米国の金融緩和縮小・停止観測の減速で、金の買い戻しは増加へ
一時は1200ドルを割ったニューヨークCOMEXの金先物相場だが、7月下旬には1300ドル台を回復。この背景には、ファンドによる大量の売り建てを買い戻す動きとFRBのバーナンキ議長の発言が複雑に絡んでいた。


前号では、大口ファンドが金先物市場のニューヨークCOMEX(商品取引所)で、「取引解消の売り」に加えて「将来の下げを見込んだ売り建て」を積み上げた結果、その規模は383トン(執筆時点)と過去最大規模になっていることに触れた。このため私は、これだけの量の金先物の一部が買い戻されることによる金価格上昇を見込んだ。

その後、売り建ては7月上旬に446トンまで膨らんだ。この一部が買い戻され始めたことで、COMEXの金先物価格は上昇基調に転じ、7月下旬には1300ドル台に乗せた。

売り建て増加の背景にあったのは、FRB(連邦準備制度理事会)のバーナンキ議長の発言内容だった。量的緩和策の縮小の時期に言及するものが初めて加わったのは5月22日だが、金市場ではこれを境に「下げを見込んだ売り建て」が加速。当然ながら金価格も下落した。その結果、四半期末の6月28日には瞬間的に1200ドルを割ったのだが、そこからは売り建てが増えても下げづらくなっていた。

中国などアジア関係の旺盛な実需が支えた面はあるが、私は風向きの変化を嗅ぎ取った一部のファンドが買い戻しにかかったとみている。

5月のバーナンキ発言は、日本株を下落させ、新興国にも波紋を呼び、世界的な混乱をもたらすことになった。米国内では米国債まで売り叩かれ、長期金利が急騰するという事態にまで発展。これに慌てたのが当のFRBだ。FRBの理事や各地区の連銀総裁などの高官が、「緩和策縮小は差し迫ったものではない」と入れ代わり立ち代わり発言し、火消しに躍起になった。そしてバーナンキ議長も7月10日の講演で、「米国経済にはきわめて緩和的な金融政策が必要だ」と発言。さらに翌週の議会証言では「緩和策の縮小を判断するのは時期尚早」とした。米国経済の指標の中には、やや減速を示すものも散見され、高まっていた緩和策縮小・停止観測は一般的にしろ後退する状況にある。

金市場は年始から大きく下げてきたわけだが、実はこのいわば「出口論議」をいち早く織り込んできた経緯がある。今後の焦点は9月のFOMC(連邦公開市場委員会)にて縮小に着手できるのか否かということ。できるのであれば、金は1200ドル方向に下げ、できなければ買い戻しで上昇となる。

亀井幸一郎(KOICHIRO KAMEI)
マーケット・ストラテジィ・インスティチュート代表

中央大学法学部卒業。山一證券に勤務後、日本初のFP会社MMI、金の国際広報機関WGCを経て独立し、2002年より現職。市場分析、執筆講演など幅広く活躍中。




この記事は「WEBネットマネー2013年10月号」に掲載されたものです。