日本企業のグローバル化が推し進められる中で、海外市場の成功に不可欠な要素としてグローバル採用が注目されている。人材ビジネスを幅広く展開するリクルートグループでは、「リクルートワークス研究所」内に、2013年4月に「グローバル労働市場研究センター」を設置した。海外の若者たちの働くことに関する意識調査など、グローバルな労働市場の現状を分析し、今後を展望している。同センターのセンター長である村田弘美氏に、日本企業がグローバル市場で成功するポイントについて聞いた。(写真はサーチナ撮影)

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 日本企業のグローバル化が推し進められる中で、海外市場の成功に不可欠な要素としてグローバル採用が注目されている。人材ビジネスを幅広く展開するリクルートグループでは、「リクルートワークス研究所」内に、2013年4月に「グローバル労働市場研究センター」を設置した。海外の若者たちの働くことに関する意識調査など、グローバルな労働市場の現状を分析し、今後を展望している。同センターのセンター長である村田弘美氏に、日本企業がグローバル市場で成功するポイントについて聞いた。(写真はサーチナ撮影)

――「リクルートワークス研究所」とは?

 1960年に創業したリクルートが40周年を迎えるにあたって、グループ内に蓄積した知見やデータをまとめ、「人」と「組織」に関する研究を行う機関として1999年1月に設立しました。当時は多様な働き方が注目され、労働市場が大きく動き始めた時期でした。企業と人、その両方に近いポジションに立つリクルートだからこそ得られる情報やデータを生かして、より働く人に近い立場で提起をしていこう、という思いでスタートしました。

――2013年4月にリクルートワークス研究所内に「グローバル労働市場研究センター」を立ち上げた狙いは?

 労働市場を研究し、今後を展望しようとすると、英米など先進各国の状況の調査が欠かせません。日本の労働市場は、様々な規制が強く残っていますが、英米の市場は完全自由化を実現しています。一方、ドイツやフランスなどは、日本に近い規制が残る国々です。これらの国々の労働市場を研究し、これからの日本の市場を考えるヒントを得ています。

 そこで、リクルートワークス研究所では、2000年から、毎年、先進各国の労働市場の変化について現地の労働市場関係者にヒアリングするなど、調査を定期的に行ってきています。日本でも大学のキャリアセンターなどとの議論を通じて、グローバルな労働市場についての研究を重ねてきました。

 そして、2012年の1年間は、リクルートワークス研究所の年間テーマとして「グローバル採用」に取り組み、アジアを含めた各国の採用事情について、幅広く調査を実施しました。ちょうど、日本の企業の多くも、「グローバルシフト」を唱えるようになり、海外への進出、また、海外の人材確保に動いています。

 「グローバル労働市場研究センター」は、海外各国の労働市場について専門的に研究する体制を明確にしようと立ち上げました。各研究員が一国を担当する“国担当”体制とし中国、インド、ベトナム、マレーシア、シンガポール、タイ、インドネシア、ミャンマーなどアジア主要国の他、北欧、米国、フランス、ドイツ、英国にも、それぞれ担当を配置しました。

――グローバル労働市場研究センターでは「グローバルキャリアサーベイ」を実施し、世界各国の若者の働く意識を調査していますが、その調査の意義は?

 アジア各国の20代、30代の大卒の若者が、働くことに対してどのような意識を持っているかを調べています。日本企業は、グローバル採用に積極的に動いていますが、アジアの若者の採用では苦労している話をよく聞きます。

 事前に各国の若者たちの働き方に関する意識を知って、それぞれの特徴に合わせたアプローチが重要になると思います。たとえば、インドは、カーストの影響や、宗教の影響など、地域に独特な文化がありますので、なかなかその実態が分かりませんでした。

 また、インドは、過去3年間に大学が1万5000校も設立されています。こういう状況は、日本では想像もできないと思います。さらに、IT業界の協定で、採用活動の解禁日に説明会が集中して実施され、その当日のうちに、学生の就職が決定してしまうという実態があります。知らなければ、優秀な学生を採用するチャンスすら逃してしまうのです。このような国ごとの就職活動スタイルについても、整理した情報が必要になってきています。

 ところが、実際に国内企業がアジアで人材を採用しようと考えた場合に、どのような採用手段が有効なのかわからないという状況でした。そこで、「グローバル労働市場研究センター」は、日本企業がアジアの人材を求める場合のゲートウエイになりたいと考えました。研究レポート等の研究成果は無償で提供し、また、企業の人事責任者の方々とともに考える、という研究スタンスをとっています。そもそも、「リクルートワークス研究所」は弊社が保有する調査やデータなどの知財の提供を通じて、社会への貢献をすることを設立目的の1つとしており、研究成果は多くの企業の活動にお役に立てていただきたいと思っています。

――アジアの労働市場の研究でわかってきた、日本企業がアジアで成功する秘訣は?

 多国籍企業のアジア地域における人材採用は、ここ5−6年の間に本格的なアプローチがはじまりました。先行した英米企業がようやく現地採用が軌道に乗ってきている段階です。現地では優れたソーサー(SNSなどのテクノロジーを駆使して採用候補者をリストアップする専任者)やリクルーターが育ち始めています。

 日本企業は、英米企業にやや遅れていて、現状は「作法をならっている」という初期の段階といえます。SNSを利用した採用活動など、採用プロセスにおけるテクノロジーの活用面では、2−3年遅れているという印象を持っています。

 たとえば、労働者の退職(転職)理由をみると、インドや中国では、より高い待遇を求めて自発的に退職することが当たり前ですし、ライバル企業に移る例も少なくありません。日本企業では、そのようなドライな転職に戸惑いを感じる部分があります。

 また、日本的雇用慣行、とくに日本流の採用の仕組みは世界の視点でみると特殊なシステムといえます。たとえば、世界では職業別労働市場でキャリアを形成していますので、日本の総合職採用という考え方には馴染めない。キャリアアップの仕組みは国によって異なります。

 大事なことは、その国や個人に合わせて柔軟な対応をすることです。日本でも、正社員に加え、パート・アルバイト、派遣社員など様々な働き方が実現し、フレキシブルワークという考え方が導入されてきています。今後は、従来の日本的な雇用慣行を残しつつも、個別にも対応するといったハイブリッド型の組織マネジメントの考え方が、より重要になってくると思います。

――これからの「グローバル労働市場研究センター」の活動は?

 今後、グローバル展開をする日本企業は増加するでしょう。多国籍で活躍する企業でも、現在のポジションに就くまでにはさまざまな成功や失敗を積み重ねています。多くの日本企業はその緒に就いたばかりですので、その国の政策や社会制度、企業や働く個人などのさまざまな事例、知見を私たちが提供することで、ゲートウエイとしての機能を果たしていきたいと考えています。その一歩として、人事責任者の方々と一緒に、今後のグローバル採用のあり方を考えていきたいと思っています。

 また、グローバルな労働市場は、中途採用が中心で、新卒採用が日本のようにシステム化されている市場はありません。ただし、アジア地域においては、日本的な新卒採用の文化が馴染みやすいのではないかと感じています。将来的には、日本の採用システムをアジア各地に輸出する支援ができないかと考えています。(編集担当:徳永浩)