好きなのは「ジブリの狂気」。『もっと!』4号の特集が、狂気がかっていて実に面白い。ジブリをそれぞれの作家が自由に語ったり描いたり。愛情ではなく偏愛を詰め込んだ漫画雑誌になっています。

写真拡大

「ラピュタに行った時が人生のピークで、パズーは一生その想い出を反芻して生きる。炭鉱で働いて、パブに行って『俺はラピュタに行ったんだ、本当にあったんだ』って飲んだくれて、まわりに白い目で見られる」
「(ネコバスには)30歳の童貞なら乗れるってこと?」
わー。その考えはなかった。
マンガ業界5人がジブリ長編作品について、朝の3時まで落書きをする座談会で、『サナギさん』の作者施川ユウキがぶっちゃけます。
この飲み会のノリのトーク、わかる。わかるし「そういうのもあるよね」と楽しめる。
だって、ジブリ映画って会話の共通項だから。

秋田書店の季刊誌、『もっと!』4号の特集がおかしくて(褒め言葉)話題になっています。
総力特集が「ジブリの狂気が大好き(ハート)」。
題字はジブリの名物プロデューサー、鈴木敏夫。
ジブリ×人気マンガ家、本気の二次創作てんこ盛り 「もっと!」の特集「ジブリの狂気が大好き」がアツい - ねとらぼ

最初「狂気」って文字を見た時、ゾワッとしたのですが、これは正しい。
というのも、11月19日から公開の、ドキュメンタリー映画『夢と狂気の王国』にかけているから。
思えば、スタジオジブリの映画は、宮崎駿・高畑勲・鈴木敏夫の3人のみならず、全体を通じて夢を作るために狂気が渦巻いている。
それらについて、あえて漫画家達が、原体験としてたどってきたものを掲載する、という、二次創作と随想の中間のような一冊になっています。

●私のジブリ体験
一番の見所は、様々な漫画家の描く、自分のジブリ映画体験エッセイ漫画。
石黒正数は『魔女の宅急便』をいかにして封印したかを描いています。石黒先生、これって『それ町』のエビちゃんじゃないですか!
磯谷友紀は、ジブリ映画の「メガネお父さん」の魅力を語ります。ピンポイントだな! 堀越二郎はまだ若いのでもうちょっとお年をめすとよいそうです。
強烈なのはサメマチオの『火垂るの墓』への思い入れのエッセイ漫画。よくネットでも言われる「確かに泣けるけど、清太は傲慢なんじゃないか」という意見に対して、 年齢ごとに考え方が変わってきた経緯が描かれています。
これはぼくもずっとモヤーっとしていた部分だったのですが、なるほど面白い。
ぜひとも自分がジブリ映画を見た時の体験と照らしあわせて読んでみてください。
最初に挙げた漫画関係者5人ぶっちゃけトークの「これは好き」「これは好きではない」というのもあわせてみると面白いです。そうそう、ジブリだから全部好きというわけじゃないんだよね。

●作家陣によるイラスト競作
ってかさ。
『坂道のアポロン』の小玉ユキが、『風立ちぬ』の二郎と本庄を描くとかさ!
それだよ、それ見たかったんだよ。
正確にはスタジオジブリ作品ではないですが、『風の谷のナウシカ』のクシャナ殿下を石黒正数が、ナウシカを花沢健吾が描いています。これがまたものすごいクセが強く、ああこういうふうに見ていたんだとジワジワきます。
磯谷友紀のファンタジー感あふれる『魔女の宅急便』のキキもかわいらしい。これも特に女性にとっては、年齢ごとに見え方の変わる作品。
二次創作に見えますが、どちらかというと「漫画家として、私はこうジブリ映画を見ています」という咀嚼をして、あえて形を変えて描いているのがいいんです。

●漫画のキャラもジブリを語るよ
驚いたのは、特別描きおろしだけじゃなくて、作品そのものにジブリを混ぜ込んだ漫画がいくつかあること。
施川ユウキは『サナギさん』のキャラがラピュタや魔女の宅急便の話をしている、という漫画を描いています。これはファンなら必見。もちろん施川ユウキ的な切り口なので、かなりびっくりな展開続きですが、愛は感じます。
クール教信者も『ホロビクラブ』でキャラクター達がダラダラとジブリ映画話をしているという、まるで『げんしけん』を地でいくような作品を描いています。
1ページ目で「一番かわいいヒロインは誰です?」という会話で「お前はどうせフィオだろ。水泳シーン大好きだもんな」という会話が入っていたので、ぼくは固く握手をしたくなりました。フィオはベストオブジブリヒロインだよ。
ジブリ映画がテレビで放映されると、Twitterで大いに盛り上がるのですが、それと同じことを漫画キャラとやっている感覚、楽しいです。

