消費増税、電気料金の値上げなどが話題になっているが、実は国民保険の料金も上がっている。それも、場所によって金額は異なるのだ。

 東京都の石田英二さん(仮名、67)は、難病を抱える妻(67)と、体が弱く就労できない娘(38)の3人暮らし。運送業の仕事がふるわず、家計は逼迫している。

「世の中“アベノミクス”で浮かれていますが、私たちには無縁。仕事が減り、昨年は手取り所得は100万円程度でした」

 役所から送られてきた国保の通知書を見ると、今年度の支払総額は13万円で、前年度より2万円増えていた。石田さんの年金は年60万円。妻の年金は医療費に消える。所得税と住民税については、非課税世帯に該当するが、国保の保険料は支払わなければならない。

 東京23区の国保の保険料は、2011年度から算出方法が変わった。以前は住民税をもとに計算していた。それが、所得から33万円の基礎控除を差し引いた「旧ただし書き所得」が、算出のもとになった。変更後は、扶養家族や障害者・寡婦などの控除が適用されなくなり、一部の世帯では保険料が上がる。

「兄弟と同居しているので家賃の負担がないのは幸いですが、国保の保険料と光熱費を差し引くと、手元には月10万円しか残らない。家族3人食べるので精いっぱいです」(石田さん)

 石田さんに限らず、年収が少なく家族が多い世帯ほど、保険料が高くなる。10年度と13年度の保険料を比べたモデルケース(豊島区の算出)を見ると、年収200万円の年金で暮らす夫婦は、約2万2千円の負担増なのに対して、年収300万円の夫婦と子ども2人の4人家族だと、負担増額は約16万円にもなる。

 一方、同じ東京都内でも、23区とその他の市町村とでは保険料率が異なるため、同じ年収でも支払う保険料は違う。例えば、旧ただし書き所得が228万円で、40代の夫と30代の妻、子ども1人の家族3人の場合、東京都多摩市では保険料が年26万5440円のところ、葛飾区では年37万1760円。その差は10万円以上になる。

 なぜ、自治体によって保険料の差が生じるのか。国保の問題に詳しい、慶應義塾大学経済学部の土居丈朗教授が言う。

「一般的には会社を定年退職した後に、健康保険組合から国保に移ります。年齢とともに病院にかかる人が多くなるので、高齢者の加入率が高い国保は、その分保険料を上げないと、医療費をまかなえない構造になっています」

 地方の市町村の国保は、個人事業主よりも、会社を退職した高齢者(75歳未満)と、パートやアルバイトで働く非正規雇用など、所得の低い加入者が多い。保険料率を高くしてしまうと支払うことができない人が続出してしまうので、保険料率を低く設定し、税金を投入して赤字を抑える傾向がある。これに対して、高所得者が比較的多く住む都市部は、高い保険料率のまま、税金を投入しない自治体もある。

「過疎地で高齢者が多い自治体は、医療費が増大しすぎて、税金を投入しても支出に追いつかない場合もあります」(土居教授)

 この格差解消のため、政府の「社会保障制度改革国民会議」が、今年8月に打ち出したのが、「国保の運営主体を市区町村から都道府県に移す」という案だ。都道府県内の保険料が統一された場合、東京都では、保険料は年8万730円と見込まれる。だが、土居教授は言う。

「保険料を低く抑えているのは税金を投入して、住民が病院にかからないよう健診を充実させるなど、独自の対策がうまくいっている場合もあります。一律にすると、健全運営している自治体からは批判が出るでしょう」(土居教授)

AERA 2013年9月30日号