組織に所属する者にとって、必ず訪れる「前任者からの引き継ぎ」という局面。そこには当然成果が求められるが、その「成果」は、前任者の功績と比べられた上での判断であり、前任者が成功していればいるほど、自分が窮地に追い込まれるという理不尽なものだ。

「後釜」の成功と失敗、その境界線はどこにあるのか。ここでは、前任者の失敗や低迷といった“負の遺産”を背負っての船出のケースを紹介しよう。

 この事例を考える際には、ある企業のケースが参考になる。先頃、新型iPhoneを発売して話題になったアップル社だ。今でこそ栄華を極める同社だが、一時はどん底まで低迷していた。窮地に陥り始めたのは1985年頃の話だ。

 当時、前年の需要予測に失敗、初の赤字を計上した同社は、会社の創設者で信奉者から神とまで崇められるスティーブ・ジョブズ氏が経営を混乱させていると判断。ジョブズ氏を追放し、立て直しを図った。

 そして、ジョブズ氏の後釜に座ってアップル社の舵を取ったのが、ペプシコーラからジョブズ氏に引き抜かれた、ジョン・スカリー氏だった。

「しかし、現在のアップルの成功から見れば、このスカリー氏とそれに続く社長たちが、長きにわたる低迷を招いたとみられています」(アップルに精通するジャーナリスト・西田宗千佳氏)

 スカリー氏は、アップルの代名詞でもあるパソコン「マッキントッシュ」以外の商品開発に拘り、技術者と対立、社内の不信を招き、業績が低迷する。さらにその後釜に座ったマイケル・スピンドラー氏も低迷に歯止めをかけられず、いかにアップルを高く売却するかしか念頭になくなる状態にまで落ち込んだ。これはまさに、前任者の否定による失敗だろう。

 こうした“焼け野原”からの復活を託されたのが、1997年、CEOとして復帰したジョブズ氏だった。

 ジョブズ氏による、鬼気迫る部下への叱咤に関する逸話は、枚挙にいとまがない。要求する水準に応えられない部下を次々とリストラし、「スティーブされた(クビになった)」という言葉が社内で飛び交った。しかし、復帰後のジョブズ氏が、iPodやiPhoneで大成功を収めて見事に再建して、今に至ることはもはや説明を要しない。

 そして赤字続きであった同社負の遺産を清算すべく、自らの給与は1ドルだったという逸話は、今や伝説となっている。経営学者の長田貴仁氏が語る。

「一代で創業したカリスマ社長と、後任のサラリーマン社長では周囲が向ける目線は異なりますが、部下はこの人は社員のために犠牲になる人なのかを見極めている。自分の給料を過度には貰わないという気概を見せれば、新規事業を開拓したり、多少無茶なことをしても社員はついて行こうという気持ちにもなれる」

 これはトップのケースではあるが、成功を導くのは、常に自己犠牲の精神であることは共通しているのかもしれない。特に焼け野原からのスタートでは、要求が高くなる分、各々の謙虚な姿勢が求められる。

 ちなみに、ジョブズ氏の後継者となった現在の同社CEO、ティム・クック氏の手腕については、「生前のジョブズ氏が引いた既定路線を引き継ぎ、大成功とはいえないまでも、まずまずの成功を収めているといえる」(西田氏)との評価だが、“後釜の評価”が定まるまでにはもうしばらく時間がかかりそうだ

※週刊ポスト2013年10月11日号