マンU香川真司、今季プレミア初先発。出場時間45分の意味
マンチェスター・ユナイテッドの香川真司がウェストブロムウィッチ戦に今季リーグ戦初先発。だがそのプレイはわずか45分間で終了した。下げられた後半はベンチに姿を現さなかったため、負傷したのかとの憶測が記者席を飛び交ったが、それは杞憂だった。
「ケガではないので。まあ前半、ぬるっとした感じがあったので(代えられたと思う)......」
香川の口調は憮然としていた。
それもそのはず、前半にはいくつかのチャンスを作っていた。前半34分には香川の左サイドの突破から、アンデルソンがバー直撃のシュートを放つなど、決定的シーンも作った。ルーニーやキャリックとの関係からの崩しもいくらか見られた。それだけに期待感が削がれたような感覚だ。後半、香川に代わって入った18歳のヤヌザイがこれといったプレイを見せられなかったことも、落胆の原因だ。
0−0で試合を折り返したにもかかわらず、後半に入ってから先制され、一度追いつきはしたものの、最後は勝ち越された。結果は1−2。マンUはウェストブロムウィッチに、1978年以来、実に35年ぶりのオールド・トラッフォードでの勝利を献上した。これでは香川が憮然とするのも仕方がない。
「フィーリングは悪くなかったけど、ボールに絡む回数が少なかった」(香川)
後半、姿を見せなかったのが香川自身の意思だったことは容易に想像がつく。今季ここまで香川の先発は3試合で、フル出場はまだない。当初モイーズは「日本代表に行っていてここで過ごす時間が少ないから」と、出場機会が少ない理由を語っていた。だがこの3試合を見る限り、問題は時間ではなく、モイーズの香川への評価が決して高いとは言えないことだろう。モイーズはこの日も地元記者の質問に対して、こう答えている。
「真司には、自分に何ができるかを示すチャンスを与えられているということを感じて欲しい。彼のベストポジションは10番(的なトップ下のポジション)かもしれないが、日本代表でも彼は左サイドでプレイしている。彼にとって慣れていないポジションだということはない」
その言葉を聞く限り、香川は左でももっとやれるはずで、現在のプレイに納得していないということが伝わってくる。
「大会が多くあるので、各選手が切磋琢磨してくれることを望む」
つまり、まだまだだと言いたいようだ。
香川を左でプレイさせることが問題なのだと見るメディアもある。例えばデイリーメール(電子版)は「ファーガソンがドルトムントから香川を獲得した時には、将来的にルーニーにとって代わる存在だと見込んでいた。だがモイーズは、ルーニーを中心に考えている。香川を左として見ているが、彼には合っていない」と断言している。ファンからも香川の出場を望む声が少なくないだけに、起用法が問題だという意見である。ただしファーガソン時代も左で起用されることはあったわけで、ポジションだけが問題だとは言えないだろう。
あらためて言うまでもないが、モイーズのサッカーは、ファーガソンに比べてもさらにオールドスタイルだ。堅守速攻がベースで中盤は限りなく省略される。そのサッカーの中で、香川のような選手が個性を発揮しチャンスをつかむことは、至難の業なのかもしれない。
だが香川はここでプレイすることを選択し、成功を望んでいる。
「(前半だけでの交代は)何らかのメッセージだと思ってやるしかない。先は長い。でも、こういうチャンスをいかさないとここでは生き残っていけないこともわかっているから、ポジティブに捉えたい」と、香川は言葉を結んだ。
最初に口を開いたときの憮然とした様子から、少し割り切れたような、きっぱりとした口調にかわっていた。道が険しかろうが何だろうが、ここでやっていくしかない。そんな思いがあらためて確認された、45分間だったのかもしれない。
了戒美子●文 text by Ryokai Yoshiko