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国鉄時代から電車に「モハ」(電動機付き普通車)・「クハ」(運転台付き普通車)などの記号があるように、客車にも記号があり、JR発足後も基本的に継承されている。たとえば寝台特急「カシオペア」で使われる記号は、「スロネ」(A寝台車)や「マシ」(食堂車)など。例外として、新幹線の車両やJR四国の新造車両では、これらの記号は使われていない。

JR九州の豪華クルーズトレイン「ななつ星 in 九州」は、10月15日の運行開始に先立ち、9月13日に専用機関車と客車を公開した。ここで客車の車両番号も明らかになり、「イ」という記号が与えられ、鉄道ファンを驚かせた。

しかしこの「イ」に対し、「イ論」……もとい、異論は出なかったようだ。「ななつ星 in 九州」に付与された記号「イ」とは、一体どういう意味だろうか?

○「イ」「ロ」「ハ」の時代、「ロ」「ハ」の時代を経て…

「ななつ星 in 九州」の客車は7両編成だ。形式名を挙げていくと、1号車は展望ラウンジの「マイ77-7001」、2号車は食堂車の「マシフ77-7002」、3号車から6号車まではスイート(2人用個室寝台車)の「マイネ77-7003」「マイネ77-7004」「マイネ77-7005」「マイネ77-7006」、7号車はDXスイートの「マイネフ77-7007」となっている。

2〜7号車に与えられた「イ」は何を表しているかというと、車両の等級だ。通常、普通車は「ハ」、グリーン車は「ロ」が用いられる。ちなみに3〜7号車の「イ」に続く「ネ」は寝台車を表しており、こちらは通常、B寝台車の「ハネ」、A寝台車の「ロネ」などが知られている。現在、JRの車両の等級はほとんどが「ハ」と「ロ」だ。「ななつ星 in 九州」の「イ」が意味するのは、「ロ」より格上の等級であるということ。つまり、車両の等級は上から「イ」「ロ」「ハ」の順となるのだ。

「イ」の付く客車が新造されるのは1950年以来、なんと63年ぶりだという。鉄道ファンも「イ」の復活に驚かされたけれど、「ななつ星 in 九州」の設備やサービスを考えると、従来のA寝台車より格段に上だから、「イ」の記号がふさわしいと納得したかもしれない。

1960(昭和35)年までの国鉄は3等級制で、当時の客車は1等車が「イ」、2等車が「ロ」、3等車が「ハ」と決められていた。由来はもちろん、「イロハニホヘト」のカナの順番だ。しかし1等車の利用が低迷したことや、電車特急の登場なども影響し、1960年に3等級制をやめ、2等級制となった。従来の2等車を1等車とし、従来の3等車は2等車に……、要するに、従来の1等車「イ」はなくなり、「ロ」が新しい1等車に、「ハ」が新しい2等車になったわけだ。

このとき、「イ」の付いた客車も「ロ」に変更され、「イ」の客車の時代は終わった。「イ」「ロ」「ハ」の時代から「ロ」「ハ」の時代になった。

もっとも、「イ」の付く客車が完全に消えたわけではない。1982年、大井川鐡道で展望車「スイテ82形」が作られた。JR西日本では1987年、博物館で静態保存されていた「マイテ49形」を復帰させている。ただし、どちらも改造車で、スイテ82形はもともと1等車として製造された車両ではない。当初から1等車として製造された最後の客車は、1950年に作られた「マイネ41形」(後のマロネ41形)だった。「ななつ星 in 九州」の客車は、それから63年ぶりに作られた「イ」。生粋の1等車といえる。

ただし、JR九州はこれらの車両を「1等車」とは呼ばないだろう。もとより「1等車」「2等車」という言葉も使っておらず、「グリーン車」「普通車」と呼んでいる。等級制だった時代と現在では、運賃の制度が異なるからだ。

現在は乗車券などで普通車に乗ることができ、グリーン車に乗るときは追加でグリーン料金を支払う方式だ。一方、等級制だった時代は、車両の等級によって乗車券や特急・急行料金が違った。1等乗車券の値段は2等乗車券の2倍、1等急行券は2等急行券の2倍に通行税も加算されたという。通行税は物品税の一種で、いわゆる「贅沢税」のようなものだった。

○「マ」と聞いただけで乗り心地を想像できる!?

「ななつ星 in 九州」のその他の記号も紹介しよう。「マ」は車両の重量を表す。車両が42.5トン以上47.5トン未満の場合が「マ」だ。これより重いと「カ」となり、47.5トン以上はすべて「カ」。この重量は客車よりも、客車に電気を提供する電源車に多かった。「カシオペア」のラウンジカーは「カハフ」で、客室の下に電動機を積んでいる。「トワイライトエクスプレス」の電源車は「カニ」だ。

「マ」より軽い客車は、「ス」「オ」「ナ」の順に軽くなっていく。「カシオペア」の寝台車は「スロネ」、「トワイライトエクスプレス」や「あけぼの」の寝台車は「オハネ」となっている。一方、「ななつ星 in 九州」はすべての客車が「マ」。客車としては最も重いクラスだ。それだけ内装に凝り、車重も増しているのだろう。もっとも、すべての客室に洗面とシャワー設備があるというから、水周り設備の重さも理由かもしれない。自動車も高級車になるほど重くなり、揺れの少ない乗り心地となるから、「ななつ星 in 九州」の客車もきっと、どっしりと重厚感があって静かな乗り心地だろうな……、と予想できる。

他の記号にも触れると、「シ」が食堂車、「フ」がブレーキ操作のできる設備(ここでは車掌室)付き。「テ」は展望設備付き、「ニ」は荷物室付きを示すが、「ななつ星 in 九州」の場合、なぜか展望設備のある車両に「テ」は付かない。1号車は「マイテ」、7号車は「マイネテフ」でも良さそうだ。もしかしたら、「両端の車両だけでなく、どの車両も展望は良好ですよ」という意味で、あえて「テ」を付けなかったのかもしれない。

客車の記号が理解できると、性能だけではなく、乗り心地や眺望まで想像できてしまう。「ななつ星 in 九州」での旅は想像通りか? いつか乗車できるまでのお楽しみだ。

(杉山淳一)