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「鍋焼き」と聞いて思いつくのは「鍋焼きうどん」だろう。面白いことに高知県須崎市では、「鍋焼きラーメン」という戦後の食糧難の時代から現代まで、材料も調理法もそれほど変えずに愛され続けているご当地麺がある。今回はそんな「鍋焼きラーメン」を少し掘り下げて紹介しよう。

○土鍋の中でぐらぐら煮立つラーメン

薀蓄(うんちく)は後回し。まずは食べてみないとダイレクトにその魅力は伝わってこない。ということで、地元タウン誌の記者T氏のオススメをもとに、昭和レトロなムードで人気の「すさき駅前食堂」に入ってみた。

多くの地元客でごったがえしている中、「鍋焼きラーメン」をオーダーして少し待つと、その中にラーメンが入っているとは想像しがたい土鍋が運ばれてきた。筆者のような県外の人間にとって、ラーメンがぐらぐらと煮立っているというのは驚きでしかない。「グラグラしてるんだけど、味や風味が飛んでるんじゃないの?」「大丈夫なの?」この店を紹介してくれたT氏に問いかけると、「どの店もこの状態で運ばれてくるんですよ」と笑顔で箸を渡してくれた。

そうなのかあ? どんぶり以外の器でラーメンを食べるというのも不可思議な体験だが、おそるおそるスープを口に運んでみた。うん。素直においしい。ダシは鶏がしっかりと利いた醤油系だ。そして具材はとてもシンプル。ちくわに細切りにしたネギ、底に鶏肉、そして生卵がポンと乗っかっているだけなのである。

麺はちょっと硬め。ぐらぐらに煮えているスープなので、食べているうちにちょうどよく柔らかくなってくる。熱さで卵の白身が固まりかけてきたら、真ん中の黄身をほどよく解きほぐし麺に絡めて食べる。すると、すき焼きのようでうまいのだ! ちなみに、「すさき駅前食堂」の鍋焼きラーメン「須崎のラーメン」は、並盛りで600円であった。

それにしてもこの具材。よくご覧いただきたい。近年、高級な地元食材をふんだんに使ったご当地ラーメンが幅をきかせる中で、この材料は素朴といえばあまりにも素朴だ。主力の具材がちくわにネギ。その辺のスーパーに普通にあるような素材ばかり。しかも高知県の須崎市が、特にこれらの食品の名産地というわけではない。

●infomation

すさき駅前食堂

高知県須崎市原町1-5-20

○熱狂的なファンの声で復活

「須崎の鍋焼きラーメン」とは一体どのような由来の商品なのだろうか? その歴史をダイジェストで巡ってみよう。そもそも鍋焼きラーメンの発祥の店は、戦後まもなくに開店した「谷口食堂」と呼ばれる路地裏の店だったという。店主である谷口兵馬 (たにぐちひょうま)さんは出前する際に、「ラーメンが冷めないように」ホーローの鍋でラーメンを出すようになった。これが、この独特の器が誕生するきっかっけだったという。

ラーメンに入れる具材も、当時は戦後の食糧難の時代だ。当然、周囲で調達できるものに限られていた。そこから今に至るネギ、卵、ちくわの材料が生まれたのだという。スープについては、偶然この「谷口食堂」の斜め前が鶏屋であり、分けてもらった鶏ガラや廃鶏を使ったスープが利用されたのだという。

この元祖「谷口食堂」。ご主人が亡くなったのを機に奥様が受け継がれていたが、昭和55年(1980)に惜しまれながらも閉店となった。しかし、地域にはラーメンの熱狂的なファンが多く、「いまだにあの味が忘れられない」という人々を中心に、リバイバル運動が巻き起こる。

時は流れ、「なかがわ」「橋本食堂」「下元食堂」など徐々に鍋焼きラーメンを提供する店が増えていき、ついに2002年には須崎商工会議所が「鍋焼きラーメンプロジェクトX」を発足。今では40軒あまりのお店が鍋焼きラーメンを提供しているというのだ。

○汗を流しながらいただくあっさりの一杯

続いて、エリアの人気店のひとつ「橋本食堂」に入ってみよう。土曜日の午後ということもあり、こちらも観光客や地元客で店内は賑(にぎ)わっていた。カウンター席に腰掛けて、525円の「鍋焼きラーメン」を注文する。

麺は細いながらもしっかりしたコシだ。グツグツ煮えたぎるスープの「鍋焼きラーメン」を、クーラーの効いた店内で、汗を流しながら食べるのが須崎っ子のスタイルということで、入り口上には巨大なエアコンも装備されている。スープはあっさり味だったが、鶏のうまみが逃げることなくしっかり生きている。

●infomation

橋本食堂

高知県須崎市横町4-19

○次世代としてカレーやキムチも

同行していたT氏が、「カレー鍋焼きという人気メニューのある店が、このすぐ近くにあるんですよ」と声をかけてくれたことから、もう一軒。その「カレー鍋焼き」が食べられると噂の「まゆみの店」へ足を向けた。この店は前述した「橋本食堂」から徒歩圏内にある店だ。

従来は醤油ラーメンのみであった鍋焼きラーメンに、まゆみの店は「カレーラーメン」「キムチラーメン」といった味のバリエーションを加えるなど、次世代型・鍋焼きラーメンの専門店として評価されているのだという。「カレー鍋焼きラーメン」(900円)をオーダーすると、懐かしくスパイシーなあの香りとともに、どかんと鍋が登場。

一般に、鍋焼きラーメンにはなぜか一緒にたくあんが提供される。たくあんの酸味で口の中をさっぱりさせる口直しの要素が強いようだが、この店でも同じく土鍋の上にちょこんと載ったタクアンがユーモラスだ。

肝心のカレー鍋焼きラーメンだが、その香りからかなり本格的に仕込まれたものであることが分かる。鶏ガラや肉の染み込んだ味に、カレーならではのスパイシーさが加わった刺激的な味わいだ。トッピングは定番の生卵、ちくわ、ネギ、親鶏の肉に加え、この店では牛肉も加えて煮込まれていた。「まゆみの店」はエリアの評判通り、独自の路線で成功した店舗といえるだろう。

●infomation

まゆみの店

高知県須崎市栄町10-14

以上、ざっと駆け足で3店舗を紹介したが、エリアにはまだ他にもすばらしい「鍋焼きラーメン」の名店がたくさんあるという。是非、あなただけのお気に入りの一店を見つけてほしい。

(OFFICE-SANGA)