NY発 ファイナンシャルINSIDE_10月号
新興国からニューヨークへの要人訪問が相次いでいる。その目的は米国からの投資を誘致したいというもの。その背景には、量的緩和からの出口戦略を模索する米国の姿勢が新興国からの資金逃避を加速させているという側面がある。


金融の都と称されるだけあって、ニューヨークには世界各国の要人が集まってくる。最近、目立つのは新興国や新興国予備軍からの来訪者だ。筆者が確認しただけでも、ブラジル、メキシコ、レバノン、エジプト、ギリシャと、政府要人や金融機関幹部が春以降にマンハッタンを訪問し、ウォール街関係者やビジネスマンを集めた投資説明会を開いた。

各国の目的はズバリ?金集め〞。米国からの投資を誘致したいのだ。これらの国々に共通するのは、米国発の資金が流入して昨年まで経済や株式市場が好調、または最悪期を脱していた点にある。しかし、最近になってFRB(連邦準備制度理事会)が金融引き締め姿勢をチラつかせ始めたため、米国での金利先高観が強まり、米国からの資金が引き揚げられるリスクを感じ始めた。

分水嶺となったのは5月22日。FRBのバーナンキ議長が議会証言での質疑応答で、「出口戦略」を検討する時期を示唆。出口戦略とは、昨年末に発表したQE3と呼ばれる量的緩和策の解除である。QE3は計850億ドル相当のMBS(住宅担保ローン証券)と長期国債を購入する内容なのだが、バーナンキ議長は徐々に購入額を減らす意向を示した。6月18〜19日には金融政策を決めるFOMC(連邦公開市場委員会)が開かれ、その後の記者会見でも議長が出口戦略を紹介した。

真っ先に反応したのは、変動率の高い新興国市場だ。金利先高観がある場合、最初に売られるのは新興国株やジャンク債などのリスクの高い金融商品である。新興国の経済実勢を示す株価指数のMSCI新興国指数は6月に急落。足元は戻し基調だが、それでも年初から約1割低い水準で推移している。米国、日本、ドイツなど先進国の株価上昇とは逆行している。

新興国経済の頭打ちは他人ごとではない。7月初め、大手投資銀行ゴールドマン・サックスが昨年末から続けていた、「BRICs諸国での売上比率の高い米国株」への推奨を取り下げた。中国経済の減速を見込んだものだ。S&P株価指数構成銘柄の売り上げの5%程度が新興国にすぎないのだが、市場としてだけでなく、サプライチェーン、投資先として新興国は先進国企業の川上から川下にまで組み込まれている。

90年代後半のアジア危機が収まってから新興国は世界経済を牽引してきたが、足元の商品市況の調整は中国経済の需要減が原因であり、新興国のディスインフレが先進国に伝染している。決算発表シーズン入りした米国では、マイクロソフトなど業績面で失望されたIT関連が売り込まれており、その多くは新興国需要の飽和が原因である。

新興国経済の減退に加えて、足元では長期金利の上昇と金価格の下落も目立つ。くしくも、今年は10〜30年単位の経済循環が並行して逆回転し始めており、そのどれもこれもに基軸通貨国である米国の政策転換が作用しているようだ。

松浦 肇(Hajime Matsuura)
産経新聞ニューヨーク駐在編集委員

日本経済新聞記者、コンサルタントなどを経て現職。ペンシルベニア大ウォートン校、コロンビア大法科大学院、同ジャーナリズム・スクールにて修士号を取得。




この記事は「WEBネットマネー2013年10月号」に掲載されたものです。