今年6月14日、27歳の誕生日を一週間後に控え涌井秀章投手は国内FA権を取得した。これにより涌井投手の移籍が確実であると断言しているニュース記事などもよく見かけるようになった。しかし筆者は涌井投手を信じるとともに、ここで断言をしたい。涌井投手は来季も必ずやライオンズのユニフォームを着ているだろう、と。

確かにこれまでの涌井投手と西武球団の間に生じていた摩擦は少なくはない。例えば女性問題がスクープされた際、西武球団が涌井投手を全力で守る姿を見ることはできなかった。この女性問題に関しては確かに涌井投手の不徳によるところが大きい。だが実際には涌井投手は悪い女に騙された被害者なのだ。確かにエースとしての品格を疑われるような失点ではあるが、しかし涌井投手は加害者なのではなく、あくまでも被害者だった。にも関わらず西武球団は涌井投手を守るどころか、逆に腫物に触るかのような態度さえも見せていた。もちろん筆者が知り得る情報の多くはスポーツ紙からによるものであるため、真実とは食い違っている内容もあるかもしれない。だとしても、西武球団の涌井投手に対する態度はあまりにもシビア過ぎたように感じた。

親会社の問題もあろう。西武HDは今、再上場に向けて足場を固めようとしている真っ只中にある。そんな時期にコンプライアンスを揺るがすような出来事が内部で起これば、当然会社としては慌てても仕方はない。だがそれはあくまでも涌井投手が加害者だったなら、の話だ。非常に乱暴な言い方をするならば、交通事故の被害者になって謹慎させられたようなものだ。例えはあまり良くはないが、しかし筆者個人の眼にはそのように映っていたのだ。

さらに以前の話としては、涌井投手は契約更改の際に西武球団と揉めたという過去も持つ。しかしその時の球団本部長は今は去り、その時の確執はもう残ってはないとされている。現に昨オフ、西武球団は誠意を示し涌井投手に対し複数年契約を提示した。だが涌井投手自身は自らの成績の不甲斐なさを顧み、単年契約を申し出た。これにより世間はFA権取得後、涌井投手は西武球団を出るという見方を強めていった。

意中の球団は横浜DeNAや、千葉ロッテだと書く記者もいるようだ。横浜は涌井投手が高校時代を過ごした土地であり、千葉ロッテには親交の深い大迫コーチの存在がある。さらには千葉出身という要素も大きい。だがそれを理由にFA移籍などはしないだろう。そもそも涌井投手の今季の推定年俸は2億2000万円だ。球団経営にそれほどの余裕はない千葉ロッテが簡単に手を出せるクラスの選手ではない。DeNAの場合は親交のある友利コーチが投手陣を束ねている。そのパイプや、資金力というものは確かに魅力的だ。だが優勝争いに加われない球団にわざわざ移籍するメリットはどれほどだろうか。

筆者が最も重視しているのは、18番という背番号だ。これは横浜高校、そしてライオンズの先輩である松坂大輔投手から受け継いだ非常に重い番号だ。18番の継承を球団から最初に打診された際、涌井投手は「16番を背負って来た選手も偉大な選手ばかり」という趣旨のコメントを出し、16番を背負ってきたかつての名投手たちに強い敬意を示し、この時は18番をすぐに継ぐことはしなかった。つまり涌井投手にはそれだけの男気があるのだ。

涌井投手は、偉大な先輩が背負っていた18番を簡単に脱ぐことはしない。筆者はそう確信しているのである。移籍するためのどのような理由があったにせよ、涌井投手はまずは男気を貫くはずだ。さらに投手コーチとの相性に関しても、杉本正コーチが来季も投手陣を担当する可能性はないだろう。杉本コーチは、前球団本部長が招聘したコーチだ。投手陣が芳しい結果を残せなかった今季の数字を見れば、杉本コーチの残留の可能性はない。そうなれば涌井投手との信頼関係が厚い石井貴コーチの存在感も大きくなり、涌井投手が蘇るための一つの要素ともなり得る。