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名古屋大学(名大)は9月25日、国立極地研究所(極地研)、金沢大学、東北大学、東京工業大学(東工大)、米ロスアラモス国立研究所との共同研究により、地球磁気圏観測衛星「あけぼの」などの長期観測データを用いて、地球軌道上の宇宙放射線帯「ヴァン・アレン帯」の電子数を増やすために必要な太陽風の条件を明らかにしたと発表した。

成果は、名大 太陽地球環境研究所 宇宙プラズマ物理学の三好由純 准教授、極地研の片岡龍峰 准教授、金沢大大学院 自然科学研究科の笠原禎也 教授、東北大大学院 理学研究科 惑星・プラズマ大気研究センターの熊本篤志 准教授、東工大大学院 理工学研究科の長井嗣信 教授、ロスアラモス国立研究所のM. Thomsenスタッフ研究員らの研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、9月25日付けで米地球物理学連合速報誌「Geophysical Research Letters」に掲載された。

ヴァン・アレン帯は、国際宇宙ステーションのある高度約400kmの低軌道から、ひまわり衛星などが運用されている高度約3万6000kmの静止衛星軌道付近まで存在している宇宙放射線帯だ(画像1)。このヴァン・アレン帯に存在する電子数が増えすぎると、気象衛星や放送衛星の障害が起こりやすくなってしまう。過去には電子数が増えた際に米国の通信衛星が障害を起こし、その後数箇月間、復旧しなかった例なども報告されているほどである。従って、ヴァン・アレン帯の電子がいつ、どのぐらい増えるのかを予測することは、人類が宇宙を安全に利用するために重要というわけだ。

そんなヴァン・アレン帯や地球の磁力線などを描いたイメージイラストが画像1だ。今回、重責を果たしたあけぼのも描かれている。地球から出ているラインが地球の磁力線で、その周囲の黄色い部分がヴァン・アレン帯のエネルギーが高い電子を表している。また手前の螺旋状のものは、電子のエネルギーを高める宇宙電波「コーラス」を表す。コーラスは音声に変換すると、小鳥のさえずりのように聞こえるのが特徴の電波である。

また地球を取り巻く宇宙空間は、しばしば太陽からのプラズマの嵐である「太陽嵐(宇宙嵐)」に見舞われ、この時のヴァン・アレン帯の電子数は通常時の10〜100倍以上に増えることが知られている。ただし太陽嵐が起きたからといって、必ずしも電子数が増えるというわけではない。太陽嵐と電子数の関係は複雑であり、どのようなメカニズムによって電子数の変化が決まっているのかは、これまでのところわかっていなかったのである。

そこで三好准教授らは今回、1989年に当時の文部省宇宙科学研究所によって打上げられ、今でも後継組織の宇宙航空研究開発機構が運用中(日本最長寿衛星、ヴァン・アレン帯観測衛星としては世界最長)のあけぼのを初めとする人工衛星の長期観測データを用いて、地球に到達する太陽風(画像2)とエネルギーの高い電子の関係を統計的な解析を行った。

その結果、(1)太陽嵐時に電子数が増えるためには、スピードの速い太陽風の中に南向きの磁場が含まれていること、(2)この時、数日間にわたって宇宙電波「コーラス」が強く発生しやすい状況になり、電子数が増えることを示したのである(画像3〜5)。つまり、スピードが速く、南向きの磁場が含まれている時には、80%以上の確率で電子数の増加が起こることが判明したというわけだ。また、この様な状態の時には、オーロラの活動も数日間にわたって活発になっている。

今回の成果は、以下の3点とした。1つ目は、宇宙天気予報の新たな手掛かりとなる成果。今回の成果から、ヴァン・アレン帯の電子数の変化を予測し、宇宙天気予報の精度向上に貢献することが期待されるとしている。2つ目は、長寿衛星あけぼのならではの成果。今回の研究は、世界で最も長く24年間にわたってヴァン・アレン帯で観測を行っているあけぼのの長期データによって初めて可能となったものであり、日本の人工衛星のユニークな成果だ。

そして3つ目は、2015年度に打上げ予定の「ジオスペース探査衛星(ERG)」につながる成果とする。ヴァンアレン帯の電子数が増える仕組みの詳細を解明することを目的として、2015年度に先頃初号機の打上げが成功したイプシロンロケットの2号機で、日本の科学人工衛星ジオスペース探査衛星が打上げられる予定だ。今回のあけぼのの長期データを用いた統計的な解析の結果により、ジオスペース探査衛星による素過程の発見に向けた、観測計画の立案にも大きな貢献が期待されるとしている。

(デイビー日高)