996年版)
■地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺 ―第27回「古株じゃん 新米じゃね」

井上 史雄
明海大学、外国語学部・日本語学科教授。
専門は社会言語学、方言学。NHK放送用語委員、(文学)博士。著書に「方言学の新地平」、「辞典(新しい日本語)」などがある。
 

※本記事は2011年9月の「はまれぽ」記事を再掲載したものです。

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