『ウォーム・ボディーズ』監督:ジョナサン・レヴィン/出演:ニコラス・ホルト、テリーサ・パーマーほか/配給: アスミック・エース/原作:アイザック・マリオン『ウォーム・ボディーズ ゾンビRの物語』(小学館文庫刊)/9月21日2D全国ロードショー

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今年2月に全米第一位を記録したロマンティック・ゾンビ・コメディ(英語だとRom Zom Comといい、ジャンル名として普通に使われている)「ウォーム・ボディーズ」の劇場公開が9月21日から始まった。

主人公のRは廃墟と化した空港に住み、姿勢や顔色の悪さを気にしたり、自分はこのままでいいのかと悩んでいるゾンビ。襲撃のときに出会った人間の女の子ジュリーに一目惚れして、住処にしている空港まで連れて帰ってくる。

これは今までのゾンビ映画にあった暗黙のルールを破っている。ゾンビはふつう人間を襲うことだけ考えているモンスターだ。世間体を気にしたり、他人と仲良くなったりしない。確かに集団で襲ってくるが、たまたま近くにたくさんいただけだ。人間の形はしているけど、人間ではない。自然災害のように冷酷な存在だった。

だから、女の子に話しかける前に「キモくなるな、キモくなるな」と自分に言い聞かせたり、友達と「腹ペコ」「ま…街」と言い合ってみんなで街に繰り出すゾンビを見ていると、笑ってしまうけど納得できない気持ちもある。何でわざわざゾンビでラブコメをやっているんだろうか?

その理由は監督のジョナサン・レヴィン(代表作は日本でも劇場公開された「50/50 フィフティ・フィフティ」)のインタビューから分かる。レヴィン監督は、自分の心の殻にとらわれた男が女と出会う、というシチュエーションに惹かれるそうだ。なるほど「50/50」も男がガンにかかったことをきっかけに、見栄やこだわりを捨てて自分の本心に向き合う話だった。そしてゾンビもたくさんのルールにとらわれている。そう考えると「ウォーム・ボディーズ」でルールを破っていくゾンビの姿が、好きな女性のために自分の殻を必死で破ろうとしている男の姿に重なって見える。

だからといって、あまりにゾンビらしくないとただのパロディになってしまう。Rを演じるニコラス・ホルトは、その難しいバランスを見事に取っている。内心ではおしゃべりでも(他人に聞こえないがボイスオーバーでたくさんしゃべる)、手足の動きはぎくしゃくしているし、話すときも一つか二つの単語を必死に絞り出す。死後硬直した体をムリヤリ動かしている感じがする。

特に印象的なのは目だ。まったく瞬きをしない。そのままじっと見つめられると人間離れした不気味さがある。でも男から見ても美しい目元だから、その奥にはきっと品性や知性があるんだと思わされてしまう。

人間らしくあろうと努力するRに対して、世界はとてもあたたかい。人間っぽいからという理由でレコードを好んだり、たどたどしく話す姿をバカにするものや、人間を食べた過去を責めるものはいない。人間やゾンビの仲間もみんな良い奴ばかり。最初は理解しないけど、すぐに冷やかしながらも応援してくれるようになる。そして次第に深まるRとジュリーの関係に合わせて、人間とゾンビを隔てる世界の法則さえ変わっていく。

正直にいうとツッコミどころは多い。世界が崩壊したにしてはみんな小綺麗すぎるし、いろんな物事がとんとん拍子に進みすぎる。血や内臓もほとんど出ない。ふつうのゾンビ映画のシビアさを期待していたら生ぬるいと感じるだろう。でもこれはゾンビが出たらどうサバイバルするかのシミュレーションじゃない。ウサギやカメのようにゾンビが出てくるおとぎ話に近い。

そこにアクションもコメディも恋愛もバランス良く入っているから、ハートウォーミングな話が嫌いでなければ誰にでもオススメできる。ただ、ゾンビ好きな人は、これまでのゾンビのことはちょっと脇に置いといたほうが楽しめるかもしれません。(tk_zombie)