●狂気の世界に切り込む
「ジブリ大好き特集」じゃないんです。「ジブリの狂気が大好き特集」。
そこを作家陣も編集もわかっており、ただ「いいよねー」で終わっていません。
じっくりしみじみ感慨深く味わう部分もあれば、これどうなのという批判も載っています。
また、大人になってから心に引っかかる奇妙な部分、あれはなんだったのか?というのをそれぞれ語っている。スタジオジブリが、宮崎駿だけでなく、高畑勲や、後継者の監督達、鈴木プロデューサーなどによって成り立っているのを知った上で、物語を見た時に、見え方が変わってくる。これを赤裸々に出しているのが面白い。
各々が作家として個性を出して語るのは、公式企画じゃなく、漫画雑誌だからできる企画です。
『かぐや姫の物語』の西村義明プロデューサーのインタビューも載っているのですが、これを読むと鈴木敏夫と高畑勲の狂気がかいま見えます。
「鈴木さんってめちゃくちゃ怖いんです。今でこそ丸くなりましたけど、僕が出会った頃はほぼ毎日激怒されてましたから。それで皆辞めていって、残ったのは僕しかいない」
「鈴木さんに相談しに行ったら、『お前の選択肢は2つしかない』と言われて。『高畑勲を監督に選ぶんだったら、映画の完成は諦めろ。映画を完成させたかったら、高畑勲を解任するしかない』と」
実は『かぐや姫の物語』は『風立ちぬ』と同時公開で、別館上映される予定だったもの。宮崎駿が高畑勲のことを「大ナマケモノの子孫」と言いつつ「悪口は限りなくあるが、他人が悪口を言うのは許さない」という言葉が、じわりとキます。
そういえば、宮崎駿引退記者会見でも何度も、高畑勲はこれからもやる気だ、と言っていたのが思い出されます。

●漫画雑誌としてのこだわり
近年は漫画雑誌で、毎号何らかの特集を組むのは珍しいこと。
昔は色々あったんですが、今は単行本を売るための雑誌というスタイルが多いです。
それはビジネスモデルとして正しいのですが、『もっと!』は「雑誌も一冊の本になろう」という姿勢がとても強い。
今回の「ジブリの狂気が大好き特集」も、全部がジブリじゃないんです。今までの連載はそのまま続いています。
そういう場合って大抵、前の方に特集記事全部寄せて、特集パートと常設パートを分けるのが常なのですが、この本違うんですよ。
踏み込んだインタビューや、漫画家の描くエッセイがある。それが連載の間に挟まっていて、あちこちバラバラに散りばめられているんです。
ジブリ目当てに買った人にとっては、一見「読みづらい」と思わせる構成です。
しかし、『もっと!』に掲載されている漫画って、変なの(褒め言葉です)が多いんですよ。
ぼくも最初は、まあジブリ特集読んどくかと表紙からペラペラめくっていたんですが、特集記事から特集記事の間に挟まっている漫画でふと、手が止まる。だって変なんだもん。
逆もしかりでしょう。ジブリに興味がない人がマンガを読む。次のマンガへとめくっていると、作家の個性むき出しなジブリエッセイが載っている。手が止まる。
気づいたら、最後の方に載っている全く無名の「赤いりんご賞」受賞作品の独特さに、心ひかれている。
紙の雑誌媒体であることを活かしたこの構成は、ちょっとすごい。特集にも、マンガにもひっかかれ、と言わんばかりに釣り針垂らされています。
今まで買ってなかった人も、ジブリ目当てにこの雑誌を買って、全然知らなかった作家の作品に惚れ込んでほしいのです。

沢山の人の会話の共通項である「ジブリ」を持ってきたことで、爆弾を落とした『もっと!』。
次の号どうするんだろう?という不安もあるのですが、漫画家がエッセイを自由に描いたり、作中キャラがその特集にあわせた動きをするのもアリなんだ、というのが見られたので、これは今後に大いに期待したいところです。
カルト的な作家さんが集まっている本なので、それこそテーマに沿った座談会とかももっと見たい。その作家さんのフィルターを通してアウトプットされるものがガシガシ見たい。
『もっと!』のこれからに期待高まります。
今号が永久保存版なんじゃなくて、毎号永久保存版にしてください。


『もっと! Vol.4』 2013年11月号

(たまごまご)